326 村人、スゴロク券を入手する。
海外セレブが自分の下着ブランドに 『KIMONO』 と名付けたら、文化侵略だと騒いでいるというニュースを聞いてブッ込んだ話です。
別に 「外国人さま~♡」 なんて歪んだ思想は持っていませんが、有りとあらゆるジャンルで外国文化を取り容れてきた日本人が言うセリフかな? と、思ったので。
「ぜぇいっ!」
≪【イーストンの剣】を装備して、敵を100回攻撃達成。
【チンピラメンチ】会得≫
「……っと、スキルを会得した───けど、メンチ?? どんな意味だ?」
邪竜の手下である【ワイバーン】が
暴れていた事件から、因縁のあるイーストンとシーナ兄妹を探すキュア達。 目的地である【ロス村】に【扉】が無かったので、自らの足で向かう途中でキュアは新たなるスキルを得た。
「チンピラは……まあ分かるが」
「『メンチ』 とはミンチ肉の 『ミンチ』 の別名では在りますが……チンピラと繋げるなら、『睨み』 といった意味でしょうか?」
キュアと朱雀がスキル名の意味に首を傾げていると。
「ち、ちょっと良いか……?
キュアが凄く尊敬しているから、ピシッとした偉人を想定していたのだが……イーストンとやらはチンピラなのか?」
「上に 『ド』 が付くチンピラですよ」
「まー、ガラはちょっと悪いかなー」
キュアは【仮想現実装置】を拾うまで、魔ナシ差別でやさぐれていた。 最愛の妹クリティカルの事さえも蔑ろにしていた程である。 然れどイーストンの、例え何有ろうと妹を優先するサマを美徳と感じ改心したキュアは、彼を深く尊敬していた。
……それはまあそれとして、イーストンはチンピラであろう。
「が、ガラの良い差別主義者や犯罪者なんて幾らでも居るんだ。
人ガラと善悪は関係無いさ」
「後は───空中に浮かぶ妹の下着を覗く変態、でしょうか」
「こらっ、朱雀!
あまり彼の陰口を叩くんじゃない」
「はぁい」
「……ちょっと、いや、かなり会うのが不安になってきたのだが」
イーストンの諸々をクチにする朱雀を、 嗜めるキュアは会得したばかりのスキルを検証し始めた。 『睨み』 というのならばと、取敢ずその辺を彷徨いていたウサギ型の魔物を睨んでみる。
「【チンピラメンチ】!」
≪きゅい?≫
「発動しないな……ん?
どうした? 三人とも?」
意にも介していない様子のウサギ型の魔物に、キュアが次手を考えていると……妙に彼を訝しげに見つめる三人娘。
「今、キュアの目が光ったぞー!?」
「俺の目が……?
自分じゃあ分かんなかったんだが……」
「一瞬だが確かに青くなったな……!?」
「魔力の流れを感じました。
【チンピラメンチ】とは攻撃系スキルでは無く、魔法系なのでしょうか?」
「ふーむ……。
だが何故、成功しなかったんだろうな?」
キュアの目から出た青い光は、魔物へ届く前に消失したようである。 MPは充分であるし、キュア側に問題は無かった筈だろう。
「と、すると……敵に問題アリなのかな?」
「『睨む』 というのなら、相手の目を見ながらではないか?
ふふ……自分もガキ大将だった頃は、眼力だけで格下をビビらしてきたものだ」
「さすがだなぁ、ヘイスト」
「キュアには劣るがな」
色気の無い会話をする、年頃の男女。
嘗てキュアがヘイストの事を 『少年』 と間違え、その乙女心を傷付けた事件が在ったが……確実にヘイストも一因だろう。
低すぎる二人の恋愛 力
「では改めて……相手を睨みつつ、【チンピラメンチ】!」
≪ぎゅぴいぃ!?≫
ウサギ型魔物の視線を捉えてスキルを発動するキュア。 魔物は強者の圧をマトモに受け……『ナニか』 を落として逃げてゆく。 文字通り、脱兎の如く。
「おー!? キュアの目の青い光が、相手と繋がったぞー!?」
「そうか。 俺の目には、相手の目が光ったように見えたんだけどなぁ」
「……どうやら、チンピラが弱者を恫喝するサマをスキル化したようですね」
「イーストンとやらが、ますます仕様もな───いや、あの魔物は何を落としたのだ?」
シーナ以外の所で、カツアゲをしていない事を祈るばかりのイーストンは放っておいて……魔物が落としたのは、一枚のチケット。
「す……すごろ……く、【スゴロク券】と書いてるな」
「スゴロク?」
「1から6までの数字が書かれた立方体を対戦相手と交互に振り、出目の通りにコマを動かして目的地を目指す遊戯の一つですね」
「ふむ……実物を見ないと、何となくしか分からん。
【スゴロク券】の【鑑定】結果では、券を掲げると【スゴロク会場】とやらに行けるらしい。
……かっ、掲げてみて良いかな?」
「オモシロそーだなー!?
イイよなー、二人ともー!?」
邪竜と邪神と、その争いに翻弄されるイーストン・シーナ兄妹のイベントの最中───では有るが……。 子供と、子供と同年代の精神年齢の青年は、顔を赤く興奮させながら、神と年下の少女に願う。
「……主様の、良しなに」
「……まあ便利な魔法やスキルが入手出来るかもしれないしな」
「「やったー!」」
生暖かい日差しの如き視線の二人と、ワクワク顔の二人。
◆◆◆
「こ、ココがスゴロク会場か……」
【スゴロク券】を掲げ、スゴロク会場へと瞬間移動で遣ってきたキュア達。
そこは壁も天井も全てが金で出来ており、床は一級品の中でもさらに高価であろう感触の赤い絨毯が敷き詰められていた。
「スゴいなー?
なー、キュアー?」
「ああ……今までいろんな場所を旅してきたが、これはたまげたなぁ……」
会場には様々な人間が居た。
両手を掲げ、歓喜の雄叫びを上げるボロを纏った男。
酷く項垂れ、陰鬱な気配の金持ち風の女。
老若男女、貧富の差なく悲喜こもごもである。
「ま、まさかスゴロクとは……全財産を賭けた賭博勝負なのか!?」
『そんなァ事は有りませんよォ?』
領主館で働くまで貧乏だったキュアは、当然金銭を賭けた博打の経験などない。 会場の異様な熱気に躊いでいると……キュア達の後ろから、声が掛けられがる。
やたら甘ったるい女性の声だ。
「初めてのォ御客様ですねェ?
スゴロク会場へようこそォん。
ココで働くメイドの 『モェモェ』 でェェす♡」
「……メエメエさん?」
「……モェモェ、でぇす」
現実では耳馴染みの無い発音の名前に、暫し 『モェモェ!』『メエメエ?』 と続けるモェモェとキュア。
「い、いやいやいや……名前なんか如何でもいい!
メイド? 貴様、メイドと言ったか!?」
「えぇ、メイドのモェモェで───」
「おっ、おまえのようなメイドがいるか!」
スゴロク会場で働くメイド、モェモェの服はキュア達が働く領主館のメイド服とは違っていた。 具体的には、ホワイトブリムやパフスリーブなど一部原型は残るものの……短いスカートからハミでるナマ足と、大きく開いた胸元。
中々に目の毒で、キュアは先程の名前の遣り取りも、ソッポを向いたまま会話していた。
【ドラゴンハーツ】には様々な文化の服が存在するが、こんなメイド文化を侵略するような服など存在するワケが無い。
仮に、様々な文化が混在する異世界地球とて……こんな破廉恥なメイド服など存在し得ないだろう。
キュアは顔を別の意味で赤くしつつ、確信していた。




