325 村人、【名もなき集落】へ挨拶をする。
「あっ、キュアの御兄さんだ!」
「わー久しぶり!」
【扉】にて、木々に囲まれた北連山の奥にある【名もなき集落】近くへと転移してきたキュア達。 そこは普段、集落民が木ノ実を採集している小広場らしく、子供たちが木ノ実を篭へと運んでいた。
「久しぶり。 大事無いかい?」
「うん、僕達も大人達もみんな元気だよ!」
「キュア、この子達は?」
「ああ、斯々然々───」
嘗て、病に苦しむ妹シーナのため盗みを働いたイーストン。 【天空牢獄】に投獄されるも……キュアの協力も有って無事に脱獄し、その後も彼自身が病に倒れたり、彼の妹が半【ゾンビ】化した時もキュアは助け続けた。
全ての状態異常を癒やす治療薬、【竜の心臓】を探すため、【ゾンビ】と因縁ある【名を失いし神】と【名もなき集落】を調査。
【ゾンビ】に囲まれた子供たちと出会う。
「【名もなき集落】もまた、住民の大人達がほぼゾンビ化してしまい……この子達は、酷くショックを受けていたんだ」
「確か、その後にキュアが皆のゾンビ化を癒し……その子等も心が癒えたのだな?」
「そーだよ、鎧の……御姉さん?」
【名もなき集落】の大人達は、集落がゾンビ化の霧を被い───徐々にゾンビ化していく中、自分達の治療よりも子供達の治療を優先したのだ。
しかし大人達の決死の愛情は、子供達に 『自分達のせいで大人達がゾンビ化してゆく』 という罪悪感を植えつけてしまい、身心衰弱状態にさせてしまう。
邪竜、【キッズグリーンドラゴン】を倒して【竜の心臓】を入手したキュアは【名もなき集落】の集落民、イーストンとシーナ兄妹を救い、子供達の心も癒したのである。
「それでどうしたの、御兄さん?」
「ああ、手懸かり……という程でもないけど【ドラゴン】の動きを掴んだんだよ」
「そうなんだね。
僕、族長を呼んでくる!」
「じゃあアタシは御兄さん達を集落の中に案内するわ、コッチよ」
「すまないな、有難う」
ワッと動きだす、木ノ実を採集していた広場の子供達。 『フラグ』 だの、ゲーム的知識など無いので確信も無くクチには出さないが……イベントが進んだ事を何となく本能的に理解するキュア。 地球のゲーマーなら誰しもが持つアレである。
◆◆◆
「キュア殿、久しいな」
「ああ。
久しぶり、族長」
子供達に案内され、【名もなき集落】内の広場へとやってきたキュア達を快く迎えいれた集落の族長。 ……と、腰の武器に手を掛けて酷く警戒している集落の戦士達。
キュアを警戒している訳ではない。
……キュアの背後の、魔物にしか見えない【動く鎧】を警戒しているだけだ。
「みな、警戒するな。
キュア殿が連れているのだ、良からぬ者ではあるまい。
…………得体は知れんが」
「キュアの仲間のヘイストだ」
「故郷では、同じ場所で働いている仲間だよ。
色々あって鎧に取り憑いているんだ」
朗らかに 説明をするキュア。
「そうか……まあキュア殿の仲間には変わった者が多いからな」
「朱雀は神さまだからなー、言われちゃってるぞー?」
「希少種の魔人族である貴女には言われたく有りませんね」
「この二人と一緒にされたく無いんだが……」
どっちもどっちだ───という言葉を呑み込んだ集落民達は、族長が 『是』 だと言うので ヘイストを不問にして武器から手を離す。
「斯々然々───という訳で竜共に動きが見えたし、イーストンとシーナには渡したい物が有るんだ」
「そうか、だが入れ違いになったな。
兄妹とゾリディアは、【ロス村】へと向かったばかりだ」
「兄妹の故郷か……調べ物を終えて、帰ったのかな?」
「いや、【バイオ工場】の工場長とやらを連れていった【ロス村】の村長が帰ってきている筈だから、様子を見に……とな」
「なるほど」
【バイオ工場】から垂れ流された毒が原因でイーストンとシーナは病となり、キュアの活躍により工場は壊滅。 工場長は捕まり、責任をとり裁きを受けるため、私財を売却され領主の下へと【ロス村】の村長に連れて行かれたのだ。
そしてその時、工場の責任者が代わってから……世界で初めて【バイオ工場】に【ゾンビ】という魔物が出現したという。
【光燐神】に【光燐協会】が。
【黒鼠神】に【黒鼠教団】が。
【餓狼神】に【青狼】が。
【魔神】に【魔神の右腕】が居るように───
【名を失いし神】にも【邪神の使徒】が居る。 その 『代わった責任者』 は【邪神の使徒】である可能性が非常に高いと判断されている。
「なら俺達も【ロス村】へと行こう」
「そうか、歓迎も出来なくてすまないな」
「【ロス村】での流れ次第だと、またコッチにも来るだろうし……全て解決したら、またあの日のような宴会でもしよう」
「うむ、楽しみだ」
笑顔で別れるキュア達と、集落民達。