319 村人、【ライフイーター】を手に入れる。
「コレが【生命の台座】か……。
…………。
その……なあ?」
「なー?」
病弱な金持ちからの依頼を受けたキュア達。
ダンジョン化した廃城の敵を、圧倒的なLV差により容易く全滅させた彼等の前には、目的である凡そ千年間【ライフイーター】を飾っていた事により相応のHPを宿したという【生命の台座】が有った。
───が、彼等の表情は……目的達成した筈の 『それ』 ではなかった。
「……デカイな?」
「なー?」
明らかに剣を陳列する台座にしては広すぎたのだ。 試しに【ソウルイーター】であるヘイストが台座の中心へと行けば、剣より目立つという台座としての役目を果たしていないデザインであった。
乗ればHPが回復するので、本物には間違いないのだろうが……。
「例えば、ハルバートのような幅広い武器だったとしても……全然足りませんね」
「つまり……【ライフイーター】とは剣ではなく───」
◆◆◆
「───おお、コレだコレ!
コレこそ儂が探し求めた【生命の台座】よ!」
「では、お渡し致します」
【生命の台座】をキューブ化して【道具箱】へと仕舞ったキュア達は、【ロシマ】へと帰還。 依頼者へと渡した所で、サブイベントクリアの声。
☆【求む、長寿の法】クリア
『金7800』
☆動く王室を倒す
『ライフイーター』
☆廃城内の魔物を全て倒す
『金7000』
☆台座の消耗率を六割までに留める
『足ツボサンダル』
という、リザルトボードが出現。
本来なら【ドラゴンハーツ】初期辺りのイベントなので、安い賃金だが……まあそれは良い。
【生命の台座】は、ダンジョンボスの【動く王室】を倒すまでその部屋の一部であった。 上手くマヒ攻撃を使わないと、台座に宿る生命エネルギーを使ってダメージを回復されるのである。
しかしキュア達はLV差と数の暴力 (普通のプレイヤーは、『弱い御供』や『弱い使役』とだけで戦う) で回復される前に速攻撃破した。
結果、初めて見る【足ツボサンダル】とやらも無事入手出来たので、それも良い。
……だが。
「【ライフイーター】を持ち帰らせた連中より中々ヤるみたいだな。
また何か有ったら、アンタ等が依頼を受けてくれたら助かる」
「ははっ……有難うございます。
で、ではコレで」
ソソクサと依頼者宅を後にして、ホッと胸を撫でおろすキュア達が手に持つキューブは……先ほど入手したばかりのリザルト。
「キューブ、【ライフイーター】」
「あー……」
「やはり……」
「…………『鎧』、か」
月を思わせる、青銀の 『剣』 である【ソウルイーター】に対して───実体化したリザルトの【ライフイーター】は太陽を思わせる、橙金の 『鎧』 だったのだ。
ついつい、【ライフイーター】は【ソウルイーター】と同じく 『剣』 だと思いこんでいたキュア達は、なんとも言えない雰囲気になってしまう。
何故なら……。
「い、いやいや……自分は気にしていないぞ。
魔力吸収以外に、ちゃんと戦えるかも───なんて、そんな……なあっ!?」
「「「…………」」」
MP吸収能力しか無く、戦力として今一つだと感じているヘイストが【ソウルイーター】と兄弟姉妹の【ライフイーター】に取り憑けば、HP吸収能力で多少は戦闘力が上がるかも……と期待していたからだ。
しどろもどろになるヘイストに……居た堪れなくなるキュア達。
「はっ、ははっ、はははははははっ!
き、気にするな、自分は大丈夫だ!」
「「「…………」」」
キュアのため、戦うチカラを欲していたヘイストは……ぜんぜん隠しきれていないが───酷く落胆していた。
「そ、そもそも【ライフイーター】へ、ちゃんとヘイストは乗り変えられるのかな?」
「【ライフイーター】は、魂の器として充分ですね」
「やろーと思えば、ヘイストの魂を移せるんだなー?」
「ええ、彼女が変に抵抗しなければ。
先程も言いましたが、小娘の魂は本体朱雀に保護されており、違和感なく人間の形から剣の形へと変型させています」
人間であるヘイストに、他人の夢の中に侵入する能力は無い。 まして人間の魂が、剣に……まったく姿形の違うヘイストが【ソウルイーター】に入るのは非常に危険だ。 神である朱雀とて、【ソウルイーター】【魔神城の鍵】などの 『魂の保管能力』 が有るアイテムなどを利用せねば不可能である。
然りとて、『キュアを精霊王にする』 という目的のために必要な【ドラゴンハーツ】唯一の人間型アイテムである【魔神城の鍵】を、朱雀はヘイストに譲る気はない。
「ですが移動だけなら、この国の特性を利用して魂を変型させていますので私でも問題はありません」
「だが……鎧では戦闘力が……」
「嘗ての私とて、スターテスボードが無くとも戦えていたのですから遣りようは有るかと」
イベントリザルトで使役枠となるまでの朱雀は、パーティが関与しないダメージ扱いの火燐攻撃だけで戦っていた。 また、投げ飛ばして敵を高所から転落死させるなど……環境ダメージでもキュア達が倒した扱いとなるのだ。
「鎧は武器では無いためスキルや武器補正などは一切受けらませんが、蹴り殴り体当り……格闘技は一応ダメージに成ります」
「そ、そう……か」
「ならヘイスト。
取敢ず、鎧へ引っ越し(?)てみるのは如何かな?
こっちにはデュラハンという、中身がない鎧だけの存在も居るし」
「魔物じゃないかっ!?」
廃城のダンジョンにも【動く鎧】として出現した、紛う方無き魔物である。
「───だが、確かに【ソウルイーター】よりかは、成ってみる価値はある……か。
【ライフイーター】のスキルを得られるかもしれないし」
「なら魂を入れ変えてみましょう」
「わー、スゴいなー!?」
【ドラゴンハーツ】の住人には、発想すら無い台詞がプレイヤーから出ることは多々有る。 そういった時、完璧な人工知能を売りにしている彼等がどういった反応をするかは……まちまちだ。
チェンはキュア達の言動に最早慣れっこだし、元々純真無垢かつ好奇心旺盛な少女だ。 何が起こるかワクワクしているが……街中の人間は遠目で奇異なる物を見る目をしていた。
「れいはにいろよ、めすむこうゅにんひ!」
「オマエ等が魔法的な何かをする時、呪文なんか唱えた事なんて無かっただろ───んぎゅっ!?」
「ヘイストっ!?」
「【ソウルイーター】が……」
儀式めいた動きで、朱雀が右手で【ソウルイーター】に触れ、左手で【ライフイーター】に触れて呪文を唱えると……それまで浮かんでいた【ソウルイーター】が地面に落ちてキューブ化した。
そして、ビクンと跳ねる鎧の【ライフイーター】。
「───じ、自分は……?
せ、成功した……のか?」
「おー……鎧が喋ったぞー!?」
「ヘイスト、で、良いんだよな?」
「あ、ああ……自分はヘイストだ。
どういう仕組みか分からないが、兜や籠手、脛当ても一纏めで自分の身体だと認識出来る」
動きだす鎧。
無事、ヘイストの魂は【ソウルイーター】から【ライフイーター】へと移動したらしい。
【ロシマ】では、街中に魔物が出た! と騒ぎになっていたが。
ドラゴンズ○グマあるある
霊吸いの峡谷に出るサイクロプスは、まず確実に崖下へ落下して勝手に転落死するので実力で倒せない。