318 村人、苦もなくボスを倒す。
「な、何だコレは……木に扉!?」
「メルヘンだなー」
「める変?」
報酬が【ライフイーター】の依頼を受けたキュア達は、目的の【生命の台座】が有るというダンジョン入口へとやってきた。
そこは森の中、一本の木に扉が付いている。
「相変わらずダンジョンっていうのはムチャクチャな作りだなぁ」
「故郷の朱雀が、次元? を、ズラす? とか言っていたアレなのか?」
「ええ。
この階段は、木の中ではなく別の次元 (という【ドラゴンハーツ】内設定) の中に有るようですね」
木そのものは幹の直径が2.5mも有る巨木である。 しかし扉の中は5m以上の幅がある空洞で、木の中身をくり抜いたかのような壁に沿って木造の螺旋階段が延々上に伸びていた。
「樹高は32.4mですが、この螺旋階段は倍以上の高さが有るようです」
「はぁ~……理解が追い付かん」
未だ次元なんちゃらは分からないキュアだが……先に進まないワケにもゆかず、扉を潜って螺旋階段を歩いて昇る三人と浮かぶ剣。
キュア以外の三人は空を飛べる。 厳密にはキュアも【魔人化】で羽根を生やせば飛べるが、チェンと比べれば精細な動きは不可能だ。 壁にぶつかったり、羽根を階段で痛めたりで満足には飛べまい。
なので朱雀・チェンの二人も彼に合わせて歩きで、ヘイストは浮かびつつも彼等の後ろに付き距離にして500mは進み。
「さて。
階段頂上には、また扉だが……」
「木の上……例えば枝とかに出るとかか?」
「最終目的地は廃城ですから。
何処ぞ土の上だとは思いますがね」
「何処の土かが問題なんだなー?」
意を決し、扉を開けるキュア。
そこは何らかの屋内であった。
「……ど、何処だ?
ずいぶん広くてボロボロだが……もしかして、ココがもう廃城の中なのかな?」
「おそらく其うかと。
依頼者から貰ったダンジョンの地図だと、廃城食堂から始まっていますが……」
「食卓や木皿が散乱してるしな。
しかも天井に───根っこ?」
「キュアー!?
窓の外が、土やら岩やらでイッパイだぞー!?」
「まさか、森の地下に埋まっているのか?
木を、上に上に昇って……土の下??
コレがダンジョンなのだな……」
地図には、扉付きの木の位置と廃城の中───しかも食堂から【ライフイーター】が飾られていた部屋への道程のみが書かれていた。 螺旋階段の事や、直接廃城へ出るといった情報はない。
実際ならば不親切な地図なのだろうが、コレに関しては【ドラゴンハーツ】の醍醐味である 『未知への冒険』 を楽しむための演出であった。
「ダンジョン本番……という事は、ここから魔物が出る筈だ。
みんな気をつけてくれ」
「了解致しました」
「おっしゃー!」
「魔法系の敵は任せろ」
キュアの宣言通り、魔物が出現。
今回の依頼目標は【ライフイーター】の能力により命が宿った台座との事であったが、それと関係あるのか【生きた皿】だの【生きた机】だのといった 『動く無機物』 が主な敵ばかりである。
辺りに散乱した皿などに紛れ、突如キュア達めがけて飛来してくる敵。
───とはいえ。
魔法ギルド中級試験は本来、ストーリーの比較的序盤を想定した話なのだ。
中級試験合格直後の今回の依頼も、対魔神戦を残して【魔神城】を粗方クリア済のキュア達にとっては消化試合にすぎず……地図には載ってない場所の探索ふくめて容易い物であった。
「ドイツもコイツも弱すぎてツマンナイなー?」
「まあこういう事も有るさ。
だがこの扉の先はマップボード最後の空白地帯、ボスが居るはずだ」
「ボス……親玉という奴か。
単純な強さだけでは無いのだな?」
「ああ、特殊な魔法やスキルを持っている場合が多い。
攻略法を見つけないと倒せないんだ」
「其れらとて、今の私達ならば問題無いかと」
キュアとチェンは【魔神城】で新たに購入した装備を。 朱雀は【光燐神】のスキルにより、装備品を身につけられるようになっており幾つかのスキルを得ていた。
「……いいな、皆は。
剣である自分には、何のスキルも……」
「始めは、主様の旅を手伝えるだけで喜ばしいと言っていたでしょう?」
「それはそうだが……」
【ドラゴンハーツ】においてイレギュラーな存在たるヘイストに装備枠など当然ない。 キュア達が装備を変え、新スキルを会得してゆく中……剣であるヘイストは寂しげに呟く。
そんなヘイストに、朱雀は。
「…………はぁ。
此れは、故郷へ帰った時のドッキリとして隠しておくつもりだったのですが……」
「朱雀?」
「小娘、貴女の魂はスキルの【ソウルイーター】を覚えつつあります」
「はぇ?」
「貴女の【ディメイションカード】は、【ソウルイーター】と非常に相性が良いのですが……何故だか分かりますか?」
「ええぇ?? えーっと……???」
突如朱雀から放られた爆弾発言に、ヘイストの脳(?)は処理が追いつかない。
純粋な【ドラゴンハーツ】NPCであるチェンには意味不明な単語ばかり。
キュアは。
「……ディメイションモンスターとは、ヘイストの別の姿だから───
もしかして、ヘイストが【ソウルイーター】を会得すれば、ディメイションモンスターの一体一体も【ソウルイーター】を使えるとかか!?」
「さすが主様、御明察です。
単純計算で、小娘は主様の18倍もの【ソウルイーター】を使える計算になるのですよ」
「…………はぇ?」
「しかも主様の【ソウルイーター】は剣スキルですが……小娘の場合、体からディメイションモンスターが離れて使うので実質、遠距離攻撃だと言えましょう」
言わばディメイションモンスターとは、ヘイストの意思を宿らせた魔法である。
体外に在る、擬似的な魂と言えなくもない。
「【エアリー】なんかの極小・半透明・高速飛行なモンスターが【ソウルイーター】を使いまくれば……敵はガタガタだな!」
「うひゃー!?
よく分かんないけど、ヘイスト凄いなー!?」
「あ、ああ……………………んん??」
今一つ理解がついてないヘイストは……朱雀の言葉や、キュアの利用法を聞くにつれ───とんでもない事態だと理解しだし、顔(?)を青くする。
「だ、だだだ大丈夫なのか!?」
「制御に鍛練は必要でしょうが。
精々、主様に尽くす事ですね」
ある種、キュア以上の能力にビビるヘイストだが……それこそは望むチカラ。 強く奮起する。
ちなみに───
ボスである【動く王室】は、本来マヒ攻撃を定期的に順番通りに使わないと大苦戦する敵であったが……力技でズバッと解決。
容易く戦闘を終えた。