313 村人、人体の売買を見る。
「そっかー、キュアが 『仲間のお母さんの毒を治したい』 って言ってたのは、ヘイストの母ちゃんだったんだなー?」
「チェンにも、その節は色々と世話になったようだ。
改めて礼を言わせて貰おう」
「キュアの仲間はチェンの仲間だからなー!」
キュアが【仮想現実装置】を自由に使える最終日。 突如仲間入りした【ソウルイーター】に宿るヘイストを交えて、【魔神城】を移動。
一時はチェンに嫉妬していたヘイストだが、彼女の人懐こい天真爛漫な朗らかさにヘイストも毒気を完全に抜かれていた。 まあ……キュアとチェンの関係が、男女のソレではなく友達であった事も大きいかもしれないが。(「小娘と主様の関係も、そう大差ないでしょうに」 という朱雀のセリフは全面無視。)
「んでー、朱雀の装備が変わったんだなー?
前はもっと───」
「───斯々然々、【光燐神】から継いだスキルの効果ですよ。
そんな事より、【上位魔人族の街】です」
ずっと露出度の高い格好でキュアと共に旅をしてきたとヘイストが知れば、じつに面倒臭い。 ので、朱雀はチェンの言葉を遮って、現実で装備変更をした経緯を簡単に話す。
純真無垢なチェンと、事情を知らないヘイストと、そもそも朱雀の努力に気付いてすらいないキュア達三人は、「「「ふ~ん」」」 で流し……辿りついたのは上位魔人族のみが住む街。
出入口にいた煙管をくわえた老人の魔人族が、声を掛けてきた。
「おー。
ユキーデ様を倒した者の御帰還か」
「……っ」
【魔神城】の実質的な支配者、ユキーデ。 最強の人間種である魔人族の中でも特に強い上位魔人族の、更にその中で最強の魔人族である。
そんな存在を倒したキュア達。
それはユキーデの勘違いとは言え、【魔神城の鍵】の中に宿る朱雀を奪おうとしたからであり、キュア達が世話をした下位魔人族の理性を奪ったからである。
しかし。 そういったアレコレはキュアの都合であり……【魔神城】内の、上位魔人族達には関係無い話だろう。
───だが。
「ああ、警戒しなさんな。
魔人族は戦闘種族。 戦って、勝った負けたは当たり前。
まして【魔神城】の外の人間種は、ワシ等を憎んどるんだろう?」
「まあ……悪しき魔人族は、他種族を世界征服のために殺したり奴隷化したりしたそうだし」
「そりゃユキーデ様含め、ワシ等の爺サン婆サン世代の話なんでなぁ。
今のワシ等に、全世界を相手に戦争しようっつう気概の有るヤツぁ居らんがね」
紫煙をしばし燻らせ。
「だからよ、ユキーデ様が負けても 『ああそうか、より強い者に負けたか』 としか成らんのよ。
何なら、アンタ等の勝敗は賭けになっとったぞ」
「そ、そうゆうモンか」
ジャラジャラと重めの金貨袋を持ちあげて 「大穴が当たったわい」 と、笑う老人。
「仮に五柱神の封印が解けても、【魔神城】から出ていく魔人族は少ないだろうさな」
「…………」
「まあ、この街の人間にアンタ等をどうこうするヤツぁ居らん。
……絶対に勝てやせんしな。
施設も普通に使えるじゃろ」
「分かった、色々ありがとう」
「もし魔神様に挑むんなら、四天王全員の角から出来る剣が必要らしいぞ」
「対魔神戦も賭けにするのですか?」
「さあの、流石に魔神様まで倒されちゃあ最強の人間種の名が廃るわな」
「カカカッ」 と笑う老人魔人族に見送られ、街中へと入るキュア達。
確かに彼等を見咎める魔人族など居らず、強者を歓迎する魔人族特有の気質を感じながらトラブル無く道具屋へと着いた。
「らっしゃい。
アンタ等のお陰で、いろいろと新入荷してるぜ」
「どれどれ───」
強者を歓迎するとは言え、ユキーデは己以外をひどく見くびっていた。 街の上位魔人族とて 「他種族を蹂躙する喜びも知らない腑抜け」 と唾吐していたのだ。
それなりに圧政も有ったのだろうか……ユキーデが居なくなり、流通だか販売だかの制限が無くなったようで店先には前に来たときより多くの商品が並んでいた。
ヘイストが現実では有りえない商品に目 (?) を輝かせ。 キュアは新しい装備品にニマニマしていると……とある一品で真顔になる。
「朱雀……………………コレ」
「……はい、主様の御想像通りかと」
「あー……コレなー……」
キュア達三人の渋い反応に、ヘイストは首(?)を傾げ(?)る。
「どうしたんだ、キュア?
この角がどうかした───って、まさかコレ……魔人族の角か?
同族の、体の一部を売ってるのか!?」
道具屋にて陳列されていた品。
それは……見事な魔人族の角。 上位魔人族と比べても更に重厚感と輝きが違う。 まず間違いなく……。
「【魔神神殿】で、【魔神城の鍵】に取り憑いた四天王の角……だろうな」
「あ、悪趣味だな」
「戦闘種族だからな。
敗者の角を欲するヤツは居るぜ?
四天王の角ともなりゃあ、マニア垂涎物さ」
「ち、チェンは要らないかなー……」
【最上位魔人の角】と、売りに出されていたそれは……有りえない程の値段。 店主も自慢の看板商品として売る気は無いのかもしれない。
「ユキーデ戦のリザルトや素材を全部合わせても……なぁ」
「アッチと、金銭価値がどれだけ違うのかは分からんが……見た事がないぐらい 『0』 が並んでいるな……」
キュアの所持金や素材、売らないと決めてあるコレクション……文字通り全財産を合わせて、それでもギリギリ足りないといった額であった。
「主様。
此れは、まだ我等が魔神と戦える程の強さが無い───という (【ドラゴンハーツ】的解釈の) 意味では?」
「んー? キュア、どうゆう意味だー?」
「……もっと稼げるぐらいに強くなれって事か」
敵が強くなるたび、イベントの難易度が上がるたび、入金額はデカくなる。 今のキュア達が、ユキーデイベント如きで手こずるようでは魔神討伐など夢のまた夢───という、プレイヤーへ向けた【ドラゴンハーツ】スタッフの指針である。
「ま、まだ今のキュアでも足らない強さなのだな。
具体的には?」
「他の神……【黒鼠神】【餓狼神】【名を失いし神】を殺せる程かと」
「ふむ」
最強の人間種、魔人族。
その神もまた、五柱神最強なのかもしれない。
「金策の相談か?」
「ん?
まあ、そうとも言える」
「なら、どれだけ稼げるかは知らねぇが……その浮いてる剣、【ソウルイーター】だろ?」
「ああ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、元々は魔人族の秘宝だからな」
「そうだったのか」
「【ソウルイーター】【ライフイーター】【ゴーレム】。
この三つの秘宝が、【魔神城】が出来るよりも前にとある人間に盗まれたらしいぜ?」
「【ソウルイーター】と【ゴーレム】は、確かに同じ城に有ったが……【ライフイーター】?」
「オレも詳しくは知らねぇよ。
そっちの【魔神城の鍵】は、【ソウルイーター】と【ライフイーター】を利用した、究極の【ゴーレム】だって聞いたぐらいさ」
「なるほど」
キュアが所持していなかった装備品と回復・治療薬を購入して店を出る一行。
「ソウルとは魂、イーターは食らう者という意味が有ります」
「ライフは?」
「人生、もしくは命ですね」
「人生を食らう剣……だと大袈裟だし、たぶん斬った相手のMPを吸収する【ソウルイーター】の、HP版じゃないかと思うんだ」
「主様の仰られる通りかと。
斬った相手のHPを吸収する、攻撃と回復が一体化したスキルだと予想します」
「す、凄すぎるスキルだな。
そっちの剣なら、自分でも敵に傷を負わせられたというのに」
「たぶん、そこまで強くはない筈だけどな」
【ソウルイーター】も【ドラゴンハーツ】難易度のバランスブレイカーに成るほどの強さは無かった。 【ライフイーター】も然りだと予想するキュア。
「【ソウルイーター】は杖と併用出来ないスキルだった。
剣とHP吸収なら相性は良いし、ひょっとしたら殆んど吸収しないって事すらある」
「でもキュアがマトモにダメージを食らう時なんて、チェン達を庇う時ぐらいだからなー……後はカスリ傷だし、充分っぽいぞー?」
「コッチでもキュアは、そうなのだな」
「うーん……回復手段・MP回復薬の消費削減を増やすのは悪い事じゃあ無いか……」
「結果、節約になり資金も貯まりやすくなるかと」
キュアとしては【仮想現実装置】を使える最終日なのだし、五柱神関連のイベントを狙いたいが───仲間の為となるスキルと考えれば会得したい。
「【ソウルイーター】が有った城は徹底的に調べた。
【ライフイーター】を見逃していたって事は無いよなぁ」
「って事は……魔法ギルドかなー……」
言って、沈むキュアとチェン。
意味が分からないヘイストが、首(?)を傾げ(?)。
「ちょっとな……ケンカ別れした組織とでも言うか」
「……危険な組織なのか?」
刃を振り子のように動かすヘイスト。
怒っているのか、キュアのために戦える喜びか。
「ただガメツイ組織ですよ」
「よく分からないが……キュアの為に、やっと戦えるんだ。
頑張るぞ」