31 村人、村人に囲まれる。
「───さ‥っ……に……ん……!
……さん!?
………… 兄さん!!」
「むっ、ああ……クリティカルか」
突然、妹クリティカルに起こされたキュア。
今まで、こんなにも強引に起こされた事など無く何事か慌てるも……今や自分も領主館勤め。
遅刻するのかもしれない。
そう考えたキュアは、ならば身支度を……と寝惚けた頭で考えた所で───家の外が、異様にウルサイ事に気づく。
「く、クリティカル……何が有った?」
騒音の源は……【アジルー村】の村人達であり、兄妹家の周囲を取り囲み、何事かを叫んでいるようだ。
明かに唯事ではない。
「それが……魔物が出たの。
アイツ等、また兄さんを肉盾にしようと───」
「ああ……」
この村に魔物・盗賊が出たなら、『魔ナシ』で仕事がないキュアの仕事だ。 むろん、老齢・病・怪我……そういった理由で人を魔物の肉盾にするのは違法である。
本来は『犯罪者一歩手前』の存在である『魔ナシ』もまた……厳密には違法なのだが、緊急時には黙認されていた。
キュアもキュアとて領主館に勤めるまでは、ほぼ唯一の収入源。 村人に怒りは有るが……クリティカルを説得し、肉壁となっていた。
……ソレが【ドラゴンハーツ】において役立ったのは皮肉だが。
「『兄さんはもう領主館で働いている』って、何度言ってもアイツら聞く耳持たなくって……」
「恐怖にかられた連中なんてそんなモンさ」
「終いにはアイツ等……魔物と戦わないなら、家に火をつけるって───」
さすがに、クリティカルが語った内容には耳を疑うキュア。
放火は重罪である。
田舎の家の多くは木造建築で、【アジルー村】も例外では無い。 つまり一軒が火事になれば類焼を起こし、村が全滅しうるのだ。
その罪は、殺人より重い。
「幾ら魔物への恐怖で理性が薄れているとはいえ……ソコまで馬鹿なことを言いだすとは……!?」