308 村人、見たことの無い飯を食う。
「王家のアイツ等はどうなるんですか?」
「我等は殺戮集団でも犯罪集団でもない。 軟禁状態での事情聴取はするが、拷問などしないし食事も部屋もマトモな物を与える」
「私達が欲しいのは真実。
彼等の異端審問みたいな、欲しい言葉を出させるための拷問なんて御呼びじゃないのよ」
倒した教会軍の生きのこりを連れ、領主館へと帰ってきたキュア達。 連絡を受けていたメイド長リカリス指導のもと、領主館の非戦闘員達は戦っていた面々の治療や食事の他……担架に乗せられた捕虜も連れていった。
「素直に吐きますかね?」
「教会の本体は、今回の落とし処として彼等を人身御供に使うはずだ」
「つまり……。
『教会』 は、今回の戦争とは関係無い……となるんでしょうか?」
「そして 『領主館』 も、今回の戦争とは関係無い……ってなる予定よ兄さん。
もし領主館の誰かが誰か一人でも死んでいたなら、血塗ろの泥試合も辞さなかったけど……」
「教会が大人しくすると約束するなら、コッチも出血してまで戦わないって事だな?」
「ええ」
今回の派兵は、『魔法を使う魔ナシ』 と 『精霊ナシを産みだす存在』 という教会の根底を揺るがす教義違反者を抹殺する事にあったが……ソレは教会の狂信者の話。
コタリア領は莫大な富を産む。
今回の戦争で浅くない傷と損失を出した教会───富を集めたい富裕層派閥を刺激し、お互い預かり知らぬ事であった、という結果をめざす訳だ。
狂信者どもは、『有能な敵』 より 『無能な味方』 のほうが怖いと思い知るのである。
「王族は?
王家の軍隊長に関して、王族が動くのでは?」
「暴走した狂信者の軍隊長など、恥も大恥。
教会以上に何も言ってこない」
然りとて、優しくされるのは領主館の中のみ。 一度外へ出れば……良くて死ねるのだろう。
「じゃあ……」
「オマエにとっての魔ナシ差別や私にとっての異民族差別は消えていないが……直接的なチョッカイは無くなるだろう」
「そう、ですか……」
思うところが無いではない。
だが今や魔法を使えるキュアにとって、領主館の皆のほうが大変だ。 ならばとやかく言わぬつもりである。
「クリティカル、10分だけ時間を与える。
今、秘書隊の副隊長にソレ以上のヒマは与えられん」
「……はい」
本日最大の功労者を、もっとも慰撫したいのはクリティカルであるが……彼女の役職は、戦後の今からが本格化する。
「ヘイストは【ディメイションカード】のスキルを兄さんと共に戦うため会得して……私はこういった事から兄さんを守るため、この道を選らんだんだから」
「済まない、クリティカル」
「いえ、さっきまではヘイストが兄さんの役にたっていたんですから!
今度は私の番ですよ!」
やたら ヘイストと張り合うクリティカル。
ちなみに彼女とディメイションモンスター達は現在、捕虜の護送を勤めている。 同じ建物内。 すぐに終えてキュアの元へ帰ってくるだろう。
「じゃあ食堂へ行こうか」
「ええ」
◆◆◆
「今日は、領主様に御出しする食材を使えってコリアンダー様から事づかっているんだよ」
「そ……そんな、恐れ多い!?」
「ソレだけの事をしたって事さ。
遠慮しなさんな」
食堂にて。
アジルー村時代には、見たことはおろか想像すらつかなかった豪華な食事がキュアの前に並んでいた。
「き、緊張する」
「まあ精をつけてくれって事さ」
合流したヘイストとクリティカルに挟まれて食事をするキュア。
彼からしたら今日やったのは、楽勝チート無双である。 大きな苦戦はない。 真に大変であったのはチートなど持たない他の皆だ。
申し訳ない。
「───ってキュアの事だから考えてそうだが、結果が全てさ」
「そうよ、兄さん。
仮に他の人が【ドラゴンハーツ】のスキルや魔法を得ても、この結果には成らなかったのかもしれないんだから」
「分かった分かった」
疲れは【癒し】で取れる。
魔力不足は呼吸で回復する。
正直、この領主館内の人間でキュアが一番元気なのだが……皆の心遣いに胸が熱くなり、何も言えなくなる。