307 村人、教会との戦いを終える。
「【拡散・癒し】!」
「───……うむ、だいぶ回復した。
領主館の危機を全て背負わせて済まなかったな、あとは私やリカリス達に任せよ」
「分かりました、コリアンダー様」
反教会派貴族レイグランと、魔ナシのクセに魔法を使うキュアと、魔法使いから精霊と会話する権限を奪う朱雀を狙い、コタリア領に攻めてきた教会軍。
その、全てを討ちやぶったキュア。
法関連などの戦後処理は領主館の頭脳にまかせるとして、自分は自分に出来ることをするのみ。 領主館の皆の疲れと魔力を癒し、帰り道の安全を確保する。
「…………」
「……人の世に紛れこんだ悪魔め」
王家の血をひく軍隊長とその部下である女性隊員。
攻めてきた教会軍の中でも、少人数の利点を活かしてコタリア領に先んじて侵入した独立愚連隊。 その生き残りである。
二人は……キュアを、憎悪と恐怖の目で睨め上げていた。
◆◆◆
「【魔人炎】!」
「ぐっ……化物が」
教会が考える 『悪魔』 に近い姿……魔人族へと変身したキュア。 自由自在とまでは言えぬものの───キュアの中には、笑顔で大空を飛ぶ魔人族の姿がしっかりと根付いている。 その姿を御手本にすれば、背中から生えた翼は応えてくれた。
「兄さん……それが【ドラゴンハーツ】の話で出てくる魔人族なのね……。
……兄さんが、最も頼りにする仲間の───」
「副隊長……!
そんな事より、あの人は貴女の魔法を容易く打ちやぶったんですよ!?」
「だって、ソレが兄さんだもの」
警護秘書隊の女性は、如何な己等を救ってくれた英雄であろうと感謝こそすれ……今日会ったばかりのキュアよりも、尊敬するクリティカルを案ずる。
が、当の本人はキュアの偉大さに鼻高々となるのみであった。
「キュア……。
何時かその高さに自分も───あぇ!?
こ、こらっ!」
≪ピピーっ♡≫
≪ホウホウ≫
≪キりキりキり!≫
ヘイストは、どんどん遠くなるキュアの背中に何時か共に並べる日を誓っていると……空飛ぶキュアに感化されたのか、空飛ぶディメイションモンスターがキュアを追い共に空中飛行を楽しんでいた。
そして何となく感じるキュアの好調。 ディメイションモンスターの能力、陣地の発動だろう。
ならば、今はソレで良い。
キュアの戦いの決着は未だ先。
「───どうやらその姿だと魔法は使えないらしいなっ!
…………死ねぇっ!!」
「魔人族の爪角を舐めるなあっ!」
高速移動するキュアの動きを読んで、その接近に合わせて剣を振る教会軍の二人と、動きを読ませる事で剣撃に合わせるキュア。
相手の腕が伸びきる、その寸前。
王家の軍隊長の剣に爪を、部下の女性隊員の剣に角を当てる。
「「ああっ!?」」
正確に狙った根本から折れる二振りの剣。
吹きとぶ二人。
「このまま空中散歩と行こうか?」
「「離っ……!?」」
吹きとんだ二人が地面に着地する前に、その腕をキャッチしたキュア。 急速に高度を上げてゆく。
「ぐっ……ぐぐっ……!?
だ、だがこの距離なら外さんぞ!」
「その時は諸共に墜落するだけだ」
「ひっ……!?」
その言葉に恐れたか、急激な加速に耐えられなかったか。 魔法を発動させようとしていた軍隊長が先に気絶し……やがて部下も高山病に近い症状が出始めた。
「呪……われ……ろ、悪魔め」
「オマエ等の神に、そんなチカラは無いさ」
朱雀に乗せられ高高度を飛行した時、彼女から空気の濃淡やらは聞いていた。 風のディメイションモンスター達に酸素と気圧を維持してもらっていたキュアは、教会軍の二人が死なぬよう注意しながら地表へと帰ってゆく。
「みんな、有難う」
≪ピピー♡≫
≪ホウホウ!≫
≪キりキりキり……≫
「みんな手を振っている。
帰ろう、俺達の領主館に」
◆◆◆
世界的組織である教会は、自らを 「世界の警察」 だと言わんばかりに過去何度も反教会派を虐殺してきた。
然れど。
教会が殺してきた人間は、各国の王や貴族達の税源でもあるのだ。 厚顔無恥にも、自分達の都合で始めた戦争の戦費まで要求してくる。 革命をやらかした民とかならばともかく、出来るなら財源を減らして欲しくなど無い。
だがソレでも戦争が許容されてきたのは、教会がもたらす利便性……そしてその強さ故。
「教会軍の失態を望む声は以外と多いぞ、親教会派からすら、上がっているのだから」
「やり過ぎたというワケですか」
「うむ」
利便性はそのままに。
権力は王公貴族の下に。
今回の結果は、世論が反教会に傾くだけの材料であった。
キュアの事は隠す。
魔法を使う魔ナシだとは最早世界中にバレているだろうが、教会軍をたった一人で全滅させる実力まではバレていない。
なにせ生き証拠は、たった二人だけ。
その二人は、戦いが終わって元通りの姿となったキュアの【病忌避】にて高山病のみ治してある。 【ソウルイーター】で魔力を吸いあげ、魔力欠乏症にしているので逃走反撃の心配もない。
教会との戦いは、取敢ず……あくまで取敢ずではあるが───やっと終わったのである。