298 村人、目から潰す。
「朱雀、どうだ?」
「ええ、問題ありません」
キュア達の住むコタリア領へと差し迫る教会の軍隊。 愛する妹のクリティカルや友人のヘイスト、領主館の皆を守るためキュアは単身軍隊へと向かっていた。
付いてきた朱雀と共に、商団や移民団に擬装しているという軍隊を【遠目】スキルで睨むように確認する。
「俺が【ドラゴンハーツ】の中と外で魔法・スキルの使い方が変わるみたいな変化は?」
「本体朱雀と同じく、肉体と魔力の境目が曖昧になっているので、許容量に上限が有りませんね。
最大MP値が無限に近いです」
「なるほど」
付いてきた朱雀の姿は……一見、人間。
だがその正体は、人形───
【魔神城の鍵】と呼ばれる存在。
本体朱雀の神力により実体化した、【ドラゴンハーツ】内の朱雀であった。
「チェンが居ないのは淋しいが……」
「ええ……。
ですが戦力的には、たかが偽神《権力》を崇める者共の丁稚如き。
戦力的には二人で充分かと」
「そうだな。
ソレに…… 『コレ』 も有る」
ポンポンと、腰のウェストポーチを軽く叩くキュア。 【ドラゴンハーツ】ならキューブが入っている場所には、『小瓶』 が代わりに入っていた。 反対側の腰には40cmの 『杖』 と 『太陽の如く輝く太刀』 と 『赤黒い6mの鞭』。
「精霊ナシだとかの件では頼らないって話だったが……二人の朱雀には頼りまくっているなぁ」
「我等は主様に支えし者。
しかも 『其れ』 もまた、主様の御力ゆえ気に為さらないで下さい」
「……分かった。
───行くぞっ!」
「主様の、良しなに」
◆◆◆
「たっ、隊長……遠覚視魔法部隊が、何かを発見しましたっ!」
「何かとは何だ?」
「ひ、人型の……魔物? か? と、思われます……?」
「思われますとは何だ!?
シャッキリしろ!
何を発見したんだ!!?」
「そ、ソレが……。
地上最速と言われる狩猟豹ですら比べものに成らない速度で迫ってくる人型と……そ、空を飛ぶ人型の───」
「馬鹿を言うなっ!?
魔物だろうと、人型がそんな速度を出したり空を飛んだり出来るワケが無いだろうっ!?」
「ひいっ」
コタリア領外の草原。
商団……にしては、馬車の荷台にやたら武具が積まれている集団。 しかし、その擬装は完璧であり、通りすがる誰しもが戦地に向かう戦士たちだとは思わなかった。
そんな集団に迫る、二体の影。
一体は地から神速で。
一体は空から変幻自在に。
観測主が混乱し、指揮者が看過し、ソレ以外の者が気付く前……二体の牙が届く。
「【火加護】&【拡散・火弾丸】!」
「火燐よっ!」
「───……‥‥・・ ・ ・ ・ へ?」
有りえぬ距離から、有りえぬ速度で飛来する、有りえぬ威力の火弾と火燐。
真っ先に焼かれたのは観測主。
二体の魔物と勘違いされた、キュアと朱雀は…… 『目』 を失った集団へと向かう。 集団は、キュアの、キュアの大事な人達の敵である。
コレから行われる事への……躊躇いは、無い。