295 村人、教会と戦いに行く。
「───ふぁああ……。
……ああ、現実の朝か」
【仮想現実装置】のVRアクティビティ、【ドラゴンハーツ】の夢から目覚めたキュア。
隣で寝ている最愛の妹、クリティカルに朝の挨拶をしようとして───
「おはよ……う……?
ありゃ? クリティカル?」
領主館の自室、隣のベッドで寝ているはずのクリティカルが居なかった。 【仮想現実装置】に起こしてもらったのだ。 寝坊はありえない。
トイレかな? などと若干デリカシーの無いことを考えていると、【仮想現実装置】からの声。
≪フレンド名・クリティカルさんは、30分程前に 「警護秘書部隊職務室で問題がおきた」 との理由で同僚の方に起こされて出ていきました≫
「そうだったのか。
何かヤバい事なら、俺を起こしてくれても良かったんだがなぁ」
≪緊急性有り、しかし、危険性は無しと判断されていました≫
「そうなん───」
『───申し訳有りません、主様』
「朱雀?」
朱雀。
【ドラゴンハーツ】の中、【魔神城の鍵】に取り憑いた朱雀……ではなく、現実において島一つを丸ごと蒸発させる事が出来る火の神───朱雀本体が、キュア達の部屋の中へ火燐とともに現れた。
「主様の妹は、適当な書類をチリも残さず焼却させて誘き出しました」
「む、無茶するなぁ……」
クリティカルと朱雀は同じ男を狙う者同士、お互い牽制しあっている。 然れど、仲がそこまで悪いわけでもなく……こんな悪質な事をしでかすのは。
「……敵か?」
「ええ、『教会』 です」
「そう……か。
昨日は 『神モドキ』 で、今日は 『神のシモベ』 かぁ。
何の因果だか」
声のトーンを落として問うキュアに、おふざけ無しで答える朱雀。
『教会』 とは、キュア達が住む世界で最も一般的な宗教組織である。 一般人には戸籍や住所に一部の福祉など日本で言う役所関連のような仕事をする。
だが。
魔力を持って生まれなかった子供を 『神の恩寵を与えられない神の敵』 だと声高らかに叫び、『魔ナシ』 と呼んで差別をする組織でもある。
魔力を持つ一般人にはただ単に、生活に根差した場所であるが……魔ナシたるキュアにとっては不倶戴天の存在なのだ。
「【拡散・敵視】…………敵は、街中に居るな」
「現在、教会コタリア本部内に居るのは役所仕事しか出来ない連中ですね。
街中を彷徨く連中は全て斥候で、戦闘部隊はまだ領外です」
キュアに想いを寄せる少女ヘイストの幼馴染みであるマフィアの下へ以前、教会がチョッカイを出してきた後。 キュアが聞かされた事後報告では、教会は 『役所』 『戦闘・斥候 (兼、暗殺)』『富裕層』 に別れているという。
社会的弱者を故意につくり、コントロールする事で教会 (の富裕層) に富と権力が集まるような仕組みが有るそうだ。
「商団や移民団に扮した戦闘集団が、コタリア領へ集結しつつあります」
「何故このタイミングで……?」
「領主の居ない隙、反教会派・新教会派平和主義の監視、経済───
神には理解しがたい人間の業、その彼是かららしいですね」
「俺にも理解しがたいがな。
経済、という事は……コタリア領を無価値な焼け野原にするつもりは無いのか?」
「飽くまで、『目標は領主館と主様のみ』 などと宣っておりますが……」
コタリア領領主、コタリア・グヌ・レイグラン。 彼は反教会派の最大派閥にして、ほぼ唯一のタカ派である。
そんな彼の治める領地の領民は、というと……約半々で反教会と新教会に別れている。 反教会派とてレイグランほど教会ギライでもない。 コタリア領が気候風土・経済的に住みよいから住みついている、というだけで───戦争ともなれば、領民達は領主館を捨てて教会側に付きうるのだ。
今の今まで、教会がコタリア領に手出しして来なかったのは、権力・経済的に難しかったからだけである。
『領主不在』『魔法を使った魔ナシ』『顕現した神に教会の人間が精霊ナシにされた』 といった教会にとって看過できない事情が立て続けに起きたことにより……今、この瞬間、動くしかなかったようだ。
「領内で戦ったら暴動が起こるかもしれず……そうなれば領主館のみんなが困るんだな」
「しかし此処の者共は全員、反教会派。
特にチョビ髭に関しては、主様なみに教会を恨んでおりますが?」
領主館執事コリアンダーの母は異民族。
教会の聖書には異民族は人間ではないと書かれており、虐殺略奪は当たり前。 コリアンダーの母も何度か教会に殺されそうになっていた。 そんなコリアンダーの、教会への恨みは強く根深い。
また、他の領主館使用人達もそれぞれの理由で教会を恨んでいる者が多いのだが。
「教会と戦って死ぬのは覚悟しておられるのだろうが……コリアンダー様の戦場は、切った張ったする場所じゃない。
言ってしまえば悪いが……ソコだと無駄死にするだけだ」
「では」
「俺一人で行く。
コリアンダー様には政治的な場所で戦ってもらおう」
「……一応、聞いておきますが───
私に、奴等を 『焼け』 とか 『精霊ナシにしろ』 などと命令為さらないのですか?」
「そんな事も出来ないようでは勇者や魔王……精霊王には成れないんだろう?」
「…………」
「別に王になりたい訳じゃないが、みんなを守ろうとしたら……まあ、そう成るかな」
「……主様の、良しなに」
恭しく、頭を垂れる朱雀。
その、内心は喜びに満々ていた。
朱雀の本能は、キュアを精霊王にするという物。
然れど。
一人の男としてキュアを愛する【ドラゴンハーツ】内の朱雀を取り込んだ事により、朱雀本体もまた……精霊王など関係ないキュアへの興味が芽生えている。
軍を一人で相手するなどと、普通なら妄言だ。
しかし、この主なら。
……朱雀は、己の内心の変化に気付かぬままにキュアへの戦支度をする。
「あ、だが魔力はどうしよう?
朱雀に【魔神城の鍵】を渡すためには、莫大な消費MPの【道具箱】を唱えなきゃな」
「其れならば…………」
◆◆◆
「はぁっ!?
私の職務室の書類が消えたの……朱雀の所為なのっ!?」
「朱雀……おまえ、いくらキュアを独り占めしたいからってソレはヤリすぎだぞ?
抜け駆けだ」
領主館朝の食堂。
クリティカルが、消失した書類を確認して自室に戻ると最愛の兄であるキュアが居なかった。 自分を探しに食堂へ先に行ったのかと隣室のヘイストと共に食堂へ来てみれば……誰も見ていないという。
食堂の片隅にいた朱雀に聞くと……彼女は、自分の書類を焼いたと白状した。
クリティカルが、意味が分からず問いつめると───
「今、主様は教会の軍隊と戦っておられます」
「「「は?」」」




