294 村人、モノクルが引っ付く。
「得られた金は……流石にスゴいな。
回収した魔物の素材も合わせて、かなりの金額になる」
ユキーデを倒してイベントをクリアしたキュア達。 長く苦労しただけあってリザルトボードを確認するに、中々と美味しい報奨であった。
「【ユキーデの角】は……ヴィタリのとサンチョので三つめの角だなー」
「【鑑定】では、素材となっているんだが……同じく素材の【イビルゲイザーキングの眼】【イビルローパーキングの触手】は良いとして───彼等の角を使うには、ちょっと抵抗があるなぁ」
魔人四天王三人の角である。
仲間を見下してきた、憎むべき敵の置き土産とはいえ……人体の一部だと思うと気軽に使えるとは言いがたいキュア。
「【魔神の眼】は……片眼鏡か。
コリアンダー様が仕事中、眼窩に嵌めておられるが……俺はあの方ほど彫りは深くないんだよなあ───
うわ、眼のあたりに引っ付いた!?」
「この国仕様という奴ですね」
「カッコイイなー」
「片眼鏡は視力を弱めるという説も御座いますので御注意を」
「(VRだし、たぶん大丈夫だろうが……) 理解した。
ただ、効果は分からん。
【真実を見破る眼】と鑑定されたんだがな」
【魔神の眼】は、衣裳アイテムという系統の道具であり以前キュアとシーナが毒ガスの蔓延する工場で使用した【防毒のマスク】も同系である。
装備品では無いのでスキルは得られないが、何らかの能力を持っているのだ。
「……で、一番の問題だが……。
朱雀、【真・魔神城の鍵】の真の形とは?」
「朱雀ー、なんか変わったトコ有るのかー?」
「はあ…………いえ、特には」
「辛いのを俺達に気を使って隠しているとかじゃなく、本気で何も無いんだな?」
「はい」
「朱雀は、チェンみたいにステータスボードが見れないからなぁ…………あれ?」
キュアがリザルトの確認を終え、激戦後のチェックの意味で己とチェンのステータスボードを出すと───
「……朱雀のステータスボードが有る!?」
「ほ、ホントかー!?
……ホントだー!?」
「此れは…… 『使役』 ?
此れが 『【魔神城の鍵】の真なる形』 なのでしょうか?」
「たぶん、な」
イベント内のみパーティに加わり、他のイベントには連れまわせない 『仲間』 枠。
イベントなど関係なく連れまわせる 『御供』 枠。
そして……。
現在の朱雀が 『使役』 枠である。
未だキュアは使用していないが、所持杖魔法に【操獣】という意志の弱い獣を仲間にする魔法がある。 類似魔法に【操骨】などもあり、コレ等で仲間にした者が 『使役』 枠になるのだ。
「チェン、犬が御供になるような嫌悪感? みたいなのは有るか?」
「んーん?
無いぞー?」
「ふむ……何なんだろうな?
仲間に対して、使役って言葉はあまり気分よくは無いんだが」
「私は主様から使役される事を喜びとしておりますので、御気に為さらず」
「…………分かった。
ステータスボードを見るに、普段の朱雀と変わらんし……。
取敢ず、今まで通りで良いか」
パーティボードには朱雀のHPとMPが書かれており、MPがじわじわと回復していた。 【ドラゴンハーツ】におけるイレギュラーな存在として、朱雀にはMP回復薬などが効かず……火燐など、朱雀が魔力を消費した時は魂が繋がっているキュアから補充されているのだ。
「───御待ち下さい。
………………此の魔りょ、いえ、MPは主様から補充されておりません」
「……そういや俺のMPが減ってないな?」
「朱雀も、チェンやキュアみたいに呼吸でMP回復できてるって事かなー?」
「ああ、成程……。
使役の詳細は分からねど、此の世界の存在と成った訳でしょう」
本来、【真・魔神城の鍵】をアイテムとして見ると……今まではマネキンみたいな物であり、『鍵』 以外の何物でも無かった。
今の【真・魔神城の鍵】は、戦闘人形という戦闘用アイテムである。 大別すれば、敵に投げつけて使う【閃光弾】などといったアイテムと同じ扱いなのだ。
「【魔神城の鍵】として、キューブには成れるのか?」
「ええ、此のように───」
と、そこで、止まる世界。
響く声。
≪───キュアさん≫
「【仮想現実装置】!
そうか、時間か……」
≪正確には、20分程早いですが≫
「私がキューブに成ったので、序でとしましたね?」
≪アタフタするよりは宜しいかと≫
「……そうだな。
まだ本音を言うと、ピョウやユンの理性が戻ったかとかを確認したいが……」
「……ええ、そうですね」
止まる世界。
たった今まで元気に喋っていたチェンも、現在は笑顔のまま停止している。
───領主レイグランが帰り、【仮想現実装置】を献上するまで、残り一日。
止まるチェンを撫で……。
「……帰ろう。
【仮想現実装置】、目覚めさせてくれ」