287 村人、手の平を返す。
「マップボード……【上位魔人族の街】か。
そのまんまだな」
「手抜きだなー」
【魔神城】城壁内部へと侵入したキュア達が暫し進むと、マップボードにモヤが出現。
【下位魔人族の集落】とは───
荒地とは違う、石畳が敷き詰められた道も。 ボロ布の簡易テントとは違う、様々な素材で出来た建築物も。 食事用だか、至る所で鉄を打つ様子も。
何もかもが違う【上位魔人族の街】へと辿りついた。
「【敵視】……取敢ず、住人は黄色だな。
敵扱いじゃあない」
「依頼が一つ有りますね」
「……街を無視して進む訳にもいかんか」
「チェンは光燐の街でも、あんま不審がられなかったけど……キュアはどーなんだろーな?」
「まあ、いきなり全住人が襲ってくるという事もないだろうさ」
意を決して、街中へ進むキュア達。
だが、万一を考えてチェンを先頭にしていた。 無論、イザという時の肉盾などという訳ではなく……そうした方が、上位魔人族たる住人たちとは角が立つまいという計算だ。
戦闘になったら……下位魔人族ほどには擁護しないつもりである。
「まあ……ソレはソレとして、道具屋が有ったら装備品や魔法の杖は見たいんだが」
「「…………」」
さんざん街の上位魔人族を疑っておいて、手の平クルーっするキュア。
「チェン、ソレ何て言うか知っているぞー……」
「これっ、羽根娘。
主様に 『現金な』 とか、無礼ですよ?」
「(まだ、) 言ってないかなー……」
……が、キュアの装備品や杖への執着は二人の知る所。 『ちゃっかりしたリーダー』 だという認識である。 問題は無い。 はず。
街中を警戒しつつ観光する一堂。
「───……チラッとは見られはするが、 『ふーん』 程度だな」
「チェンの時と同じだなー?」
「エネミーボードも存在しませんね」
【魔神の右腕】が、魔人族全体の中でどんな立場かは分からねど…………少なくとも他種族の普通の活気有る街とこの街は全く同じであった。 日々を一生懸命生きている人々からは 『異様なまでの他種族への嘲り』 は伺えない。
上位魔人族は上位魔人族で、いろいろ有るようだ。
「嘗て……世界征服をしようとした悪しき魔人族の伝承の方が、間違っていたのか?
───って雰囲気だなあ」
「他の人間種って、魔人族種よか寿命がちょっと短いからなー」
「ふむ、そうなのか?」
「魔人族で長生きって人は、120~130歳 (キュア達でいう70~80歳) くらいまでは生きるからなー。
……行き違いは有ったのかもなー?」
「魔人族なら祖父母ぐらいの世代でも、他種族なら遠い御先祖様の時代の伝承ってワケか」
「……………………もし、悪しき魔人族がもう居ないなら───
……善き魔人族も居るかなー?」
「「…………」」
この街の魔人族は……強いて言えば、 『平凡な魔人族』 である。
下位魔人族への仕打ちは───言ってしまえば、人間社会ならばどんな種族であろうと、現実であろうと、どんな国であろうと、 『平凡に』 有る。
街の彼等は 『平凡な愚者』 なのだ。
「ま、俺は愚者じゃない……なんて烏滸がましい事を言うつもりは無いが───っと。
コレは【魔神城】の外と、同じ絵なんだな」
薬瓶が描かれた看板。
道具屋の看板だ。
「いらっしゃ……ほう?
まさかアンタ、光燐かね?」
「ああ。
魔人族以外の客はお断りか?」
「うんにゃ?
金さえ出してくれるんなら、光燐だろうがラットマンだろうが構わんよ?」
「なら見せて貰おう。
……ほうほう」
特に 「なぜ光燐が!?」 だの 「どうやって【魔神城】の中に!?」 などとは問われず、魔人族の店員から許可を貰ったキュア。
攻防一体の巨大な爪が邪魔をして、真面な武装が出来ない魔人族の店では、録な物を売ってはいないのでは───などと最初は邪推していたが……初めて見る商品が有るらしく、ニタニタするキュア。 一応敵地である事は忘れていない。
……はずだ。
「……武器が【巨獣の牙】【鈍鉄の盾】、杖に【油泥の杖】【貫通の杖】、服に【魔人の戦衣】【魔人の法衣】、靴に【魔人の草鞋】…………えっ!?
ま……【魔神の指輪】!?」
「【魔神】様が【光燐神】の真似をして、指輪を作ってみたんだが……微妙な出来だもんで二種目は作らなかったそうだね」
「なら全部……あとコレはチェン用の装備か。
コレも買おう」
「まいどあり」
「うわーっ!?
キュア、ありがとー!」
更衣室にて着替えるチェン。
魔人族には珍しい武器、【魔人のマニキュア】。 やや悪魔的なデザインであるが、美少女なチェンが着ると可愛らしい小悪魔っぽくなる【魔人のドレス】。 ヒール付きであるものの、機動力は損なわない【魔人のパンプス】。
装飾品、【魔人のリボン】である。
効果はそれぞれ、
武器【魔人爪】の威力UP。
服【魔人炎】の威力UP。
靴【魔人翼】の機動力UP。
装飾品【魔人角】の威力UP。
である。
なぜ服でクチから吐く炎の威力がUPするのか、なぜ靴で背中の羽根が……といった無粋な事は、考えるのをヤメたキュア。 今更なので。
その他回復薬や治療薬などを補充し、要らぬ物を売却し、店を出る。
「さて……準備は整ったし、ユキーデの情報でも有るのか───依頼の所へ行くか」