281 村人、ユキーデと戦う。
「ぐくっ……!」
「ふん、光燐にしては遣るではないか」
嵐のごとく振り回される、上位魔人族の両腕。 その【魔人爪】をひたすら受け続けるキュア。
技術はキュアの方が上だろう……が、筋力は桁違いに上位魔人族の方が上であった。 武器を装備したゴリラが、人間の知性で攻撃してくるような物である。
徐々に押され始めるキュア。
「え、エネミーボード……!
名前は【ユキーデ】……LVは───
ひゃ、168っ!?」
「168……!
【光を食らいし蜘蛛】より上、ですか……」
過去最強の敵、【光を食らいし蜘蛛】。 そのLVは161であった。 しかし、ある種のバグにより比較的楽に勝てた。 その後に戦った【三鬼】はLV130前後だったが、そちらの方が遥かに強かったぐらいである。
バグの無い、LV160代の明確な殺意を持つ敵がキュアに迫っていた。
「……どうしたクズ共?
仲間を助けてやらないのか?
まさか……同族だから自分達は見逃して貰える、などと考えている訳ではあるまいな?」
「ひ、ひぃい……」
「はわわ……キュア兄サン……。
…………すまねぇ」
キュアの仲間の魔人族を睨み嘲る上位魔人族ユキーデ。
ピョウとユンは、縮こまって震え。 チェンは。
「うー……うぅーっ!
キュア、頑張れー!」
「……主様、御武運を」
心痛の面持ちで、キュアを案じていた。 大型の敵ならばともかく……人間サイズの敵で共闘するとなると、キュアの邪魔に成ってしまう。
悔しさに身が焼かれる思いだが……キュアを信じるしかない。
そして朱雀もまた、キュアを信じて手出しせずにいた。
両者とも、本気では無い。
ならば、今はその時ではないと朱雀はキュアの無事を案ずるのみ。
「そんなにココに入りたかったか? 光燐?
……外で平穏に暮らしていた上位魔人族を殺してまで」
「オマエ達こそ善の魔人族を見捨てて、世界征服しようとしたんだろうが!?」
「…………。
……下等種族が」
無表情───に見せかけて、一瞬見えたのユキーデの怒り。
違和感から、一旦距離を取るキュア。
「【バックステップ】───」
「【フロントステップ】」
「───取消、【バックステップ】!」
「ほう……?
逃げ足だけは速いな、臆病者め」
「俺は戦士じゃな───」
≪【魔人のボロ靴】を履いて100回移動スキルキャンセル、達成。
【フロントステップ】を習得≫
「───い!
強さは、より良い日々を送りたい過程で手に入れただけだ!
【フロントステップ】!」
「むっ!?」
「【回転刃】っ!」
敵に攻撃力の0.1倍のダメージを15回与えるスキルである。 同じダメージ量の【インパクト】系スキルよりも乱戦向きでは無い分、敵のダメージ硬直が非常に長い。
「……からの、【スイッチ】【弾く光球】!!」
「ぐっ、くくっ……!!?」
「おっ!? おおー!?
キュアー! 行けぇーー!」
「この戦法は……主様!」
嘗て、神すらもハメた戦法。
冗長なダメージ硬直時間内に、敵を大きく弾き飛ばす【弾く光球】を撃ち込み、フッ飛んでいる間に再び【回転刃】を当てる戦法である。
……しかし。
「……嘗めるなあっ!!」
「……嘗めては無いんだがな」
現実でなら、武器スキルの【回転刃】と杖スキルの【弾く光球】は同じ武器で出せるが……【ドラゴンハーツ】だと、如何しても武器と杖を持ち変えねばならず、極僅かな隙が生まれた。
その隙をユキーデに突かれ、ハメを脱されてしまう。
「小賢しい手ばかりを……」
「……俺は、オマエの目的が知りたいんだ」
キュアの台詞に、振りあげた手を止めるユキーデ。
「何を───」
「殺意を向けてはいるが……本気では無いだろう?」
「…………」
「【魔神神殿】で襲ってきた、別の【魔神の右腕】は、その上位魔人族を殺そうとしてきたぞ?」
「…………」
「確かに俺は……チェンに、より良い未来は渡せていないのかもしれない」
「そんな事───むぐーっ!」
「…………」
「確かに俺は……チェンを守れていないのかもしれない。
───だが、それはオマエ等もじゃあ無いのかっ!?」
「…………」
黙るユキーデ。
怒気か。
それとも。