273 村人、魔人族に剣を振る舞う。
「お、お口の中が宝石箱でさぁ……!」
「味のIT革命でごぜぇやす……!」
「……何を言っているのですか、貴方達は?」
「あいてぃー、とは何だ?」
チンピラ魔人族、ピョウとユンの二人に【下位魔人族の集落】へと案内されたキュア達。 集落は金属に餓えた魔人族で溢れており、キュアは彼等の為にひたすら剣を打ち続けていた。
最初は光燐の人間であるキュアを警戒していた集落民達であったが……キュアが【鉄の短剣】を打ちだすとソワソワしだし、チェンが毒味にと短剣をガリゴリと食べはじめると、皆が皆ダラダラと涎を垂れながす。
チンピラ魔人族の二人が代表し、その安全性 (と味) を確かめると……もはや我先にとキュアから剣を受けとる集落民達。
「うめぇ……うめぇよ……!」
「母ちゃん……コレなあに!?
ぼく、こんなの初めて食ったよ!」
「主様に感謝せよ魔人ども。
この御方こそ救世主である」
「朱雀、そういうのはイイから【ミネラルウォーター】とやらを取ってくれ。
流石に疲れた」
キュアは既に193振りもの剣を打っていた。 【ドラゴンハーツ】の【鍛治】は現実の鍛治と違い、剣一振りを一分で打てる。
ソレでも200振り近く。
三時間以上ブッ通しである。
体力自慢にしてゲーム的フォローが有っても限界に近く、もし現実で眠るキュアが回復魔法を使っていなければ一気に脳に疲が溜まる程だ。
「ふぅー……。
あと7振り、キリのイイ所で休憩させてもらう」
「有難うごぜぇやす」
「みんな満足でさぁ」
「そ、そうか……満足か……」
如何な餓えていようと、200振りの剣。 集落民40人。 一人頭、五振りもの剣を食べたのだ。 明らかに人体の体積を超えた量である。
軽く恐怖を感じているキュア。
同時に、チェンも遠慮を知らなければもっとトンデモ無い量を要求されていた可能性もある。 チェンに感謝だ。
「……200っ!
む、依頼完了───……何!?
一人一振り、40で全部☆だったのか……」
「お、御疲れ様です主様。
しかし民からは敵意や警戒心は完全に拭われているようですよ?」
鉄製品は、【下位魔人族の集落】集落民の好感度上昇アイテムである。 しかもバラけて渡すより纏めて渡し、かつ、好感度が低い時の方が効果は高い。
「兄ちゃん、アリガトーな」
「……ああ。
…………まあ良いか」
魔ナシ差別を受けてきたキュアは、あまり礼を言われ慣れていない。 チョロいのだ。
「しかし……礼を言われたからという訳じゃ無いが、彼等は本当に【魔神】と共に封印された悪しき魔人族なのか?」
「主様が危惧しておられた【魔人炎】の脅威も無さそうですしね。
ですが、角爪の艶は増したようです。
警戒そのものは無駄では無いかと」
「そうだな」
チェンは生まれて初めて見る同年代の同族と遊んでいる。 敵に成るとは思いたくは無い。
然れど。
彼等は伝説にうたわれた、【魔神】に率いられて世界征服をしようとした悪魔たちの子孫なのだ。