272 村人、魔人族の集落へ行く。
「ま、待て待て!
インゴットは多目に持っている───とは言ったが、飽くまで彼女一人分の量としては、だ!」
「キュアはいっつも多目に準備してるんだぞー!」
「羽根娘、今はそういう話では有りませんよ」
キュアが【鍛治】スキルを会得していると聞いて、土下座してきた魔人族のチンピラ達。
チェンは普通の人間と同じ物も食べられるし、金属を摂らねど餓死したりはしない。 然れど別腹扱いであり、満腹には成れど満足はしない感じだろうか。 ソレ程に魔人族にとって金属……特に加工済みの剣などは特殊な栄養源の一種らしい。
「キュア兄サン!
アンタもチェン嬢チャンと……魔人族と旅してんなら、魔人族にとって金属が何よりの御馳走だって存じてる筈でさぁ!」
「ま、まあなあ」
ヨダレまで垂らし始めたチンピラ魔人族共。 剣の材料である【鉄鉱石】は、大陸の至る所に鉱山が有るし、店でも非常に安く売られている。
ソレでも。
チェンも限界ギリギリまで我慢して尚、決して少なくない量の剣をキュアに要求してくるのだ。
ので、魔人族の欲求は分かる。
しかし。
キュアがチェンのその要求に応えるのは、大事な仲間だからだ。 だが仲間でもない彼等に、貴重な食糧を施すメリットはキュアには少ない。
「金属が足らねぇっつうんなら、城壁外にある鉱山に案内致しまさぁあ!」
「ソコにゃあ、この世界でしか採れねぇ鉱石もごぜぇやすぜ!?」
新鉱石は新武具の材料。
ソレ即ち新スキルの素である。
更に打算で言えば、現実で【鍛治】スキルが求められているのも有る。 鉄鉱石の安定供給が得られるなら、キュアにとっても美味い話である。
「うむむ……ソレなら俺にもチェンにも損は無いか。
チェン、暫く我慢できるか?」
「魔人族は鉄とか食べれないとツラいからなー。
チェンはいっつもキュアに食べさせて貰ってるから大丈夫だぞー」
「そうか、ならソチラの依頼を受けよう」
「へいっ!
有難うごぜぇやす」
魔人族は実力主義。
キュア達の強さに感服した彼等はキュア達に逆らう素振りも見せず、集落へと案内する。
「アッシはピョウでさぁ」
「アッシはユンでごぜぇやす」
「改めて、キュアだ」
「チェンはチェンだぞー!」
「朱雀、と申します」
チンピラ魔人族、ピョウとユン ( ) の案内で城壁伝いにマップボードで見て右下、南東へ進むキュア達。 その間、チンピラ魔人族が【魔神城】……魔界の外の話を聞いてくる。
「しかし……幾らアッシ等が雑魚魔人族とは言え、光燐のキュア兄サンに手も足も出ねぇとは。
あっちの人間は何時の間にそんな強く成ったんですかい?」
「【黒鼠神】【餓狼神】【名を失いし神】が同時に暗躍しているからな。
みな、それぞれで動いている」
「ほぁ~……大変でさぁな。
しかし、チェン嬢チャンは……」
「チェンも俺の仲間だからって、神々の野望に立ち向かってくれているんだ」
「神様が相手でも、チェン戦うぞー!」
「……大したモンでごぜぇやすな。
その年でその強さ、異世界に残った嬢チャンの先祖は上位魔人族だったんでしょうや」
「五百年前の伝説にゃあ、二強魔人族ってのが居りやしてね。
何時もケンカしてて、噂ではその片割れの 『ジャッキー』 っつう魔人族が魔神様に逆らったらしいんでごぜぇやす」
「御先祖様かー……。
うーん、チェンちょっと分かんないなー?」
「ちなみに、下位と上位の違いとは何でしょうか?」
「先ず、基礎ステータスが違うんでさぁ」
「後は……アッシ等は下位魔人族は、【魔人炎】が吐けなくなって久しくごぜぇやす」
「ふむ?」
最強の人間種、魔人族のチェンは 『13歳の少女』 としては異様なまでに頑丈である。 食べた金属が、爪や角に骨などに使われる他、魔人炎にも関係有るのではと予想していたキュア。
もし、この依頼で彼等が魔人炎を取り戻したなら───
殺気は出さず、警戒心だけは上げるキュア。
◆◆◆
「アッシ等、【下位魔人族の集落】でさぁ」
マップボード最南端の中央辺り。
モヤから始まり、徐々に形作られ、【下位魔人族の集落】が記された。
集落に居たのは、上は光燐の人間なら80歳ぐらいの老婆、下は5歳ぐらいの少年。 チンピラ魔人族と同じようなボロを纏い痩せ衰えた魔人族が40人ほど居た。
「ゆ、ユン……その人達は?」
「喜べ、こちらのキュア兄サンは【鍛治】持ちだぞ!」
ザワリと波紋が広がる集落。
キュア達を警戒しつつも、集まってくる魔人族たち。
「二人とも、【鍛治】に使う炉は有るか?
出来れば鉱石も補充してほしい」
「炉はコチラでさぁ。
城壁が出来る前に、上位魔人族が作った炉が有りやす」
「鉄鉱石も持って来させやしょう。
不味くて栄養にゃあ成りやせんが、口寂しさにかじってた奴がごぜぇやす」
「キュアの打つ剣は絶品だぞー!」




