269 村人、世界の果てに立つ。
「血みたいな色の空に、紫色の土か……」
「キショイなー……」
「(演出のようなので) 飛ぶにも立つにも、問題は在りませんね」
【魔神城の門】を【魔神城の鍵】のチカラで解錠し、中へと進入したキュア達が門を潜ると【門】だけがポツンと存在する荒野へと出た。
門の裏側は、特に何もない岩壁である。
「コレは【魔神神殿】の地下などでは無いな。
各地へ転移できる【門】と同じくようなモンなのかな?」
「かなー?」
「仕組みとしては同様なのでしょう。
【魔神城】とは、コチラでいうダンジョンなのかもしれませんね」
「そ、そうだな」
「だ、だなー?」
以前魔法ギルドにて、ダンジョンなる物の名前について一悶着あった朱雀。 その時の朱雀の暴れ (壊れ) っプリから、キュアとチェンにとってダンジョンとは割と禁句に近い。
「北東に人工の壁、城壁みたいなのが見えるが……ソレ以外は地平線しか見えないぞ?」
「ですがマップボード現在位置は、ほぼ左下。
最南西端辺りですね」
「んー?」
「二人の機動力に影響が無いなら問題は無い。
───進もう」
キュア達が南西へ向かうと、直ぐに地平線は途切れた。
代わりに現れたのは……崖。
直角に切り立った……崖。
まるで、この世界には地図の分しか土地が存在しないと知らしめるかのような……崖。
暗い、迚も迚も深く暗い闇が、空の赤と曖昧な境目で溶け合い……果ての果てまで続いていた。
「……が、崖底が見えないなー」
「…………。
崖底など無いのかもしれませんね」
「どういう意味だ?」
「主様の【敵視】は、偶に何でもない壁を透視できません」
「あー、有るな」
「あとは直前まで何も無かった天井に【光を食らいし蜘蛛】が出現するなど……まるでこの大陸には、世界をブツ斬りにしたかのような繋ぎ目が存在します」
「まあ……なあ」
【ドラゴンハーツ】は (古代人では無い 『かもしれない』 らしいが、とにかく何らかの文明を持った) 何者かが作りあげた 『物語』 である……と、キュアも理解している。
多少理不尽も感じはするが、制作者はココでユーザーにこうゆう風に試練を乗り越えて欲しいんだろうな───といった意図を匂わせる仕組みは所々に感じられた。
「此処は【魔神城】という【世界】であり、【魔神城の門】を潜る以外の脱出方法は無い…………という事かと」
「この崖をどれだけ飛んでいこうと何処にも辿り着けないし、崖を下っても崖底など永遠に無い訳か」
キュアは、分身体と本体……二人の朱雀から聞ていた 『ダンジョン』 という空間の交換転移については朧気にしか理解出来ていない。
ダンジョンは 『閉ざされた空間』。
別の理の成り立つ場所。
SFの教養のないキュアなら十分以上であろう。
「おそらく…… (制作者の意図次第では) 下手をすれば、崖を下ろうとし始めた 『時点』 での死も有り得ましょう」
「チェンも、いくらキュアに御願いされてもこの崖の上は飛びたく無いかなー?」
「分かった、この崖には一切近付かないようにしよう」
「おーっ!」
「主様の、良しなに」