268 村人、魔神城へ。
「此処が【魔神神殿】ですか……」
オードリーとバーン兄妹───私設兵団の問題を、取敢ず……飽くまで取敢ず解決したキュア達。
獲得した素材や余剰装備を売却し、回復治療薬を買い揃えた彼等は……北連山にある五柱神の神殿が一つ───【魔神神殿】の最奥に存在する【魔神城】、つまり最強の人間種である 『魔人族』 の住処の門まで来ていた。
「様々な装備を集め、魔法・スキルを獲得してきたし、朱雀も居るんだから……遣れない事は無い筈なんだがなあ」
「元々、この【魔神城の鍵】の中に入っていた【魔神の右腕】という者の魂は、故郷にて只の記号の羅列に成りました」
「記号の羅列?」
「ステータスボードが一番近いのでしょうか?
私も詳しくは在りませんが、 『プログラム』 と呼ばれる物です」
「プログラム……??
ソレはどんな物かは全く分からないのか?」
「情報量はステータスボードとは桁違いでしたが、幾らか程度には。
【魔神の右腕】本体はLV142あったものの……【魔神城の鍵】を媒介にした所為でLV112に留まった、などと在りました」
「三鬼や子竜より強いんだな……。
当然その辺LVの 『敵』 は、まだまだ居ると見るべきだよな」
「…………」
「(……主様。 この中に居るのは、封印されるような悪しき者のみとは言え……魔人族を 『敵』 呼ばわりは───)」
「ち、チェン……すまん」
キュアと朱雀が会話する中、魔人族であるチェンは一向に会話に参加していなかった。
心配するキュアと朱雀に、チェンは。
「……………………別に 『怖い』 とか 『嬉しい』 とか、そういうのは無いんだー」
「……チェン?」
「そりゃ、ちょっとは緊張はしてるけどなー」
チェンの表情は無表情であった。
正確には……いろんな感情が足され、或いは引かれた結果に生まれる表情なのかもしれない。
「…… 『悪い魔人族』 ってどんなんだろー? とか、悪い魔人族の所為で苦労した 『善い魔人族』 の事とか、もっとグルグルしちゃうかなー?
……って、思ってたんだけどなー」
「…………そうか」
キュアの感覚で言えば、見知らぬ同族など……会う前に特別な感情など湧きよう筈が無い。 会ってみて敵なら倒すし、味方なら助けるだけである。
然れど、キュア達が住むキュア達の世界に人間種は一種類しか居ない。 神という知的生命体は居るが、ソレはソレという奴である。 また、魔ナシであったりと───キュアとチェンとでは、そもそもの条件が違うので己と同様に扱って良いのか悩むも……。
「羽根娘」
「……んー?
なんだー、朱雀?」
「主様も私も、貴女を裏切る者は居ません」
「……うん」
「その事を、貴女の心は何より理解しているのでしょう。
今までの冒険を忘れなければ、雑念に囚われる事など有りません」
「……うん
…………えへへー♡」
キュアは、チェンの右手を取り。
朱雀は、チェンの左手を取り、三人で並ぶ。 親子繋ぎである。
「俺もチェンとの旅は、ずっと忘れない」
「私もですよ」
「よっしゃー、緊張とか無くなったぞー!」
「じゃあ……行こう。
朱雀、頼む」
「了解しました、主様」
キュアが朱雀を促した先、巨大な門。 その鍵穴辺りにサブイベントの合図である、 『?マーク』 が出現していた。
朱雀が手をかざすと……光が鍵穴へと吸い込まれてゆく。
「…………??
その光は? 魔力か何かか?」
「概念……的な物でもあり、何か吸われているようでもあり……」
「なんだそりゃ??」
【ドラゴンハーツ】内の朱雀の肉体となっている【魔神城の鍵】は、正確には【真・魔神城の鍵】という名前である。
清らか () な乙女の魂を必要とする【真・魔神城の鍵】は本来、キュアが選んだ 『チェンを生贄にしない』 ルートでは絶対に入手できない筈なのだが……朱雀の魂が納まる事で入手したのだ。
元々の【半壊した魔神城の鍵】であったならば【魔神城の門】は、中に入っていた【魔神の右腕】の魂を吸収し、ココで消滅していた。
【ドラゴンハーツ】の道具的には消耗品扱いとなるのだ。
しかし朱雀からは、魂はおろかMPなどすら吸っていない。 光は、ほぼ演出である。 感触としては掃除機を張り付けられた感じに近いか。
そして開かれてゆく、【魔神城の門】。
そこは……この世界において、魔界などと呼ばれている世界。 悪魔と語り継がれた、悪しき魔人族が犇めく世界である。




