266 村人、ヤマネを倒す。
「【鍛冶具】!」
≪ヂぃイイイッ!?≫
何らかの手段により、幾ら攻撃してもHPを減らせなかった 『8人の黒鼠教団幹部ヤマネ』 。
しかしキュアがMP吸収能力を持つ剣、【ソウルイーター】で1人のヤマネをMP切れにした途端……攻撃が通ってHPが減少したのだ。
「この【ソウルイーター】は、敵の肉体を傷付けられない代わりに……魂を奪う剣なんだ」
「ほんならキュア、無限に魔法を使えるんっ!?」
「其処まで便利では無いのですよ、ポッチャリ。
剣ゆえに杖と併用できず、大量にMPを吸収できる訳でもないので、スキル会得を後回しにしていたのです」
剣と指輪スタイルにしても、キュアの殲滅速度なら【ソウルイーター】で得られるであろうスキルを挟むより、他のスキルを使って素早く終らせる方がMP効率が良さそうだという判断である。
「ほーなんやねぇ……でもヤマネの【窮鼠猫噛】の邪魔をする能力は有るゆう事やんね!?」
「【ヤマネ:HP52%】……!
このまま押しきるっ!」
≪ヂチチぃ!?≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
≪チチッ≫
「うわっ!?
他の7人が光って……!?」
キュアが追い詰めたヤマネが悲鳴を上げると、残りのヤマネが一斉に輝きだし……その輝きが、傷だらけのヤマネへと集まった。
そして再び通用しなくなる、キュアの通常攻撃。
「……【ヤマネ:HP52%】かー。
別に、HPを回復したとかじゃあ無いんだなー?」
「おそらく、『MPを渡す』 感じのスキルなんだろうな」
「MPが回復して、再び 『光るスキル』 が使えるようになったのであるな?」
「予想では、だけどな」
ヤマネはMPをゼロにせねばダメージを与えられない。 1人のMPをゼロにしても、他の7人が補う。
───ならば。
「遣ることは普段とそんなに変わらん。
HPに8人分のMPが加算されていて、多少しぶといってだけだ」
「多少───とは、簡単に言ってくれるがな……」
「バーン兄ちゃん?」
「…………分かった、分かったのである。
…………ハァ」
もしもキュアが【ソウルイーター】を持っていなかったら……。
いや、そもそも仮にヤマネが回復薬や回復魔法を持っていたら、この戦いは絶望的であっただろう。 他にも、『この敵がこの道具を持っていたら討伐難易度は桁違いに上がっていた』 というケースは何度か有る。 しかし敵が回復手段を持っているのは非常に希であり…………持っていなかったが為に、キュア達に容易く討伐されたのだ。
そう成らない為、回復薬を多目に持ち歩くキュアには理解不能である。 彼はきっと、ラスボスがベ○マを使っても 「そりゃそうだよな」 と、文句は言わないのかもしれない。
「ヤマネは防御力が高いだけで、大した攻撃手段を持っていない。
冷静に行こう、【拡散援護】!」
「……そうであるな、私設兵団団員の為に」
「アタシは……キュアの盾であり、キュアと二人で双剣に成るんよ!」
「チェン、今まで色んな敵と戦ったからなー。
オマエ等なんかに負けないぞー!」
「主様の糧と成れ、鼠」
キュアが皆を援護し。
皆がキュアを援護し。
8人のヤマネを徐々に追いつめて、1人目のヤマネを倒したのを皮切りに───遂に全てのヤマネを倒し、勝利した。
◆◆◆
「……【鑑定】。
【【魔食いの癒し服】
魔力が無い者には唯の服だが、魔力が有る者が生命力を失う時、三割の確率で代わりに魔力を消費する服】か。
MPの効率は【癒し】より効果が高いが……三割ってのがな」
「【光燐】のキュアは、【黒鼠】の【窮鼠猫噛】を持ってないからなー」
「また、主様は杖魔法と指輪魔法を同時に使いますので、そちらも主様と相性は悪いですし……」
「まあ最終換算では、HP・MP回復薬を節約出来る計算だし……イザという時に、持っていて損は無い能力だな。
早めにスキルを取っとこう」
キュアがヤマネの装備品を根刮ぎ奪…………回収し、チェンと朱雀がその手伝いをしている頃。 バーンとオードリーの兄妹は【星読みの塔】最上階、を調査していた。
サブイベント終了のアナウンスが無いので、キュアも警戒はまだ解いていない。
───手の平いっぱいにキューブを持ちながら。