263 村人、五十九階を制圧する。
≪───ヂッ……!≫
「五十九階、制圧!」
ラットマンが占拠した塔を進むキュア達。
残るは最上階のみであるが……登るべき階段の手前に、薄い 『膜』 のような物がキュア達の前に立ち塞がっていた。
「水を板にして、ソレを立て掛けたみたいだな」
「板を立て掛けたかったのは上の奴等がワルいことしてるから、いたたけたけたきゃったんだなー」
自作の早口言葉で噛んだチェンが、たけたたかけった膜に炎を吹きかける。 しかし僅かな波紋を浮かべるのみで、膜に変化は無い。
「私も火でなら同じ芸当が出来ますが───コレは純粋な魔力の集合体が、水のように見えているだけですね」
「ど、どーするん、キュア?」
「たぶん、何とかなる。
だが───」
言って、キュアは五十九階フロアの角を見遣る。 その先に有るのは、調理台や錬金台だ。 三十階ほどでは無いがベッドなども有る。
豪華な意匠から、ラットマンの貴人用と思われた。
「みな、疲れているみたいだし……一旦休憩をとろう」
「五十九階までの全ラットマンは倒し終えたしねぇ」
「六十階に、誰か居るのか居ないのか知らんが……この板が有る間は、何かが起こったら分かるだろう」
「無くとも、この朱雀は分かりますが……まあそうでしょうね」
「今、増援が来るとしたら、外……一階からだしな。
───【道具箱】!」
三十階に出していた【道具箱】を呼びだすキュア。 この塔内で回収した物は、装備品だけではなくHP・MP回復薬や状態異常治療薬の素材もある。
三十階への回収作業の終了を理解した私設兵団分隊長達は。
「団長、我等では恐らく……」
「うむ。 ボスは、キュア達とて苦戦しうる相手であろう。
お前達はココで待て。
…………万が一の時は、三十階の皆を連れて塔から脱出するのだ。
───ソレからは任す」
「…………はい」
その時は、私設兵団の維持が不可能となろう。 現状ですら相当に追い込まれている主ヘップが、失敗した私設兵団に何をするか分からないからだ。
「団長っ!
御武運を……!」
「お前達……!」
「オードリー、【裁縫】で君の専用服が出来た。
良ければ来てみてくれ」
「キュア……。
こんなん…………ありがと」
「「「…………」」」
ともすれば、最後の別れ。
団長と部下の、涙の別れの横でイチャつく妹と天然を思わず睨む。
「どうした、バーン?
君の服も裁縫ボードに出た。
睨まなくともちゃんと縫うさ」
しばきたい。
だが……この余裕こそキュアの強さなのかもしれない。
たぶん。
きっと。
じゃないと腹立つ。
◆◆◆
「この魔法が効く筈だ。
……【穂垂】!」
「「「おー……!」」」
チェンの炎も私設兵団の剣撃も物ともしなかった、階段を塞ぐ膜は───結界破りの吉兆星により薄氷の如くパリンと割れた。
「……行こう」
「おっしゃー!」
立ち塞がる物が無くなったキュア達は最上階へ向かう。
「ワルい奴等の目的は何だろうなー……?」
「マップボードを見るに、この塔の名前は【星読みの塔】というらしい」
「星読み?」
「俺と朱雀の故郷では、インチキ占い師の事だがな」
「星を見れば、方角や明日の天気も分かります。
しかし星読みを名乗る者共は、 『人間は皆、自らの宿星を持つ』 などと抜かします」
「なんなん、ソレ?」
「その星を読めば、その人間の未来が分かるとか何とか……まるで、星が人間の為に存在するかのような言い草が気に食わん」
「そ、そうであるか」
魔ナシとかいう理由で差別していたというアジルー村とやらの村民や、仲間や家族の敵には敵意を見せるキュアだが……ソレ以外では余り見せないハッキリとした憎悪に、少しビビる面々。
「キュア、星が好きなん?」
「好きというか……一時とはいえ、嫌な事を忘れさせてくれるからな。
子供っぽいか?」
「ううん、そんな事ないよ。
アタシも……す、好きやけん」
「『教会』 も、『神の下に星在り。 神の下に教会在り』 などと謳ってましたねぇぇぇ」
「「「…………」」」
オードリーが (一方的に) キュアと良い雰囲気に成りかけた (天然は気付いていないが) 所で、朱雀が止める。
恋愛成就の神などでは無いので。
あと、ソッチ方面では割とポンコツ臭がするこの神。
止められているとも気付いていないキュアは、教会の言い草に顔を顰る。 キュアの魔ナシ判定をした組織であり、世間の魔ナシ差別を増長させており、反教会である領主館を襲う企みを持つ……キュアにとって教会とは、不倶戴天の敵なのだ。
「自分達は星と同格とでも言いたいのか。
……下らない」
「天が動くのではなく、地が動きます。
星は、私ですら届かぬ領域」
「そうなのか?」
「上位神は、また別の次元の御方なのでその限りでは無いのですが」
「上位神かー……。
強いのかなー?」
善き魔人族とはいえ、魔人族は魔人族。 バトルジャンキー気質のチェンは、「オ○、わくわくすっぞ」 と言わんばかりに目を輝かせる。
「強い弱いの次元では在りません。
あの御方が 『要らない』 と言えば、まるで本の一部を破り捨てるように世界から排除されるのですよ」
「す、スゴいなー……?」
「本体朱雀が仮にLV2~300万ぐらいだとします」
「【光を食らいし蜘蛛】の何倍強いんだよ……」
野菜の人もビックリのパワーインフレにわくわくしているチェンと、ゲンナリするキュア。 特にキュアは一度その朱雀にケンカを売った。 クリティカルや領主館の皆の為だったので、後悔こそ無いが……寒気は走る。
私設兵団の面々は……もう諦めた。
「あの御方は、正しくLV∞ですね。
『世界』 とは、あの御方が決めた 『何か』 でしか在りません。
強さという概念すら、上位神が作った物」
「何でもアリか…………」
成らば 『魔ナシ』 も神が───キュアはソコまで考えて止める。 その考えの 『先』 は、朱雀を疑う考えだからだ。
上位神に事情が在るのか、朱雀とは無関係なのか。
今のキュアにはどうしようも無い。
少なくとも朱雀は信頼する。
成らば、アレコレは後でいい。
「そうだ。
今は、コッチだからな」
「や、やっとやんねぇ……」
キュア達の前に現れたのは、五十九階までと比べて長かった最上階へ上がる階段の終わり。
皆、お喋りを止めて上階へ。
まるで一つの巨石をくり貫いて作ったと錯覚しそうな、塔その物と完全に同じ材質の手摺に身を隠しながら窺うと、ラットマンが8人。
うち一人が、黒鼠教団幹部である【ハムスター】や【カピバラ】と同じ衣装であった。
彼等は、地球で言う所の 『プラネタリウム』 っぽい部屋の中心で円陣を組み、ムニャムニャと念じている。
「な、何であるか?」
「儀式っぽいけどな……朱雀、何か分からないか?」
「魔力が円陣の中心で渦を巻いている、とだけしか───」
「まあ隣国との国境線……重要施設である筈の塔を、(黒鼠以外の) 人類共通の敵が使っているんだ」
「隣国がラットマンに明け渡したにしろ、ヘップ様の仰られた通り 『ラットマンが奪った』 にしろ……録な物では無いのであるな」




