259 村人、大蛇に食わせる。
「朱雀、どうした?」
「塔ごと燃やせないか、試していましたが……やはり無理みたいですね」
「そ、そうか」
義母兄の失敗の尻拭いをするオードリー達、ヘップ私設兵団。 その手伝いをするキュア達。
【黒鼠教団】だと思われるラットマンは、次々と六十階建ての塔から出てきていた。 如何な敵はキュアのスキル【戦場の華】の効果でキュアしか攻撃しないとは言え───切っても突いても射ても減らないラットマンに、疲労した私設兵団団員に絶望が広がり始める。
「こ、この六十階分全てのラットマンを相手にするんだろっ!?」
「コッチは100人にも満たないのに……アッチは1000人を超えるんじゃないのか!?」
「もうダメ───」
「───なら徐々に敵は弱く成ってゆくから、楽勝なんだがなあ」
絶望する私設兵団の前で、ノホホンと答えるキュア。 思わぬ言葉に、「はあっ!?」 とキュアを睨みつける団員達だったが。
「六十階から一階に下りてくる頃にはヘトヘトだろう。
まあ現実的な所、今すぐ来るのは三~四階ぐらいのラットマンまでじゃ無いか?」
「あ……」
確かに、相手も様子見ぐらいするだろう。 疲れて冷静さを欠いていた事を謝罪する団員、構わないと返すキュア。
「無論、飽くまで今すぐは……の話であって、後続は来るだろう。
だから休憩時間はかせぐ」
「ど、どーするん?」
「罠を仕掛けとこう」
「罠?」
【戦場の華】スキルの効果により己にのみ攻撃が集中するのを利用して、無理矢理二段ジャンプなどで二階へと通じる階段前へと移動するキュア。
「【火加護】、【拡散火柱】!」
≪ヂゃアアアアッッ!?≫
「エグいなー」
長時間燃え続ける火柱を階段前にバラ撒き、その周囲に陣取るキュア。 一階の敵は【戦場の華】のせいでキュアを無視出来ず、一部が火柱に突っ込み……二階から来る敵は火柱のせいで近付けない。
増援が (取敢ず) 無くなり、一息つく面々。
「朱雀、上の様子は分かるか?」
「主様の読み通り、四階のラットマンは様子を見つつ下りております。
五階は完全に状況確認待ちですね。
六階より先は、伝令を受けてすらいません」
「途中、扉で防がれてたりするか?」
「六十階への階段が。
五十九階までは、延々と一階とほぼ同じ構造の部屋が続きますね」
「なら【輝くトラペゾヘドロン】で魂を吸収しつつ、途中途中で【闇をさ迷う者】を解放して進もう。
この剣はスキルを得られないから、あまり頼りにしたく無いんだが」
「分かりまし───あら?」
キュアが切り札として、貴重なウエストポーチのキューブ枠を使ってまで常備している【輝くトラペゾヘドロン】。
普段の攻撃力は低いが、この剣で敵を倒すと 『生贄』 となり、魂が吸収されてゆく。 吸収された魂の数が多いほど、必殺技である【闇をさ迷う者】が強く広範囲に成るのだ。
「主様……その剣、魂が満タンです」
「は?
まだ、そんなに生贄は───」
「……彼方の朱雀に、この剣を見せませんでしたか?」
「あ、ああ。
クリティカルとヘイストに豊胸剤を渡した時、朱雀がちょっとだけ興味を示していたな。
……その時に?」
「ええ、私と同種の魔力です。
間違い無いかと」
【ドラゴンハーツ】での旅を、朱雀やクリティカルにヘイストたち領主館の面々へ語っていた時の事である。
だがしかし、キュアが突如薄気味悪い剣を取りだして聞き逃せない事を言い始めたので慌てる者が。 バーンとオードリーである。
「キュア、何の話だ!?」
「キュア、胸が豊かな女の子が好みなん!?」
「いや……今、豊胸剤は関係無いんだ」
「そ、そんな事は分かっている!
オードリー、ちょっと黙っていろ!?」
グダグダ、part2。
私設兵団団員が、こんな時に何やってんだという目を向けてくるが……珍しく今回はキュアの天然の所為ではない。 たぶん。
オードリーはガッツポーズを取っていた。 彼女は【ドラゴンハーツ】女性キャラで一番の巨───
いや、ソレは今は関係無いんだ。
「以前、私設兵団詰所の上空で朱雀が空を一面の炎に変えた事を覚えているか?」
「わ、忘れようがないのである。
朱雀殿はキュアの故郷の神の分身で、その余剰魔力を吐き出したのだったな」
「ああ。
この剣が、アレと同じように成っているらしい」
「なっ……!?」
初めて朱雀が【魔神城の鍵】として【ドラゴンハーツ】の世界へと来た時、ほんの少し詰めこむ魔力量を間違えた所為でデータを圧迫してバグりかけた。
悪影響が出る前に、余剰魔力を炎として空へ吐き出したまでは良かったが……余りに恐ろしい地獄絵図であった為、オードリー達の住む街は混乱に陥ったのだ。
当然、キュア達は勿論この場にいる私設兵団の人間全員がその光景を見ている。
「だ、大丈夫なのか?」
「【闇をさ迷う者】も朱雀も信じている。
───朱雀」
「はい、主様」
「朱雀は (ゲーム内パラメーターを持たないので) 剣を装備出来ないが……魔力は操れるだろう?
俺は闇を、朱雀は炎を操ってくれ。
二人の共同作業だ」
「あ、主様……其れって───
ふにゃああん♡」
「きっ、キュアっ!?
それどうゆう事なんっ!?」
「諦めなさい、ポッチャリ。
プロポーズは私の物♡」
「ぷろぽ……?
何の話だ?」
グダグダ、part3。
私設兵団団員が、こんな時に何やってんだという目を向けてく (以下略)
皆を塔の外へと避難させ、朱雀を落ち着かせ、【輝くトラペゾヘドロン】を握るキュアの手の上から朱雀も握らせる。
「いくぞ、朱雀!」
「主様の、良しなに!」
「【闇をさ迷う者】よっ!」
【輝くトラペゾヘドロン】から放たれる夜より暗い【闇】が、瞬く間に辺りのラットマンを呑み込んでゆく。
「朱雀、上の階へと先導してくれ!
このまま一気にラットマンを焼き尽くす!」
「了解です、階段はこの先ですよ!」
本来、【闇をさ迷う者】はプレイヤーの任意通りに動かせはする。
( 【闇をさ迷う者】で空中に絵を書く動画も有る。)
が……見えない場所で自在に折り曲げる事など普通のプレイヤーには不可能であり、精々が平原マップで雑魚を蹴散らし無双するだけだ。
然れど朱雀の案内と、現実での魔力操作に慣れつつあるキュアの制御で……闇は、六十階建ての塔を内側から食い破る大蛇の如く進んでゆく。
「二十八階まで伸びたか!
あとは、各階で【闇】を暴れさせるだけだ!」
「はいっ、主様♡」
塔の半分近くを一瞬で食らい尽くしたキュア達。
騒音が消えた。
「うぅ……キュアあ…………アタシも共同作業したいんよぉぉ」
「チェンも、もっとキュアの為に頑張りたいなー」
「「「…………」」」
唖然とするしか無いバーン他、(オードリー以外の) 私設兵団団員たち。
取敢ず塔の中の地獄絵図を想像し、ラットマンに同情心すら湧いていた。
もはや見苦しいですが、三度、土日を休まさせて頂きます。
一度目は想定外の予定が、二度目は風邪と瞼の負傷のWパンチ。( 痛みと腫れは無くなったのですが、まだ赤黒い上に目ヤニが酷い。)
今度こそ。
ソレと一話からの修正部分に魔法名も含まれるのですが、前回オードリーが使った【弾丸】は以前キュアが貸した【初心者の杖】の【火球】を修正した物です。
初心者の杖→弾丸の杖
火球→火+弾丸
弾丸 無属性の魔力弾