258 村人、とぼける。
「マップボードには、まだ名前も出ていないが───そもそもあの塔は何の塔なんだ?」
「隣国は監視塔として使ってたんけど……ホントの所は誰にも分からんのよ」
オードリー達が仕える国とは争いに成りつつある隣国。 その国が国境ギリギリに構える六十階建ての超高層建築物。
ソコに隣国兵は居らず、ラットマンが山と居た。
「何かコソコソとしていたとかか?」
「ううん、五柱神が地上を闊歩してた時代の物やけん。
そん頃はまだ、アタシ等の国も隣国も無かったけんね」
「俺の国の古代文明みたいなモンか」
キュア達の世界も【ドラゴンハーツ】も神は居る。
そして 『神話の時代』 と 『人間の時代』 に別れるのだ。
「ポッチャリ」
「なに、朱雀?」
「(副団長……ポッチャリって呼ばれてんだな)」
「(体動かす以上に食べるものね……)」
朱雀からポッチャリと呼ばれ、ソレに慣れきったオードリーは即座に反応する。
オードリーのアダ名を知らない私設兵団団員達は、朱雀を恐れるも……スタイル抜群の人間が多い世界の中では確かにオードリーの体型は…………いや太っている訳では無いのだ。
ただ、鎧を着るのに人一倍苦労するだけなのだ。
「那のラットマン共は、隣国の人間なのですか?
其れとも黒鼠教団の人間なのですか?」
「隣国に住んどるラットマンってホンのちょっとだけで、しかも貧民層らしいし……あんなは戦えんのんと違うんかなあ?」
「魔ナシだった俺みたいに、肉盾を強要されているとか」
「むぎゅうっ……!?
き、キュアを如何斯うと違うんよっ!?」
「何がだ?」
「う、ううん……。
普通は戦闘訓練も受けられんし」
「俺も戦闘訓練の師は魔物だったな……魔物に噛まれながら魔物の対処を覚えたモンだ」
「「「…………」」」
「ポッチャリ、此れは主様の天然というより…………アジルー村の人間が屑であると、理解しなさい」
「……うん」
「???」
普通の権力者は、貧民に戦闘訓練など施さない。 チカラを付けて反乱でも起こされては堪らないからだ。
───放火宣言、妹への暴行未遂といった蛮行から大激怒された、アジルー村村民とキュアのように。
同じく貧民から拾われたオードリー兄妹とて、厳しい管理と監視が付く。
キュアのケースは、クリティカルという人質が居たからキュアが辛抱強く我慢したのと……アジルー村の人間が、反乱の可能性を考慮できない無教養さから起きたケースなのだ。
「まあよく分からんが、オードリーの考えだと奴等は黒鼠教団だと?」
「たぶん、やけんどね」
「黒鼠教団なら、人間《隣国の民》の為に動いているのは 『フリ』 だろうな」
「ヘップ様も、そう言よったわ」
「……ヘップ様は、そうであって欲しいってだけじゃ───」
「「「…………」」」
「───時間やよ」
夕刻。
黄昏の語源、『誰そ彼』 の言葉通り、人や物が見え辛くなる時。 逢禍時。
一斉に私設兵団がラットマンで溢れる塔へと向かう。
「朱雀、バーン達の部隊は確認出来るか?」
「ええ、主様。
凡そ同時に突撃開始しました。
声は送れませんが、なんとか主様の存在を知らせますか?」
「いや、バーンなら合わせられるだろ」
視認は出来ないが、反対側からはオードリーの兄であるバーンも突撃開始したようだ。
微かに複数の馬の足音が聞こえる。
「オードリー、一番槍は俺が貰う。
【拡散弾く光球】っっ!」
≪ぢぢっ!?≫
キュアが手に持つ杖から、圧倒的な光量の弾丸がバラ撒かれる。 ネズミらしく、然程に目の良くないラットマンは何処から誰から攻撃を食らったのか分からずパニックに陥った。
追撃せんと飛来する二人の美少女と美女。
「おっしゃー!
なら二番槍? はチェンだぞー!
【魔人炎】っ!!」
「なんの、私が!
火燐よっ!!」
「あ、アタシだって!
【弾丸】っ!!」
正面からは、僅かでも触れると大きく弾き飛ばされる魔法弾。 頭上からは空飛ぶ女達が、笑いながら火炎を振り巻いてゆく。
先制攻撃によりパニくったラットマン達へ私設兵団が突撃する頃には、陣形を立て直そうと塔外に居た者達だけでは戦闘継続が出来ぬほどに消耗しきっていた。
「き、キュアっ!?
空から炎が落ちてきていたから、まさかとは思ったが……」
「バーン、話は後だ!
先ずは安全確実にラットマンを倒そう」
「わ、分かった!」
「異母兄の話は聞いたが……絶望するなよ?」
「…………ああ」
オードリーとバーンの異母兄ヘップからの命令は、端的に言えば 「死んでこい」 である。
自らの保身のため、尋常成らざる数のラットマンの殲滅を命ずるという事は 「そういう事」 なのだ。 ヘップが、その事を理解しているかは怪しいが。
「扉が開いた!
出てくるぞ!」
「くっ……やはり数が多いのである!?」
「バーン兄ちゃん……キュア……!」
私設兵団は、ヘップが無茶な命令をする割には戦闘熟練度が低い。 先に言った通り、権力者が平民に戦闘訓練を施さないし、基本は外に出さず自らの護衛ばかりさせていたからだ。
マトモに戦えるのはオードリーとバーンぐらいか。
「みんな、俺を狙う敵を狙え!
───【戦場の華】っ!!!」
≪≪≪ヂヂヂぢヂヂヂヂヂっ!?≫≫≫
今、正に私設兵団団員の一人にトドメを刺そうとしていたラットマンも。
怪我をし、命からがら逃げようとしていたラットマンも。
戦場に居た全てのラットマンが、一斉にキュアを狙い襲う。
敵は使用者に集中攻撃をし、味方は使用者を援護するとステータスUPするスキル、【戦場の華】の効果である。
「きっ、キュアっ!?
大丈夫なんっ!?」
「ああ。
魔物を操ったカピバラとか、故郷だと100人のマフィアとか……個対多には慣れている!」
「す、凄まじいな!
どんな装備から得られるスキルなんだ!?」
「…………」
【戦場の華】を得られる【シルクランジェリー】。
嘗て、ランジェリーという言葉を知らなかったキュアは───オードリーに【シルクランジェリー】を着せて、悲鳴を上げさせてしまった。 あげく、激怒したバーンに顔面を殴られた。
キュアの人生の中でもトップクラスの恥なのだ。
「ち、ちょっと何言ってんのか分からんな」
「何故にっ!?」




