249 村人、ゲーム内容を語る。
「───ふうぅぅ……。
美味かったよ、二人とも。
……御馳走様」
八部伯衆を倒し、一連の出来事を領主館執事コリアンダーに報告し終えたキュア。
食堂にてクリティカルが晩御飯を作ってくれていたが……何故か、ヘイストも作っていた。
「昼飯を抜いたから、一食分じゃ足らないだろう」 との事だが……別に一食抜いたからとて、キュアの胃袋は二倍に拡がったりしない。 しかしニコニコと微笑むヘイストに要らないとは言えず……キュアは二人の晩御飯を食べる。
更に何故か、キュアの両脇にクリティカルとヘイストが陣取り、「兄さん、この野菜炒めは自信作よ」「キュア、腕を上げた肉巻きだぞ」 と 『あ~ん合戦』 を繰り広げ始めたので逃げる事も出来ず、なんとか八部伯衆以上の強敵を平らげた。
使用人たちは安定のニヤニヤである。
「……主様、眠くは御座いませんか?」
「だ、大丈夫だ」
食堂隅にて、キュアの食事を邪魔しないように見つめていた朱雀がテーブルを挟んでキュアの前に立つ。
子供じゃ無いんだし、お腹いっぱいに成ったらすぐ眠たくなる訳じゃ無い……と言いたい所だが、激戦の後の激戦で流石にちょっと眠いキュア。
朱雀が、「では───」 と指を鳴らすとキュアのお腹が幾らかスッキリした。 胃の中で、中身の余剰分を焼いたのだろうか…………ちょっとビビるキュアである。
「先ず、主様が【会心】を得た経緯などを知りたいですね。
出来れば、昨晩の眠った所から」
「そこからか?」
領主館には朝働く使用人と夜働く使用人が居る。 食堂にはもうすぐ寝る人間と起きてきた人間が入り交じっていた。 キュアの友人と成った使用人、街を救ってくれて感謝している使用人、感謝はしているが人間的興味はない使用人などなど。
テレビやネットなど、数多の娯楽を提供してくれる場が存在しない世界の住人達は、キュアの【ドラゴンハーツ】の話を寝物語がわりに楽しみにしている者も少なくは無い。
キュアの話に興味はない人間の邪魔に成らない位置で、キュアは語る。
「【名も無き集落】で【ゾンビ化】を治療してメデタシ───とは行かなくて……行方不明に成った子供を探していると、『ワニ』 なる巨大なトカゲみたいな魔物が襲いかかって来たんだ」
「ワニ?」
「コッチにも居るって聞いた事あるぜ。
人間も平気で丸飲みしちまうらしい」
「「「きゃああっ!?」」」
遠方へと荷物を配達する人間と親しい使用人は、周囲の女性陣を怖がらせて話の種にし。
「中々てごわい魔物だったがドラゴン程じゃない。
子供たちに怪我なく倒した後、宴会と成ったんだが……この時、チェンとアチラの朱雀が微妙な距離間だったな」
「チェンちゃん、御両親を亡くされて二人に懐いてたもんねぇ」
「…………」
【ドラゴンハーツ】内でマスコット的人気の有るチェンは、領主館使用人にも人気が高い。 また、一度は【ドラゴンハーツ】内の朱雀を取り込んだ朱雀本体も、チェンの事は分かるし……愛おしさも有る。
「で、北連山を降りた所に、鍛冶師のダイが居て……」
「兄さん?」
「キュア?」
「「エッチな夢───」」
「───じゃ無いからな?」
【名も無き集落】で会話した、房中術の話などのクリティカルとヘイストが怒る話はたまたまスルー出来たキュア。
愛で甚たし。
ソレから、ダイが 『地球』 なる異世界からの神ヘルメスから齎された金属─── 『オリハルコン』 に纏わる話、そして【光燐神殿】 へ武器を打ちに行った話へ。
「この時、【光を食らいし蜘蛛】の不意打ちを食らったんだが……コレで朱雀が酷く落ち込んでなあ」
「当然です。 神として有るまじき失態ですから」
「勘弁して遣ってくれ。
おそらく、不意打ちの不意打ち対策として、その時まで蜘蛛の巣は 『夢の中に無かった』 んだから」
「主様がそう、仰られるのならば……主様の、良しなに」
「───まあ俺も落ち込む朱雀に、半ば怒鳴るような説得をしたら…… 『ふにゃ』 とか言いながら半眼で睨まれるように為ってしまったが」
「「「……っ!??」」」
天然様と会話を重ねる者は、段々と 『話の裏』 を読む能力に長けてくる。
たぶんこの天然タラシ、神様を口説きやがった。
神様に忠誠心だけではなく、本気で惚れさせやがったのだ。
せっかく少女達が一番怒る話を回避出来たのに……ブチ切れ大激怒させる話に激突してしまったキュア。 一斉に朱雀へと向く、無数の視線。 如何な神とは言え、己の分身の奇行を聞かされた上でこの視線は、不覚にも顔が赤くなってしまった。
「朱雀?」
「例え神でも抜け駆けは許さないぞ?」
「ど、【ドラゴンハーツ】の中の朱雀です。
主様、続きをどうぞ」
女性陣の渦巻くドロドロに、気付いていないキュア。 だが、ダイに抱きつかれた事までは語らない。 珍しく本能が働いたようだ。
「あ、ああ……。
【光を食らいし蜘蛛】は強敵だったが……朱雀とチェンとダイが、雑魚蜘蛛を引き付けてくれたから倒せた」
「八部伯衆にも、そんな奴が居たら……せめてキュアの役に立てたのにな」
ヘイストが寂しそうに笑い、クリティカルも同調する。 困ったようにキュアが笑い。
「そして───まあ色々とあって」
「…………」
朱雀がピクンと反応する。
キュアは隠そうとしたようだが───【光燐神】からキュアが得られた筈のプレイヤー専用スキルを、バグのような状況から間違えて朱雀が得てしまった事を…………天然故の素直さから、誤魔化した事に気付かれたようだ。
だが今は話の流れを優先するためか、敢えて問い質そうとはしない。
「……一部【光燐神】のチカラだか権利を得、オリハルコン製の指輪……【会心の指輪】を手に入れた」
「異世界の金属オリハルコンから……な、何だか仰々しいわね(照)」
「……強化の杖は、その辺の村で売られてた杖なのにな(泣)」
「へ、【強化】には相当助けられたから」
悲喜交交。
慌ててフォローするキュア。