247 村人、賭けに勝つ。
「───はっ!?」
「御目覚めですか、主様」
「あ? あ、ああ……」
八部伯衆を倒し、飛行する火の鳥形態の朱雀の背で目覚めたキュア。 多少寝惚けてはいるが体調には何の問題も無いようである。
「俺は…………寝ていた、のか??」
「主様は芋の八部伯衆を倒したと同時に、魔力欠乏症により気絶なされました」
「魔力欠乏症?」
告げられ、徐々に記憶が蘇ってくるキュア。 仲間や武装など、条件は違うので一概には言えないが【ドラゴンハーツ】の三鬼より八部伯衆一匹の方が強かった。
余力を残して勝てるような相手ではなく、全ての魔力を使いきるつもりで戦い───気絶したのだ。
「……魔ナシの俺には縁の無かった症状だからなあ」
「特に主様は、目眩や悪心など……主様の妹のような事前の初期症状がかなり薄いようですね。
御注意なさいませ」
「分かったよ。
戦場でブッ倒れるなんて、殺されても文句は言えんからな」
【アジルー村】の人間がキュア達の生家に放火宣言をした時。
精霊と莫大な魔力を遣り取りしたキュアは、朱雀を喚びだして気絶した。 あの時はまだ、魔ナシの己が魔法を使えるとなど考えもしなかったが───今は違う。
キュアの失態と言われれば、間違い無くそうだろう。
暫し反省していると。
何かを思いだし、急にビクンッと飛び上がるキュア。
キュアのビクンッにビクンッと成る朱雀。
「ど、如何か為されましたか?」
「───お、俺が気絶してから何日経ったんだ!?
領主様は……レイグラン様は、御帰りに為られているのか!?」
「主様が気絶した瞬間から、まだ一時間と経っておりませんが?」
キュアが気絶すると、朱雀は火燐状態となりミイラの如く己の体内に包みこんだ。 後は領主館執事コリアンダーとの約束通り、二年程で友好領地の土地が癒えるように細工をして、一気に芋の八部伯衆が住んでいた洞窟を脱出したのだ。
「そ、そんなに早く回復したのか。
俺の魔力は、呼吸で得られるとは言え……」
「私の魔力も吸収なされていましたから」
「そうなのか? 悪かったな」
「いいえ」
どんな風にキュアのクチから朱雀の魔力が吸収されたのか……ソレを知るのは朱雀だけ。
正に、神のみぞ知るという奴である。
「……俺は、合格か?」
「オマケ付きでなんとか、といった所でしょうか」
「そうか……済まない、有難う」
主従関係とは言え、人間と神。
朱雀の望まぬ事を望外に叶えさせた賭けに、キュアが頭を下げる。
「私を───いえ、彼方の朱雀を取り込むのと、記憶を読むだけなのとでは全く違いますから……惜しくはありますが、賭けは賭けです」
「向こうの朱雀だけではなく、朱雀自身も何か違うのか?」
「彼女を取り込めば、私自身が主様との【ドラゴンハーツ】の旅を体験した事と成ります」
「ふむ?」
「……記憶を読むだけでは、別人の体験談を聞くだけのような感じでしょうか」
「以前の、勇者や魔王に仕えたという 『別の朱雀』 みたいな物か。
記憶より記録みたいな」
嘗ての精霊王達に仕えたのも朱雀だが、与えられた記録を共有しているに過ぎない。
「クリティカルやヘイストが、【仮想現実装置】の体験談を楽しげに話すのを聞くだけ、とか考えると…………嫉妬は有るかなあ」
「ですから、主様には私に面白楽しい冒険譚を用意する義務が有ります」
「え、鋭意努力するよ」
キュアにとって、恩有る現実の朱雀も仲間であるVR内の朱雀も大事なのだ。
どちらの朱雀も望むような冒険をするため、キュア達はコタリア領の領主館へと帰ってゆく。