246 村人、八部伯衆へ猛攻をかける。
「魔法を食うのか……!?
属性の違う、【水球】と【土球】!」
≪…………≫
「───っ。
……【ワイルドスラッシュ】!」
≪…………≫
キュアが、様々な属性の魔法弾を全長12m、全幅3m、全高4m (およそ大型トラックのサイズ) の 『芋タイプ』 八部伯衆へと放つ。
然れどプラズマ・液体・固体など関係なく、魔力由来の物質はもれなく消滅してしまう。
スキルも、現実で使えば魔力由来と成ってしまい物理攻撃という属性が乗ろうと消滅は免れない。
「ふむ、魔ナシの俺に魔法の効かない敵か……【強化】、【スイッチ・唯の剣】!」
攻撃魔法が効かないならば、隠し武器という機構ゆえに如何しても細く薄くなってしまう仕込み杖より攻撃力の高い、普通の丈夫な剣へと持ち替えるキュア。
自分にだけ作用する魔法を使い、八部伯衆へと接近する。
「はあっ!」
≪…………ぅ≫
初めて通る、キュアの攻撃。
八部伯衆も微かに脈動が乱れる。
……が、一瞬だけだ。 浅すぎる。 魔法もスキルもない唯の人間の一撃など、神に近しい存在相手ならばそんな物だろう。
「主様、降参なさいますか?」
「応援をすると言ったんなら応援だけしててくれ」
「では、健闘を願います」
【アジルー村】の肉盾時代、対処法の分からぬ敵など粗に居た。 遣りたく無くとも戦っていた時ですら諦めたりしないキュアが、仲間の人生が掛かった一戦を容易く諦める事など有り得ない。
朱雀も、そんなキュアの事を良く知った上での発言だ。
「【強化】は、まだ掛かったまま…………奴に直接触れてしまった時は分からんが、俺自身への魔法まで食われはしないって事か。
なら───」
≪…………ゎん≫
八部伯衆の特性を理解したキュアが、魔力の節約を止めて本気を出そうとした瞬間……八部伯衆が震える。 ソレは脈動ではなく確かなる、移動。
回転するように動いた八部伯衆。
地面や壁に突き刺さっていた根の一部が千切れ、断面がキュアへ向く。 そこから放たれたのは、泥水のような 『何か』 。
範囲が余りに広すぎて、腕に掠ってしまった。
「くっ……毒っ!?
【毒忌───いや、【超毒忌避】!!」
キュアは魔力節約のため、【毒忌避】を唱えようとして……掠り傷を中心に猛烈な勢いで腐り始めたのを確認。
信じられない程の猛毒と判断したキュアは、【超】に切り替えた。
「痛ぅ……掠っただけなのに、【ドラゴンハーツ】なら、毒LV8か9相当だったな。
もし【超毒忌避】を持って無かったら死んでいたか…………」
無論持っていなかったその場合、朱雀はこの八部伯衆への挑戦権を与えなかったのだが。
それでも、頭部に当たれば即死は免れない。 キュアに気付れぬよう体表面へ施している火燐バリアが発動した瞬間、朱雀はキュアの負けを言い渡すつもりでいる。
「だが、根の動きは見切った!
新たな根を増やそうと効かない!
【スイッチ・仕込み杖】、【倍加強化】!」
「あ、主様……!!」
≪…………っ≫
今のキュアが杖魔法に込められる最大限の魔力を、【強化】に送る。 【強化】はMP消費が大きめの魔法である。
一気に魔力を失うキュア。
「朱雀、コレが今の俺だっ!
【会心】の一撃を食らええぇぇぇ!!!」
≪ォ……ぉォ…………っ!?≫
残ったMPを【会心】に込め、八部伯衆へと猛攻を掛けるキュア。
鈍重な芋など、音速に近付いたキュアに追いつける訳もなく……高速の超ダメージで斬られるがままと成っていた。
≪ぉぉおおお……!!≫
「毒なんか当たらん!」
二等分にされ、四等分にされ、細切りにされてゆく八部伯衆。 断面から毒泥が吹き出てくるが、驚異の動体視力でゆっくり避けてゆくキュア。
次第に、八部伯衆は小さな欠片と成って───
「トド───メ、だ…………?」
≪ぉ……ぁ…………≫
「人間が、ココまでのチカラを出せるとは……見事です」
動く手段を完全に無くし、毒泥を吐き尽くした八部伯衆。 【強化】への魔力供給を止め、【会心】へと向けたキュアの渾身の一撃が、地面ごと八部伯衆を破壊した───所で気絶するキュア。
魔力欠乏症である。
火燐となり、一瞬でキュアの隣に立ち抱きとめる朱雀。
【ドラゴンハーツ】でMPを使いきっても特に何もペナルティーは無く、現実で魔ナシだったキュアは魔力欠乏症に無頓着と言えた。
気化毒に無知だったのも良く無かった。
「やや、詰めが甘いですが……賭けは主様の勝ちです。
……私も甘いですかね」
指をパチンと鳴らす朱雀。
キュアの猛攻が無くなり、再生をし始めていた八部伯衆を焼き滅ぼす。