243 村人、チョビ髭を知る。
「き、ききキュアさん……!?
ほ、豊胸剤って……!??」
現実の本体朱雀との会話中に飛び出た【豊胸剤】の名。
キュアが渡すつもりのクリティカルとヘイストは羞恥プレイに悶え……領主館食堂内の一部女子は、目の色が変わりキュアへ詰めよる。
「【ホルモンDX】という薬と、【クイーンミノタウロス】っていう化物を倒して入手した【クイーンミノタウロスの乳腺】を【錬金】で交ぜ───」
「ふ、二人分だけ!?
他にもっと無いのっ!?」
「クイーンミノタウロスは牛なんで、一匹につき四つの乳腺しか取れなくて……一つは依頼人に、一つは仲間に。
今度は皆の分も───」
「こ、今度って何時!?
明日!? 明日なの!?」
近い。 あと多い。 人生の中で、ココまで大人数の女性に近寄られ囲まれた事は無いキュアはビビっていた。
まだ、女王牛角鬼・真吸血鬼・金剛単眼鬼・万を超える餓鬼に囲まれる方が怖くない。
「い、いや……クイーンミノタウロスが珍しい魔物なんで。
あの依頼以外に、何時でるかは……」
「…………今日は熱っぽいから仕事を休ませて貰って、キュアさんが働いている間に【仮想現実装置】の中へ───」
「大丈夫ですか?
【病忌避】・【超毒忌避】・【癒し】」
「…………」
体調の不調を訴えた女性に治療回復魔法を掛けると、女性の目が濁る。 無論キュアは気付かない。
別の女性は直に訴える。
「クイーンミノタウロスって、どのくらい強いのかしらっ!?
私でも倒せるっ!?」
「身長が9mを超えて、炎の怪人の数倍は強いですね。 ソレと同格が三匹同時に」
「…………」
女性の目が濁(以下略)。
クリティカルやヘイスト、男性陣はキュアの戦いそのものに意識が向く。
「アシッド超えの化物が三匹……!?」
「ソイツ等に勝つキュアでも、八部伯衆はギリギリ倒せるか否かって───だ、大丈夫なのか?」
「主様を殺すつもりは在りません。
無理だと判断したなら、私が決闘を中断させます。
……勿論その時、賭けは私の勝ちですよ?」
「分かっているさ」
八部伯衆とキュアが一対一で対決する賭けをしたキュアと朱雀。 キュアは朱雀の条件を呑み───
「後は今夜に備えないとな」
「兄さん、領主館の仕事の後に出るつもりなのっ!?」
「前回の岩亀の時は、コリアンダー様からの依頼の流れで倒したが……今回は私闘だ。
仕事を休ませてくれとは言い難いだろ?」
「でも……」
キュアの予定とクリティカルの心配事を聞き、朱雀が 「ふむふむ」 と思案し。
「主様、チョビ髭が納得する八部伯衆が一匹います」
「チョビ髭?」
「「「……っっ」」」
【ドラゴンハーツ】内の朱雀は、人を名前ではなくアダ名で呼んでいたので、キュアは文脈から何となく、チョビ髭=領主館執事コリアンダー様なのかな? チョビ髭って何だ? 程度の反応だが───
……食堂の使用人達は、揃って誰にも己の顔を見られないように反らす。
クリティカルとヘイストも。
男性貴族にとって、立派な髭とはある種のステータスである。 コリアンダーは主人レイグランと並んだ時、邪魔に成らないよう幾分か控えめな髭をしていた。
神である朱雀に人間の権力差など関係なく、コリアンダーとレイグランの見分け方は、 『チョビ髭の方』 『仙人みたいな髭の方』 程度の認識なのだ。
閑話休題。
「主様の妹なら知っているかもしれませんが……隣接領で、近年作物の不作が続いています」
「……あ、ああ───知っているわ。
この領地とも親交があるもの。
農作地が、謎の土地枯れを起こしていて……コタリア領でも、支援による経済圧迫・輸入されてくる食料の不足で、コリアンダー様とレイグラン様が頭を悩ます問題よ」
「まさかその原因が」
「ええ、隣国のとある洞窟に住まう 『芋の化物』 のような八部伯衆の仕業です。
奴本体は然程動かず周囲に根を伸ばします」
「『亀』 の次は 『芋』 か……。
その根が、隣接領の農作地を枯らしているんだな?」
「そうです。
チョビ髭にこの事実を伝えれば、主様の自由行動を認めて下さるかと」
「分かった、頼んでみよう」
◆◆◆
キュアに事情を聞いたコリアンダーは、大層な渋面を作った。
重機の無い世界で、土地の入れ換えともなると…………日本円にして数十億、いや 『芋の化物』 とやらの根の数・規模しだいで複数の領地に被害が出ているかもしれない。 下手すれば数千億事業にすら成りえたのだ。
起き抜け一発───イチ領地の権限・財力を超えた話を、解決したいんで許可して下さいと言って来たキュア。 如何なコリアンダーが仕事の出来る者とは言え、一人で判断するには大きすぎる。
「人間、貴方一人が黙っていれば、原因不明の土地枯れが原因不明の回復をした……で済みます」
済むワケが無い。
負債は負債で、経済の流れに組み込まれている。 自領と友好領が不自然に得したからヤッタね! で済んだら世界はもう少し平和だろう。
然れど。 人間の理屈が、神 (と天然) に分かるワケが無い。
「せめて土地枯れの自然回復には多少の御時間を……」
「ふむ……主様が件の八部伯衆を退治した暁には、サービスで土地を癒そうとしていたのですが……殊勝な心掛けです。
分かりました、二年程で回復するよう調整しましょう」
「有難き御言葉」
有難いのは、誉められたから───では無く二年の猶予を貰えたからだ。 ソレならば他領他国にバレる事なく、コタリア領が得する形で計画を立てられる。
既に立てていた計画方針の変更で、コリアンダーの仕事は増えるが。
寝て覚めるたびに、仕事が増えているが。
その大半がキュアの所為だが。
「───はあ。
しかし、キュアを日帰りで他国まで連れて行けるのですか?
レイグラン様は、首都からコタリア領まで同国内で三日掛かるというのに」
「瞬間移動という訳にはいきませんが、音より速く飛ぶくらいは出来ます」
「お、音より速く……ですか」
想像もつかない世界───しかし想像もつかない出来事なら、寝て覚めるたびに増えてゆくのでもう慣れたが。
その大半がキュアの所為だが。




