240 村人、穂垂と倍加のスキルを得る。
「何も、無理に全部を買わなくとも───
今からでも、スキルを得られる物だけを買われては……?」
魔法屋コスナーの下へ、杖の魔法名を買いにきたキュア。
所持する杖のなかで未知の魔法名を全部買う金は有る。 然れど回復薬などを充実させようとすると、やや足らなくなってしまう。 連戦が続いたからだ。
用心深く仲間想いのキュアは、余り不足を好まないのだが……。
「キュアー? チェン、強くなるぞー!」
「チェン」
「羽根娘……」
本来【ドラゴンハーツ】は、戦いの中心になるプレイヤーが一番ダメージを受ける設定になっている。 然れど、キュア自身はそこまでダメージを受ける事は無い。
受けるとすれば───仲間を庇った時のキュアか、凡ミスをしたチェン達である。
しかし弱い初期こそ回復薬を沢山消費してしまうが、中盤以降は回避・防御力も上がる。 キュアが気にする程には守らなくても良いのだ。
回復薬の世話になる事も少ない。
「そもそもキュア、回復薬とか買いすぎな気がするけどなー」
「其れは……まあ、有りますね」
「そ、そうかな?
……分かった。
ケルキオン以外の全魔法名を買うよ」
「主様……」
「朱雀には……何時も、敵や地形の探査に扱き使ってしまうからな」
「そんな……私は其のようなつもりは───」
「分かっている」
朱雀(本体)は、キュアを精霊王するためにかなり無茶をした。
放火宣言をされ、妹クリティカルに危害を加えようとされたキュアは激怒し……【アジルー村】の人間に、幼馴染みアシッドに反撃した。
完全にアシッドの逆恨みなのだが……キュアへの恨みを利用し、【コタリア領領主街】を襲わせたりキュア自身に瀕死の大怪我を負わせたりもした。
それでも───
キュアは、朱雀に深く感謝している。
『魔ナシは神と精霊に嫌われた世界の害悪』 と言われながら育ってきたキュアに、神に属する朱雀から 『神の慈悲は、魔ナシにも与えられる』 と受け入れられたのだ。
出来る恩返しはしたい。
「敵も多彩になっている。
決して無駄には成らない。
……いや、無駄にはしない」
「……そういう事であれば。
主様の、良しなに」
「ああ。
ソレとコスナーさん、待たせたな」
「ん……まあ、元々引退した暇ジイサンだからな。
アンタ等以外に客は来んし、エエよ」
コスナーへ、魔法名代を払うキュア。
「【炎円】【風盾】【倍加】【操獣】【毒】【穂垂】───じゃよ」
「【穂垂】は分かってたんだけどなー?」
「発動しなかったんだよなあ……」
【ドラゴンハーツ】の謎常識である。 これでキュアが使える杖魔法は以下の通り。
( 頭の○は、【他の杖でも○○を使える】系スキルを獲得している魔法。)
○初心者の杖 (ファイヤーボール)
○中級者の杖 (ファイヤーピラー)
・炎円の杖 (ファイヤサークル)
○水の杖 (ウォーターボール)
○雷の杖 (サンダーボール)
○土の杖 (アースボール)
○木の杖 (ウッドボール)
○鍛冶師の杖 (メイクハンマー)
・穂垂の杖 (コメット)
○ショットガンの杖 (ショットガン)
・毒の杖 (ポイズン)
○強酸の杖 (アシッド)
○霧の杖 (フォッグ)
・倍加の杖 (インクリース)
○拡散の杖 (ワイド)
○強化の杖 (ヘイスト)
○援護の杖 (ヘルプ)
○衰弱の杖 (ウィーケン)
・風盾の杖 (エアシールド)
○犠牲の杖 (サクリファイス)
・操獣の杖 (ティム)
○敵視の杖 (エネミービジョン)
○箱の杖 (アイテムボックス)
○?の杖 (トランス)
○写しの杖 (カメラ)
・ケルキオン
「だいぶ揃ったなあ……」
「まだまだ、世の中には杖は有るよ。
とゆうかの、兄ちゃん無茶しとらんかの?」
「無茶は……」
「チェン、してると思うなー」
「兄ちゃんのスキルを見てたらよ……この数で会得出来ない筈の杖とか多いんじゃ」
「適正スキル数という奴か」
今まで、何人かのヒロインに心配されている事である。 【ドラゴンハーツ】製作陣は、敵LV=適正スキル数を推奨しているからだ。
「例えば主様の妹は、運動神経の良い方でしょうが……彼女がこの国に来ても……主様と同じスキル数で【王ゴーレム】を倒せるとは到底思えません」
「魔人族じゃない人間なら、防御系パッシブスキルとかもっと多いぞー?」
一部のイベントは早い段階 (少スキル量) で受けられるが、同イベント内で加速的に雑魚が強くなるケースも有る。 時間をかけて臨まねばクリア出来ない。
そういったイベントを一発クリア出来る方が異常なのだ。
「うーん……。
そう言われても、結構効率よく集めている方だと思うんだがなあ……」
「まあ頑張るんじゃな。
その序でに、杖と金を持ってこい。
カッカッカッ」
「ああ、必ず」
◆◆◆
「【倍加穂垂】っ!
───スキル獲得っと」
コスナーの村を出て。
大急ぎで魔物を探しだすキュア達だったが……野生なので数が居ない。 やっと見つけたのは、二匹の魔物。
これはスキルを得られないか───と諦めかけたキュア達であったが。
「弱い魔物一匹倒すのに、時間かかっちゃたなー。
壊れる前は凄い魔法だったのにー」
「おそらく【穂垂】は結界破壊にのみ特化し、攻撃力は二の次三の次という魔法なのではないでしょうか」
「結界を持ってない敵には、イマイチ実感が無いし……【倍加】は、弱い魔法の威力を倍加したところで、これまた実感が無いしなあ。
……だからこそ、たった二匹の魔物に100回も魔法を当てられたんだが」
「まー、それでも良かったなーキュア!」
「ああ」
なんとか【穂垂】と【倍加】の魔法を会得したキュア。
───といった所で、世界が止まる。
【仮想現実装置】からの合図だった。