239 村人、穂垂の杖を再生する。
「主様、さっそく【コスナーの村】へと向かわれますか?」
【ロシマ】の魔法ギルドを出たキュア達。 【仮想現実装置】から告げられた制限時間が迫りつつあるのは朱雀も知っているので、やや急かす形だが……。
「その前に朱雀、何処かに錬金台は無いかな?」
「…………魔法ギルド内になら有りますが」
「ぐ」
朱雀と大ゲンカした、魔法ギルドの職員とは暫く会い (会わせ) たくない。 別の場所の錬金台を探すよう頼むキュア。
「……商店街の道具屋に有りますね。
使用させてもらえるかは不明ですが」
「仕方無い。
なんとか交渉しよう」
「キュア、何作るんだー?」
「妹と、妹の親友のために【豊胸剤】を二つと……」
「(……怒られないかなー)」
絶対、一悶着は有るだろうなー……と目を瞑るチェン。
この天然、悪気がないから質が悪い。
「後は、【杖の製作キット】とやらで【壊れた穂垂の杖】が修理出来ないか、とな」
「街を覆う結界を壊す魔法かー」
「今や、その杖に魔力は然程残ってはいません。
【火球】などと同程度でしょうか」
「まあ、試さんと分からんからな」
てな訳で、道具屋へ。
錬金台は客にのみ貸し出しているとの事で、商品をチェック。
靴の類いは余り種類が無く、滅多に店に並ばないので思わず衝動買いしてしまった【噴射の靴】と、初めて見たので思わず衝動買いしてしまった【毒の杖】で、錬金台を使用するキュア。
「【豊胸剤】はレシピも有るし、難易度が低いから簡単に作れたが……【壊れた穂垂の杖】と【杖の製作キット】は───反応は有るんだが」
「……レシピが無いからでしょうか?
材料は揃っていても、成功率は低いですね」
「貴重な材料だから、失敗して材料を失いたくないんだよなあ」
キュア達が悩んでいると。
「ウチは【錬金UPの薬】も取り扱っていますよ?」
「【錬金UPの薬】?
錬金台に、材料と一緒に混ぜるのか?」
「いえ、飲み薬ですよ」
「なんで!?」
また【ドラゴンハーツ】の謎常識である。 薬一つで、己の技能が上がる……法的に大丈夫な奴なのだろうか。
恐ろしいが、ごく普通の大通り沿いの店で、ごく普通に店員が勧めてくる。 値段も違法性は感じられない値段だ。
「【鑑定】文も、普通の文言だな……。
い、幾つか貰おう」
「はい、毎度あり~」
恐る恐る、薬を飲むキュア。
HP回復薬のように、喉の途中で消滅したようだ。 恐い。 しかし錬金は見事成功。
【穂垂の杖】を入手したキュア。
なんとなく腹を擦りながら、【ロシマ】を出て【扉】経由で【コスナーの村】へと向かう。
◆◆◆
「よう兄ちゃん、来たか」
「久し振り、コスナーさん」
魔法屋コスナー。
キュアが【ドラゴンハーツ】をプレイして一番最初に触れたサブイベントのリザルトでキュアに感謝し、杖の魔法名を安く売ってくれる老人である。
「金はタンマリ持ってきたかね?」
「普通の杖を数本買う分にはには。
一度は神の杖、ケルキオンの魔法名を買える程に貯まったんだが……」
「かかかっ、別のモンに使っちまったか?」
「済まない。 だが【病忌避】と【会心】で、兄妹の名前が揃ったよ」
「相変わらず、兄ちゃんの故郷には変わった名前が多いな。
……異大陸出身だろう?」
「故郷じゃあ、そこまで変わった名前では無いんだがなあ」
キュア達の世界の人間は、妙にこの【ドラゴンハーツ】の魔法名やら香辛料名と共通する。
朱雀は何やら思う事が有るらしいが……神モドキ─── 『八部伯衆』 という魔物を倒せる実力が無ければ伝えられないという。 ゲームで無ければ、肉盾でもないのなら差ほど興味はないが……無視も出来まい。
「……で?
何の杖を持ってきた?」
「んー…………」
現在、キュアが持つ杖は、
○初心者の杖 (ファイヤーボール)
○中級者の杖 (ファイヤーピラー)
○水の杖 (ウォーターボール)
○雷の杖 (サンダーボール)
○土の杖 (アースボール)
○木の杖 (ウッドボール)
○ショットガンの杖 (ショットガン)
○鍛冶師の杖 (メイクハンマー)
○強酸の杖 (アシッド)
○霧の杖 (フォッグ)
○拡散の杖 (ワイド)
○強化の杖 (ヘイスト)
○援護の杖 (ヘルプ)
○衰弱の杖 (ウィーケン)
○犠牲の杖 (サクリファイス)
○敵視の杖 (エネミービジョン)
○箱の杖 (アイテムボックス)
○?の杖 (トランス)
○写しの杖 (カメラ)
・炎円の杖
・風盾の杖
・倍加の杖
・操獣の杖
・ケルキオン
・毒の杖
・穂垂の杖
である。
「ケルキオン以外買おうと思えば買えるが……」
「主様の、良しなに」
「……良いのか?」
用心深いキュアは余程の事が無い限り、回復薬・治療薬の類いは十全に用意しておきたい。 散財をしてしまった今回は、万一を考えて後回しにしておいた。 薬を揃えれば……杖の魔法名を全ては買えない。
それは───キュアを精霊王にしたがっている朱雀の望むところでは無い。
……はず、である。
「主様は…… 『今』 の私で良いと仰って下さいました。
ならば私も、主様の望む主様を受け入れたく思います」
「朱雀……」
朱雀は、二度【ドラゴンハーツ】へと入り……二度とも朱雀本体が望まない 『性格変化』 を起こしている。 キュアは、そんな朱雀を受け入れたのだ。
それは朱雀にとって……全てをキュアに委ねてしまう程に大きな事である。