235 村人、ゴーレムと対峙する。
「おわっ!?
何だコリャ!?」
「此れは……次元をズラした (という設定) ?」
「誰のお城かなーっ!?」
魔法ギルドから受けた、ダンジョン探索の依頼。
彼等の言うダンジョンとは何かがよく分からなかったキュア達だが、実際に辿り着いて驚愕する。
何故なら、草原の巨石群にある扉から地下へ抜けると─── 『城』 が出現したからだ。
「地下空洞の大きさは、城とほぼ同じ大きさ……というか、同じ形だな」
「庭園まで残っていますね」
「わー、花がいっぱいだなー」
多少の歪さは有るが、城の外壁と同形にくり貫かれた空洞。 天井の高さは城の尖塔の頂点の高さとピッタリ同じである。
庭を見れば、木々や花々が朽ちず繁殖せず、庭園を維持していた。 だが植物以外の生物の姿は一切見当たらない。 馬屋ならば、生きた馬はおろか死骸に骨すらも。
しかし飼葉は、多少の劣化は見られてもまだまだ新鮮だ。
「朱雀」
「城の外には動物は居ません。
城の中は───分かりません」
「俺の【敵視】でも何も見えないが……まず間違いなく、城の中と外で別世界なんだろうな」
「主様の予想通りかと」
「二人とも、城の中はイキナリ魔物だらけの可能性もある。
気をつけてくれ」
「分かったぞー」
最大限警戒しながら、城の扉を開けるキュア。 中に在ったのは、大量の人形……ソレも人間サイズの人形である。
「き、気味悪いなー?」
「……魔物の気配は無い、か」
恐る恐る、玄関フロアすぐ脇に立っていた兵士の人形に近付くキュアとチェン。 木彫りだが服は本物の人間用を着用しており、瞬きも出来る球体関節人形と呼ばれるタイプの人形であった。
キュアの世界の、一般的な人形と言えば雑なコケシのような物しかない。 子供の頃、クリティカルに彫ったこともある。
「こんなモン……幾ら掛かるんだ?
製作日数も製作費も……」
「チェンも小っちゃい頃、お人形さん持ってたけど……こんなキモいのは要らないなー」
「───主様っ!?」
「「え?」」
一通り観察を終え、キュア達が離れようと後ろを向いた瞬間……兵士人形が抜剣し、キュア達へと斬りかかる。
───が、その頃には抜剣・切断・納剣を終えていたキュア。
「さ、さすが主様ですね」
「いや。 朱雀の掛け声が無かったら、攻撃を食らっていたかもしれん」
キュアは僅かな擦過音に反応し、敵の位置に辺りを付けたが……ソレをスムーズに行えたのは、唯の 『物』 でしかなかった筈の人形に魔力が宿る瞬間を見た朱雀がイチ速く警告を発したからだ。
「朱雀ー、コレなんだーっ!?」
「恐らく、私と同じ存在ですね。
【魔神城の鍵】という人形の肉体に、朱雀という魂が入りこんでいるのに近い状態かと」
「ふむ……漁ったら【壊れたゴーレム核】という道具が出た。
コレ自体は、唯の換金用道具らしいが……【ゴーレム】?」
「ゴーレムも地球の伝承に存在しますが……神では無いので詳しくは知りません。
伝承では、面倒くさい手順でしか倒せなかったハズですよ」
「飽くまでコイツは、この国の魔物って事だな」
「木彫りなら、チェンがみんな燃やしてやるー!」
キュアが倒した兵士人形と、対の位置にいた人形へ駆け寄って【魔人炎】をブッ放つチェン。
一瞬で人形が炎上し、すぐに崩れ落ち───
「チェン!」
「羽根娘!」
「……あ」
───爆発する兵隊人形。
チェン目掛け、爆炎が迫るも……間一髪でキュアの【火忌避】の魔法と、朱雀の炎操作で事なきを得る。
「び、ビックリしたー……。
……キュアー、朱雀ー、ごめんなー?
チェンが勝手な事をしたから……」
「いや、チェンが遣らなきゃ俺が全く同じ事をしていた。
チェンは何も悪くない」
「キュアー……」
シュンとするチェンに、朱雀は。
「主様がそう仰られるのであれば、私からクドクド言いません。
羽根娘、次からは注意を」
「分かったぞー。
二人とも助けてくれてアリガトなー!」
「ああ」
突っ慳貪な物言いの朱雀だが、朱雀とてチェンに親愛の情は有る。
然れどココは戦場なのだ。 甘やかしはチェンの為には成らない。
基本的には戦闘民族の二人なのである。
「……で、爆発した方の【ゴーレム】は【空のゴーレム核】が出てきた」
「空ってー?」
「爆発に魔力を使い果たした……とかでしょうか?」
「分からんが、【壊れたゴーレム核】より価値が低い。
動くまでは魔物では無く、人形型の罠だからスキル獲得にも成らないし……【ゴーレム】は出来るだけ動かしてから倒そう」
「おー!」
「【ゴーレム】の起動条件は、攻撃範囲に入った後に背を向ける事かと」
「よし、注意しつつ進むぞ」
朱雀のアドバイス通り、剣の【ゴーレム】なら剣の。 槍なら槍の攻撃範囲に入り、背を向けた瞬間に【ゴーレム】は起動した。
弓矢や魔法など、遠距離攻撃範囲を持つ【ゴーレム】には苦戦させられたが……ソレとて 『強かった』 という意味ではなく 『面倒くさかった』 という意味に過ぎない。
奥の手を看破された以上、【ゴーレム】にキュア達を傷付ける事など出来ず、その数を次々と減らしてゆく。
「【魔人炎】、LVUPしたぞー!」
「俺も、【他の杖でも【火柱】】を獲得したぞ」
此見よがしな大扉を無視し、その周囲の【ゴーレム】を全滅させたキュア達。
【火柱】は、放物線を描きとぶ火弾の着弾地点に文字通りの火柱を打ち上げる魔法。
攻撃射程は、【鍛冶具】に次いで短い。 その代わりに長時間燃え続けるので、敵に連続ダメージを与えたり障害物代わりに出来る。 キュアが仕掛けるまで動かない【ゴーレム】は、【火柱】獲得用魔物とすら言えた。
「マップボードを見るに大扉の先、城中央の空白地帯が最後の敵の居る場所だろうな」
「王の謁見室や王族個人の部屋かと」
「王サマ、居るかなー?
一人も人間って居なかったよなー」
「厨房には【料理人・ゴーレム】が居たし、メイドの部屋には【メイド・ゴーレム】が居たし……王の謁見室なら───」
「【王ゴーレム】等が居るのでしょうね」
大扉の前、控え室らしき部屋で休息・装備点検するキュア達は準備終了を確認し、扉を開ける。
そこには、果たして王座に座る 『王』 ……の隣に 『王妃』 、脇に二人の男女 『王子』 、周囲に無数の 『大臣』 達。
そして、中央に12体の 『親衛隊』 。
この【ゴーレム】達はキュアが扉を開けた時には既に動いていた。
円陣を組む親衛隊は、斧槍で何も無い中心をつつき。
王族や大臣達は何かを見てゲラゲラと笑いながら歓談する 『風』 に動く。
キュアが扉を開ききると、ピタリと全ての【ゴーレム】達が動きを止め───一斉にキュア達を睨む。
「き、キモいなー……」
「怖いか?」
「んーん、ソレはゼンゼンへっちゃらだぞー!」
「主様」
王座の【王ゴーレム】が右手をゆっくり持ち上げ、キュア達を指差す。
その仕草に呼応し、斧槍を向けてくる12体の【親衛隊ゴーレム】。
「来るぞっ!」
台詞を打ち間違えて、
「チェンも小っちゃい頃、お任侠さん持ってたけど……」
とか出てしまうと、誤字を反省するより先に「フッ……」と成ってしまいます。 V○Wの誤字コーナーが好きでした。
ウチの子にかぎって
→ウチの子にぎって、とか。