233 村人、魔人娘の胸が膨らまない事を喜ぶ。
「カッカッカッ!
キサマ等、【ロシマ】の領主から頼まれたのだろう?」
「ち、ちちチェン知らないぞー!?」
「羽根娘……お口にチャックと言うなら、上下の唇を溶接してあげましょうか?」
【カヤマ】領主の謁見室。
孤児を使って街を転覆させようとした男の企みを阻止したキュア達は、領主直々の取り調べを受け───ては居らず、いきなり豪快に笑われた。
ちなみに、領主は巨乳である。
「凄腕の余所者が財政官の裏切りを解決したと報告を受けたのだが……其奴等、金や仕官の話もせずイキナリ【ホルモンDX】を欲したそうな。
───別に余所者へ【ホルモンDX】を売っとらんワケでは無いのに、な」
「はあ……」
盗賊達を連行する兵に、【ホルモンDX】を貰って良いかと聞いたのはキュアである。 唇を溶接すべきはキュアだ。
聞かなかったフリをする朱雀。
「無論、【ロシマ】の客にも売っているが……あの貧乳、己が気にしている事を自領民に気付かれんよう、部下などには頼まんのよ!
カッカッカッカッ!」
ヒンニュウ。
キュアの人生で聞いた事の無い単語である。 未だに【ホルモンDX】と【クイーンミノタウロスの乳腺】を合成して出来る【豊胸剤】を、『母乳の出やすくする薬』だと勘違いしていたキュアは 「ロシマ領主は母親なのかな」 などと考えていた。
何故にクリティカルとヘイストが、そんな物を欲するというのか。
知り合いの乳母にあげるとでも考えているのだろうか……可哀想なキュア。
そんな事より。
「あの商人風の男……財政官だったんですか」
「そうよ。 アヤツ、仕事は出来る男であったが……ニタニタとイヤらしい顔で私の胸を見ながら喋るのでな。
プロポーズをしてきた時に、思いっきりフッてやったわ」
「まさか……この街を転覆させて手に入れようとしたのは───」
「さあな。
奴は元々、大層な野心家でもあった。
最初からそんな野望が有ったのかもしれん」
色恋はよく分からないキュア。
財政官の、その想いなど想像できない。 したいとも思わないが。
「とかく此度の仕事、大義であった。
本来は事情聴取に裁判など、数カ月は拘留する所であるが……ソレでは隣の領主が可哀想だからな。
我が権限で、キサマ等を解放しよう」
大層な物言いだが……領主と平民の関係でこの待遇は、かなりマシな方である。
魔ナシ差別で慣れたキュアと、キュアに合わせた女性陣は一礼して謁見室を退室し、領主館を出る。
「全く……もう少し主様へ感謝の言葉は出ないものでしょうか」
「まあまあ。 謝礼金は結構出たし、作製系スキルのレシピも幾つか貰った。
コレで充分さ」
孤児たちの身の振り方も、領主は保証してくれた。 領主館としても、【錬金】に才能の有る子供たちは有用であり大事にしてくれるらしい。
ならキュアとしてコレは、最善の結果なのだ。
「さあ、【ロシマ】へと戻って【ホルモンDX】を渡そう」
「チェン……誰にも喋って無いのに、みんな知っちゃったなー……」
「何を誰に知られたかは分からんが俺が付いている。
いざと成ったら、俺が謝罪するさ」
「……アリガトなー」
俺がもクソも、割と全部キュアと朱雀の所為だが……チェンは良い子だ。 キュアの好意に感謝して、一行は【ロシマ】へと向かう。
◆◆◆
「───キュアー、終わったぞー」
「領主は問題なかったか?」
「うん、喜んでたなー」
女性としか会わない【ロシマ】の領主に、仮のパーティリーダーとして【ホルモンDX】を渡したチェン。
徹底管理した機密漏洩対策が上手くいっている……と思いこんでいるロシマ領主は機嫌よくチェンに礼を言い、その報告をキュアが受けるとサブイベントクリアの声。
☆【溢れる想い、膨らむ胸】クリア
『金8000』
☆期限内に【ホルモンDX】を持ってくる
『SP3』
「……そうか。
【カヤマ】で、今回の依頼のリザルトを貰ってた気でいたが───アレは【カヤマ】、コッチは【ロシマ】で別の依頼だったのか」
「二重取りだなー?」
「其々の領主が、其々の依頼を解決して貰ったのです。
正当報酬ですよ」
「そっかー」
その分、ココら辺の依頼の中ではリザルトがショボい。
ロシマ領主からすれば───
キュア達はただ単に隣領地へ行って、単に薬を買って、単に帰ってきただけなので仕方無いのだが。
「【クイーンミノタウロス】から獲った【クイーンミノタウロスの乳腺】は四つ。
一つは領主。 二つはクリティカルとヘイスト。 最後の一つはチェンのだな?」
「う……うん」
顔が赤いチェン。
キュアは仲間想いではあるが……女性に対してデリカシーは無い。 ので、平気で渡してくる。
「ち、チェンがもうちょっと大っきく成ったら使うかなー?」
「そうか、まあ無理は良くない」
未だに【豊胸剤】を 『母乳が出やす (略) キュアは……両親を喪ったチェンが、母親気分を味わいたくて服用したがっているのかな───などと、トンチンカンな思い違いをしていた。
だが歳相応のままで良いと思い直したのであろう、チェンの頭を撫でながらキュアは頷く。 無理、イクない。
チェンは、ちょっとだけ呆れつつ───
「ふふっ、その時キュアはどっちの父ちゃんかなー?
……なんちゃてなー!」
「……羽根娘?」
「きゃー♡」
「???」
笑顔で逃げるチェン。
追う朱雀。
よく分からねど、二人を眺めるキュア。
───と。
≪ユーザー名、キュアさん≫
「【仮想現実装置】?
……そうか、もう朝か」
【ドラゴンハーツ】の世界が止まり、キュアだけが動く。
≪…………≫
「……【仮想現実装置】?」
≪……まだ、朝では有りません≫
「ん?
ならば、朝が来る前に脳が疲れたか、魔力が切れたか?」
≪…………≫
「【仮想現実装置】、どうした?
───もしかして、何処か辛いのかっ!?」
≪……いいえ、なんでも有りません。
時間ですが、あと1~2イベント程の余裕が有ります≫
「そ、そうか」
≪またキュアさんが、時間延長とか言いだしたりしないよう余裕を持って、忠告をしにきました≫
「うぐ、す……済まない」
≪……私は、貴方を見守っています≫
「子供じゃないんだが───有難う」
≪…………≫
動きだす世界。
チェンは何時の間にか、真後ろに来ていた朱雀に悲鳴を上げる。
「…………。
───二人とも!」
「ひぃ~ん、キュアぁ~」
「主様、今日の晩御飯を捕獲しました」
「次は魔法ギルドとやらを覗いてみたいんだが、どうだろう?」
「行こー! 今すぐ行こー!
だから離してー!」
「主様の、良しなに」
「じゃあ行こう。
目的地は魔法ギルドだ」




