232 村人、結界を破壊する。
「くふふ……醜いですねぇ」
「お、おお親分っ!?」
「おおお落ち着きやがれ、馬鹿共!?」
「き、キュアー!?」
「大丈夫だ、チェン」
孤児院に集められた【錬金】の才能のある子供たちを使って、【結界】 と呼ばれる指輪を作っていた 『商人風の男』。
時間制限が有る欠陥品らしいが……地下鍾乳洞唯一の出入口の前で、大量の水を流入させつつ何者をも通さぬ壁を作りあげて道を塞ぐ。
イヤらしげな笑みを浮かべながら、慌てる人間を眺めていた。
「主様、何か策が?」
「んー……おい、盗賊。
……おい、おーい!」
「あああ慌てるな!?
そうだ、奴の【結界】のない壁を掘れ!
30分以内に10m以上、岩盤を掘りゃあなんとか───」
「主様の御言葉を拝聴せよ、愚物共」
「「「ぎゃあっ!?」」」
固い岩盤を素手で掘り始めた盗賊。
朱雀が指をクイッと動かすと、盗賊が鼻を押さえて突然飛び上がる。 鼻の穴の中を火燐で焼いたらしい。
自分はVR法で強引なことが出来ないキュアは、ちょっとだけズルいなあと思ってしまうがソレはソレ。
「おいキサマ等、子供たちを集めろ」
「あがっ、がガっっ!?
ふぁんあ、ふぉあえっ!??」
「【癒し】。
良いからサッサとしろ!」
突然の鼻の激痛に目を白黒させ、呼吸困難に成っていた盗賊達の鼻を治療しつつ命令するキュア。 盗賊達はパニックだが……ソレでも朱雀の仕草しだいで再び己の鼻に激痛が走りだした事に気付き、動く。
盗賊の監視は朱雀に任せ、キュアとチェンも盗賊達と共に子供達の救出に奔走する。
やがて集められる子供たち。
「ほら、みんな。
【拡散癒し】と……薬だよ」
キュアが子供たちを魔法で癒しながら差し出したのは、100個以上の【ホルモンDX】。 拠点のテントの中で回収しておいた物である。
その効果は、【体内のホルモンバランスを整え、HP・MPを30%回復させる】という物。 ホルモンが何かは分からないキュアだが、毒では無いと確認して孤児たちへ与えてゆく。
孤児たちは最初無反応であったが、キュアの【癒し】を受けて徐々に僅かばかりながら取理性を戻し、自分達を恐ろしい目に合わせていた盗賊達が平伏する姿を見る事でキュア達を信用していった。
「おいっ、そろそろ水が膝の辺りまで来たぞ!?
ガキなんざ助けるヒマが有るんなら、あの階段を塞ぐ奴を先にどうにかしねぇと皆オダブ───ぎゃあ!?
……お、オダブツで御座いますよ?」
「君達、【結界の指輪】の弱点は分からないかい?」
「う、ううん……。
でも作ってたのはもう一つ、杖も有るよ」
「どんな杖かな?」
子供たちのリーダー格の、クリティカルと同世代らしき少女。 少女を、とにかく恐れさせないよう笑顔で質問するキュア。
「よ……【妖星の指輪】…………」
「見せてくれるかい?」
「……あ、貴方になら」
「有難う」
今日イチの笑顔を見せ、少女の頭を撫でるキュア。 少女の頬は赤く、その様子を眺めていた他の孤児の女の子達もポォ~っとしていた。
……この男、実は全て分かってて遣っているのでは在るまいか?
「……キュアの何時ものは放っておいてー……どんな杖だー?」
「ぶー……使えそうですかあ、主様ぁ?」
「どうした、朱雀?
……まあ【鑑定】した後でな」
朱雀の周囲の火燐が増えている事に、イマイチ気付いていないキュア。
気付いているチェン。
……と、盗賊たち。
……と、孤児たち。
「【妖星の杖(劣化版)。
嘗て一度だけ、とある街の結界が破壊された。
その原因は強大な魔物でも、創世記に詠まれる神剣でもなく、たった一つの凶星である】
……か」
「この杖なら、あの【結界】を破れるのかー!?」
見えた光明。
【結界】破りの【妖星】。
しかし。
「くふふぅ……孤児たちに作らせていたワタクシが、ソレの存在を知らないとでも?
その【妖星】は、【結界】以上の欠陥品なのですよ!」
「そ、その人の言う通りだよ……」
笑う、商人風の男。
悄気る、少女。
「核となる石が足らないから……制御が出来なくて、その杖を使った人に星が落ちるんだ」
「石……もしかしてコレか?」
「……それ!」
「───貴様っ!?
何処でソレをっ!?」
「上でフン縛った男の忘れ物だが」
「……っ、あのクズめっ!」
キュア達が、この街【カヤマ】に来るキッカケになった【ホルモンDX】を売る店にて、孤児院院長という男が忘れていった石である。 急ぎ【妖星の杖】に、忘れ物の石を【錬金】で融合させる孤児たち。
光輝く【穂垂の杖(劣化版)】へと生まれ変わってゆく。
「【穂垂の杖(劣化版)。
吉兆となった星。
一度だけ、全ての凶兆を討ち果せる】……ああ、コレだよ!
コレで【結界】に攻撃できる!」
「そうか!」
杖を掲げる少女。
少女の全MPが、【穂垂】に吸い込まれてゆく。 少女を補佐する孤児たちのMPをも吸いあげ、星となる。
「───し、しかしソレでも足りませんよ!
この【結界】の凄い所は、『物理攻撃』 と 『魔法攻撃』 の両方から守っているのですから!
劣化版の【穂垂】では、魔法攻撃能力しか無いんですよぉぉ!」
「なら、物理攻撃は俺が担当する」
「はあっ!?
劣化版とは言え、【穂垂】と同等の威力を出すなど───」
杖と指輪に魔力を送るキュア。
二種の魔光が合わさり、白金となって噴き上がる。
「【会心】【強化】っ!」
「お兄さん……!」
「この魔力は……っ!?」
「【スイッチ】、【村雨】!
───今だ、撃てええぇぇぇぇぇ!」
「分かったよ、【穂垂】っ!!」
少女から放たれる、結界を穿つ吉兆星。
キュアの高速乱舞物理攻撃が重なり───
「……出た! クリティカルだ!」
「重なれっ、アタシ達の星!」
キュアの最強の物理攻撃と、孤児たちの願いが込められた流れ星が【結界】を穿つ。
「馬鹿な……ワタクシの【結界】にヒビが!?」
「今です羽根娘!」
「よっしゃーー!」
【結界】のヒビ割れた隙間へ、強引に攻撃を潜り込ませる朱雀とチェン。 その効果のほぼ全てを失った防壁は……攻撃の度に剥がれ落ちてゆく。
「【結界】が割れた!
今だテメェ等!
その糞を捕まえろぉぉ!!」
「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」
「ヤめっ───
ぎゃああああああああああああああっ!?」
割れた【結界】の向こう。
狼狽する商人風の男に盗賊達が群がり、ボコボコにし。 首領格の盗賊は。
「よし、階段は占拠した!
おいテメェ等……よくもオレ様を虚仮にしてくれたなあ?
オレ等の秘密も知っちまった事だし、ココで溺れ死───ふぎゃっ!?」
「不安から解放された人間って、時々バカな事しちゃうよなー。
鼻、大丈夫かー?」
「放っておきなさい、羽根娘。
サッサと孤児たちを連れて脱出しますよ」
「さあ君達、まだ水は余裕が有る。
慌てず順番に階段を上がるんだ。
───盗賊どもも、最後だが(一応)間に合う(はず)」
階段を占拠した盗賊を引き摺り落とし、孤児たちを優先的に地上へと上がらせる。 誘導するチェンを先頭に、小さい子供から。 次に年長組、最後に保護者枠の子供たち。
しかし。
「アイちゃん! アイちゃんってば!」
「どうしたっ!?」
「アイちゃんが、杖にMPを吸われすぎちゃって……」
元々、長い牢屋生活で体を弱らせていた上に 【穂垂】を撃ったことで、少女がMP不足による目眩を起こしたようだ。
「くっ……【癒し】!
MP回復薬やホルモンDXを飲ますヒマは無いか!
……済まない!」
「きゃっ……!?」
少女、アイを御姫様抱っこするキュア。 たぶんもはや性癖。
じゃなきゃユルサナイ。
「はひー……ほへー……??」
「わあ……アイちゃん、良いなあ」
「ふふー……♡」
「豆娘ども、色づいてないでサッサと上がりなさい!
主様、私が殿を勉めます!」
「頼む!」
「盗賊、足の裏を地面に溶接されたく無ければ注意しながら着いてきなさい」
「「「うぃーす……」」」
顔を赤らめ、キュアの回りに着いてくる少女達と……顔を青ざめさせ、朱雀に着いてくる盗賊達。
そして。
顔面を赤とも青とも言えぬ複雑な色で腫らし、気絶した商人風の男は盗賊に担がれていた。
◆◆◆
「───ふう、水はギリギリ一階に来る前に止まったか。
死者は敵味方ともに出なくて良かった」
地上。
孤児たち、盗賊たち、共に点呼をとらせて皆の無事を確認していた所……この街の領主から警備兵が派兵されてきた。
鍾乳洞の壁が破壊され、大量の水が入流してきた時に【カヤマ】の街全体を揺るがす程の轟音がしたとの事で、孤児たちと盗賊たちを兵に預けたキュア達は、事情聴取を含めて領主館に呼ばれてしまう。
「面倒事じゃあなきゃ良いんだがなあ」
「あ、あの……お兄さん!」
「君は……確かアイちゃん、だったか。
目眩は大丈夫かい?」
「うん。
アタシ、本名はアイザックって言うんだ。
死んだ母さんが、女は嘗められるから……せめて名前だけでも男っぽいのをってね」
「なるほど」
本当はキュア達の世界で、 『アイザック』 という名前の人間は居ないので男っぽいとか言われても分からないが、合わせるキュア。
知ったかぶりでは無い。
「コレ、壊れちゃったけど……お兄さんにアゲルね」
「良いのか?
……有難う」
【砕けた穂垂の杖(劣化版)】をアイザックから貰ったキュア。 兵に保護されてゆく孤児たちを眺めていると、サブイベントクリアの声。
☆【結界にコメットするアイザック】クリア
『金12000』
☆盗賊首領を捕縛
『SP3』
☆盗賊全員を捕縛
『SP2』
☆孤児に死者を出さない
『壊れた結界の指輪』
「───か。
【ホルモンDX】も、余ったやつは貰って良いらしいし……まま、良いリザルトかな」
「次は【カヤマ領主館】、続いて【ロシマ】ですね」
「チェン、今度こそ【ロシマ】の領主さまの秘密をお口にチャックするぞー!」




