230 村人、地下基地へ降りる。
「【ピコピコ】」
「ぐっはーー!?」
【ホルモンDX】を求め【カヤマ】へと来るも、直前の客に買い占められたキュア達。
孤児院の院長だというその客へ忘れ物を届けたものの、キュアへ向けて抜剣。 戦闘となる。
大した敵では無かったので、どんな威力で攻撃しようともHPが僅かに残る手加減スキル【ピコピコ】で生け捕りにした所であった。
「ザコだなー?」
「主様に逆らいし愚物が」
「ひいぃ……」
ボロボロな、黒尽めの男。
「何故、俺達を攻撃する?
何故、この忘れ物に執着する?
何故、【ホルモンDX】を買い占めた?」
「だ……誰が答えるか」
「【痛覚倍増】」
「ぐあああっ!?」
「答えないなら───」
と、キュアが不審者へ更なる苦痛を与えようとすると。
≪拷問行為はVR法違反に抵触します。
直に停止して下さい。
停止しない場合は、事務局に自動通信され───≫
「───っとと!?
【ドラゴンハーツ】の声か!?」
「キュア、どーした?」
「……ん?
あ、ああ……素直に喋りそうにも無いコイツをどうしようかなと」
「難しい問題だなー」
不審者を拷問しようとしたキュアに【ドラゴンハーツ】から、プレイヤーの精神保護を目的に作られた法律が告げられる。
『プレイヤー』 と 『ゲーム』 が 『モニター』 で別たれていた前時代と違って、『己の脳』 の中でプレイする 『フルダイブ型VR』 の場合はこういった法令も必要になる。
例えばどんな人間でも、『空を飛ぶ夢』 くらいは見るだろう。
肉体は、夢にさほど影響しない。
が─── 『悪夢』 を見た人間が、恐怖のあまり心停止したと思われるケースも有る。
夢は、肉体に影響を与え得るのだ。
夢の中の悪行は肉体に影響しかねないという理由で、こういった犯罪行為・モラル違反などは出来なくなっている。
「なら魔物やラットマンを殺すのは問題ないのでしょうか」
「朱雀? 今のが……?」
「ええ、聞こえていました。
主様の夢に、魂の状態で入っている影響でしょう」
「ふーん……? まあとにかくだ。
俺も拷問など趣味じゃ無いから、出来なかろうと別にいいんだが……コイツはどうするかなあ」
悩むキュアに、首を傾げるチェン。
「キュアー?
孤児院の中に孤児っていないのかー?」
「……そういや気配が全く無いな。
お使い……にしても、一人も居ないなんて事あるのか?」
キュアも現実では孤児である。
しかし孤児院の存在は知っていても、その雰囲気などは分からない。
タダ同然で好き放題に使える貴重な労働力・肉盾のキュアを【アジルー村】の人間達は手離したく無かったからだ。
孤児院については、本で得た知識しかないのである。
「キュアー……なんか不気味だぞー……」
「主様。
台所の床に、血が付着した隠し階段が」
朱雀の台詞に、明らかにギクッとした様子の男。
「……まだ状況証拠ですら無いが……。
孤児を善からぬ事に使っているらしいな」
「し、知らん知らん!」
「検分させてもらう」
「止めろォォ!?」
孤児院に侵入するキュア。
先程のような【ドラゴンハーツ】からの声は聞こえてこない。 大義名分が有れば不法侵入ではないのか……キュアには今一つ分からねど、今は孤児たちだ。
身勝手な大人に利用される子供など、過去の自分を思い出して気分が悪い。
「この戸か」
「ええ。 この戸とその先の階段まで、罠も敵も居ませんが、奥の扉の先は分かりません」
「……二人とも、注意を。
進むぞ」
床に付けられた戸を開くと、狭く急な階段。 階段の両脇の壁には大量の引っ掻き傷。 建物なら三階分は有ろう階段の先の扉を開けると……鍾乳洞を改造した基地へと出た。
「コレは……朱雀に頼らずとも分かるな」
「子供が牢屋に……?
キュアー、この子たち悪い事したのかー!?」
「少なくとも、閉じ込めた奴はもっと悪い」
地下基地には牢屋が並び、中には孤児と思われる子供たちが居た。 上は17~8ほど、下は4~5ほど。 みな、異様に痩せコケている。
虚ろな目で、キュア達など気にもせず何らかの労働をさせられていたのだ。
「キュ……っ」
「主様……」
チェンと朱雀が、声を掛けるのも躊躇うほど…………キュアが恐ろしかった。
表情が。
殺意が。
佇まいが。
チェンには分からないが、雰囲気がクリティカルに似た少女も居る。 子供たちを悪どく使う連中への憎悪。
孤児院院長は人間であった。
魔物でもラットマンでも無い。
……だが。
【ドラゴンハーツ】からの警告など関係ない。
そう、考え始めたキュアへ。
「キュアー」
「……っ、チェン?」
「チェンも付いてるぞー?」
キュアの背中に抱きつくチェン。
身長差がある二人であるが、キュアを大きく包む温かさがあった。
自分が暴走しかけていた事に気付くキュア。
「…………ははっ、有難う。
何時もチェンには助けられているな」
「キュアは、チェンが居ないとダメだからなー」
「うぅー、主様!
私も居ますよ!?」
「済まん済まん、朱雀にも助けられている。 俺は君達仲間や家族に生かされているんだ。
───行こう」
「もうっ!
……主様の、良しなにぃ!」
◆◆◆
「【土球】!」
「ぐぅ!?」
地下基地を進むキュア達。
だがチェンと朱雀は何もしていない。
キュアは朱雀が忠告する前から、檻と檻のスキマから敵に超遠距離攻撃を正確に当ててゆくからだ。
「主様、無茶は……」
「してはいないさ。
だが、落ち着いたとはいえブチ切れているのは確かだ。
コイツ等は許さん、一人も逃さんぞ」
「チェンもコイツ等キライだなー」
「分かりました。
では私は、牢屋の孤児たちと孤児院の外からの警戒に集中いたします」
「頼む」
牢屋はまだ解放しない。
子供たちが万一にでも騒いだり暴れたりしたら危険だからだ。