216 村人、ピヨる。
本日からは毎日投稿できると思います。
人物紹介は時間が掛かりすぎました……。
( まだ抜けが有るかも。)
「グスン───
キュア……………………速すぎだし……風景が間近でビュンビュン過ぎ去ってゆくし……顔近いし……腕とか胸板とか逞しすぎだし……男の匂いでクラクラするし……」
「途中から、恐怖が性欲に代わってますよ?」
どうやら再誕・赤ん坊に成り立てだったらしい【光燐神】は、【光を食らいし蜘蛛】に食い殺されてしまったようだ。
蜘蛛の群を撃破した後、謎の声 (?) から説明はあったのだが…………聞き逃してしまうミスと、本来はプレイヤーが獲得するハズであったイベントスキルを、朱雀が代わりに会得してしまうゴタゴタと重なり、不確定情報で【光燐の神殿】から脱出。
その際、常人の脚力しかないダイをキュアのタラシスキル【御姫様抱っこ】で抱きかかえていた。
申し訳無さやら恐怖やら恥ずかしさやらで泣きだしてしまうダイ。 普段、姉御肌っぽく振る舞っていても……彼女は乙女なのである。
「す、済まん……。
……汗臭かったよなぁ」
「キュアー、たぶんちょっと違うぞー……」
相変わらずのキュアは放っておいて。
【光燐神】 (と思われる声) が述べた 『この【神殿】と【扉】は』 の続きは、 『閉鎖する』 では無かったようだ。
……と、朱雀の眉根が寄る。
「───主様、宜しいでしょうか」
「なんだ朱雀、どうした?」
「ご報告が遅れて申し訳ありません。
マップボードにて幾つか鍵の掛かった扉が確認出来ると思いますが、その鍵が空いています」
設定では天井裏に隠れていた【光を食らいし蜘蛛】。 しかしデータ的には、キュアが【オリハルコン】の指輪を作ろうとするまで、天井裏などというデータは存在すらしていなかった。
この事実を知らない朱雀は、キュアの下僕として役立てなかったと嘆き……能力のリソースを、かなり探査に割り振っていたのだが───スキルのゴタゴタの所為で隙が在ったようだ。
「逃げている途中で、やっと気付けまして……同じ失敗を一度ならず二度までも」
「気にするな。
あの騒動だしな、みな慌てていた。
ソレが【光燐神】の言う、【扉】なんだろうか?」
「其処までは……申し訳ありません」
「扉って何処だー?」
「マップボード……ほら、ココだ。
ダイと初めての冒険の時に調べた扉でな……開かない扉が何ヵ所か在ったんだ」
「グス…………懐かしいわね」
「ああ。
肉盾とか関係ない───誰かと自分の為に共闘する、生まれて初めての冒険だった」
「初めて……キュアの…………。
───グスン、じゃあ許してあげる」
「そ、そうか? 有難う??」
何が 『じゃあ』 なのか、サッパリ分からないキュアだが……まあ其れは其れ。
扉の鍵が開いた事は察知できた朱雀だが、その奥までは分からない。 データ的には扉を開けるまで、その奥は別世界に近いからだ。
「お役に立てず、申し訳ありません」
「良いさ、コレも冒険の醍醐味だよ。
……で、確認しに行きたいんだがダイとチェンはどうだろう?」
「当然、チェックしたいわ」
「チェンもー!」
「よし、この一番近い所から確認に行こう」
◆◆◆
「花畑?」
朱雀のアドバイスを受け、【光を食らいし蜘蛛】を退治する前までは鍵が掛かったていたハズの扉を巡るキュア達。
前三箇所は宝物庫であった。
そして四箇所目の扉を開けた先に在ったのは、神殿奥深くでありながら花が咲き乱れる花畑。
「ほら見て、キュア。
上のガラス……何処からか集めた太陽光が部屋中の花に当たっているのね」
「光の通り道が、天井の中に有るのかなあ?」
神殿の中は太陽光の届かない。
然れど何時まで経っても燃えつきない松明や篝火のお陰で、神殿内部は薄ボンヤリと明るい。 しかしこの部屋は、天井にあるレンズとおぼしき物体から部屋全体に陽光が満ちていた。
光ファイバーは疎か、鏡すら領主館で働きだすまでマトモに見たことがないキュ
ア。 だが、何となく光がグニャリと曲がる様子を想像する。
「この花…………地球? とか言う所から渡来してきた、異邦神ヘルメスの居た場所にも咲いてなかったか?」
「……そう、だっけ?」
花には興味ないダイ。
以前、キュアから花を貰い喜んだのは、キュアがくれたからである。
「ヘルメス……花……【オリハルコン】……黄金の太陽光を搾りし金属───か」
「いかにも、って感じよね」
「キュア、どうするんだー?」
「この部屋の中に、【オリハルコン】は……」
「有りませんわ、主様。
ですが部屋の中心、陽光の濃い場所に魔力溜まりが有ります」
「なら、既存の【オリハルコン】に関係有るのかな?」
部屋の中心、日の光が一番濃いのに何故かポツンと花が一輪も咲いていない場所。 朱雀が魔力溜まりと断じた場所へ、所持していた【オリハルコン】を置くキュア。
すると【オリハルコン】の周囲だけ薄暗くなる。
陽光を吸収しているらしい。
「今まで陽の当たる場所に出しても、こんな風には成ってなかったのに……」
「【光燐の神殿】だってのと関係有るのかもな」
やがて光を溜めきったらしい【オリハルコン】。 極小の太陽と為ったかの如く眩いほどの光を放ちだす。
慌ててキューブ化するキュア。
「うあー……目がチカチカするぞー、キュアー」
「くうっ……大丈夫か? みんなも無事か?」
「ビックリしたけどねー……」
「肉体的にも魂的にも問題は有りません」
突然の光に目をヤられた三人。
キュア達の頭から『☆』マークが浮かぶ。 【状態異常:ピヨり】である。
「うぅ……これ、脳震盪の合図じゃないのか??」
「一瞬とか数秒、動けなくなる状態異常の総称よ。
時間経過以外、治癒方法は無いわ」
あまり強い光に慣れていないキュアは、割と強めに目眩を起こしたが……3秒程でスッキリと消えた。 だがもし戦闘中の3秒であったなら、命取りである。
深く留意するキュア。