214 村人、間に合わなかった。
「あれ? 朱雀、胸元が光ってるわよ?」
「あら、何でしょうか??」
キュアが【光を食らいし蜘蛛】を退治した頃。 朱雀、ダイ、チェンの女性陣も【デビルスパイダー】や【アローデビルスパイダー】を全滅させていた。
蜘蛛を全滅させたと同時に、光る朱雀の胸元。
「此れは……主様への愛ですね。
……ふにゃっ♡」
「ば、馬鹿言ってんじゃ無いわよ!
光ってんの、キューブでしょ!?」
「嫉妬は見苦しいですよ、ムキムキ。
如何やら【オリハルコン】が光っているようですね」
万が一、【光を食らいし蜘蛛】が女性陣の方に来た時の囮用【オリハルコン】である。 【オリハルコン】を反対側にでも投げつけて、【蜘蛛】がソチラを捕食している間に逃げる算段であった。
「ま、まだ蜘蛛が居るとかかー!?」
「いえ、完全に全滅させました。
───今まで居た分は」
プログラム上、存在しなかった【蜘蛛】には気付けなかった朱雀が……やや自嘲気味に補足する。
「ともかく、主様抜きで判断して良い案件では在りません。
急ぎ合流を」
「そうね、指輪の部屋への炎を消して───」
『よくぞ、我を食らい辱しめたる蜘蛛を退治してくれました』
「「「え?」」」
突如、蜘蛛の巣穴の最奥に響く声。
部屋全体から響くように聞こえてくる。
高音の、男の声に聞こえた。
低音の、女の声にも聞こえた。
不思議な響きの声である。
「この感じ……まさか!?」
「神気……っぽいなー?」
『あの蜘蛛には、我の再誕直後を狙われました……しかし───』
「あの、そういう話は主様が居られる時にして下さいな?」
「ちょっ……朱雀っ!
ヤバイって!? この雰囲気、どう考えても……」
「知りませんよ。
コレ、本来は主様の御前で語られるべき内容でしょう?」
「た、たぶんね」
『───という能力により、我は多重人格神と呼ばれ───』
「この人(?)、コッチの話聞かずに喋り続けてるぞー!?」
本来、巣穴へは【光を食らいし蜘蛛】を退治した後にしか侵入できない。
具体的には、【光を食らいし蜘蛛】を退治してドロップ品である【光の燐 (半分)】を入手すると、天井の一部が崩れて巣穴から糸が垂れてくる。 ソレを登ってから、初めて巣穴に侵入できるのである。
ダイが遣ったように、空飛ぶ仲間に運んでもらう方法も他のプレイヤーには不可能だ。 【ドラゴンハーツ】にて仲間になるキャラの中で、空を飛べるキャラはチェンだけ。 チェン一人でプレイヤーを巣穴までは運べないからだ。
また、イベント中の仲間は基本的にリーダーであるプレイヤーから離れる事に対して強い忌避感を抱くよう設定されている。 ので、チェン一人で巣穴の奥へ行く事もない。
ならば何故チェンとダイが、キュアから別行動を取ったかというと…………またもや、イレギュラーな存在である朱雀のせいだ。
一時的にとはいえ、朱雀を限定リーダーとして認めたのだ。
結果、その立案にしたがったのである。
( 渋々であり、キュアから離れる事への忌避感が無かった訳ではない。)
故に───【蜘蛛】は全滅しているのにキュアがこの場所に居ないという事態は、本来絶対に有り得ない。
『───よって、我は今暫く眠らねば成りません。
この【神殿】と【扉】は───』
「す、朱雀!?
キュアはっ!?」
「私達のステータスボードに異変が無いので、急いではいますが全速力では無いですね」
「キュア、警戒心が強いから戦闘以外でMPを消費する【強化】とか使わないからなー」
『───最後に───』
「最後っ!?
……こうなったら自傷して、HPを減らして…………」
「そっ、ソレはキュアが怒るかなー!?」
『───を、そなたに授けましょう』
「えっ!?」
「「あ」」
何らかの光が、繭の奥からフワリと漂い……………………朱雀へと吸いこまれた。
ダイとチェンが朱雀を限定リーダーと見なしたように、『謎の声』もこの場に居ないキュアの代わりに朱雀をリーダーと見なしてしまったらしい。
「ちょっとぉぉーーー!?
何ヤってんのよおおおーーーっ!??」
「い、いえ……私は…………」
「あーあ……ヤっちゃったなー」
作戦の立案・実行は朱雀であるが……こう為る事を知らなかった朱雀を攻めるのは酷であろう。
「───みんな、無事か!?」
「「「…………」」」
「……ど、どうした? みんな?」
まるで『見計らった』かの如きタイミングで、女性陣と合流したキュアと……ドンヨリとした女性陣。
女性陣の様子に、ポカーンとするキュア。 しばきたい。
◆◆◆
「そ、そうか……そんな事が……」
「も……もも……申し訳あり、ありま…………あ、ああああ主様ああ……!」
「朱雀、おちつけ」
「どうするのよ、キュア!?」
「取敢ず、俺は朱雀を責める気はない。
俺も、二手に別れる作戦は了承したんだ」
「……キュアが、そう言うなら」
謎の声と光の相談をする一同。
朱雀は自責し、パニックだ。
「朱雀ー?
キュアの為を想っての結果だって分かってるぞー!」
「チェンの言うとおりだ。
朱雀は悪くない」
「主様…………」
「あ、アタシだって朱雀を攻めたくは無いけど……。
もし、さっきの光が無いとキュアが困るんじゃない!?」
ダイとて朱雀の提案を了承したし、想いは分かる。
それでも、それにしても。
キュアの事を考えれば、落ち着いてはいられない。 言うなれば、現状は【ドラゴンハーツ】の『バグ』のような状態である。 登場人物としての本能なのかもしれない。
「朱雀。
朱雀は故郷だと、相手の能力が分かるらしいが……自分に吸いこまれたという光の正体は分かるか?」
「……………………駄目です。
何らかの『スキル』だとは分かりますが、今の私では───」
「そう……か」
「ですが、故郷に帰って本体に取り込まれれば……!」
「ソレって……朱雀……!」
「えーっ!?
また朱雀、変わっちゃうのかーっ!?」
ゲーム内の朱雀と、本体の朱雀。
本体の朱雀は、ゲーム内で性格の変わってしまった分身を善しとしない。 今のキュアにベタ惚れ状態の朱雀は、ゲーム内だけの朱雀のもの。
本体に取り込まれては、その想いも……消える可能性がある。
「私の失態です。
本体の私ならば、主様にスキルを譲渡する手段が分かるかもしれません」
「「「…………」」」