209 村人、白くなる。
「【鍛冶】素材としてダイ、君に渡そうと思っていた魔法金属や生物の骨材などが有るんだ」
「ありがと───って、ドレもコレも女のアタシんとこの工房になんか絶対まわってこない奴ばっかだわっ!?
売ったら滅茶苦茶高いわよっ!?」
キュアが旅先で手に入れた、数々の金属石材や魔物素材。 キュアが魔法に目が無いように……ダイも、噂やカタログでしか見た事の無い素材に目が『♡』になっていた。
「金は確かに大事だが……貴重な素材だからこそ、実力ある職人のトコロへ行く方が遥かに大事だろう?」
「キュア……」
「はいはい、イチャイチャすんのは後だぞー」
「い、いいいイチャイチャっ!?
誰の事よ!? 誰の事だってばっ!??」
「ムキムキ、貴女は【 道具箱 】を持っていないのですか?」
「む、むむむムキムキっ!?
誰の事よ!? まさかアタシの事っ!??」
鍛冶をやるダイの体格は、筋肉質───という言葉ではやや足らぬ体格である。 今までずっと、それはダイの誇りであったのだが……。
「…………いいもん。
鍛冶師としては信頼されてるもん……。
【 道具箱 】は持ってないわ。
けど道具袋は沢山持っているから」
【 道具箱 】という、 『道具をほぼ無限に収納できる魔法』 が有るキュア。
然れどソレまで使っていたバッグを使っていない訳では無く、戦闘中は一手間ですむ腰嚢、探索中は二~三手間かかる背負袋。
何手間もかかる【 道具箱 】は安全を確保した休憩中に使う。
ダイは背負袋や大型腰嚢の他、改造衣嚢付きオーバーオールを着ているので通常キャラより多くのキューブを持てる。
「アタシが持つ魔法は、【鍛冶具】だけよ」
「そうか、なら幾つか素材を渡しておこう。
コレは【キッズグリーンドラゴン】の骨や鱗だ」
「り、竜の素材……」
キュアから、伝承にしか存在しない幻獣の素材を手渡されるダイ。
気軽に。
他の素材も貴重品ではあるが……コレは別格だ。 嬉しさよりも、心配の方が勝つ。 だと言うのに……竜と戦い倒した本人とはいえど、あまり慌てていない様子にちょっとハラが立つ。
「…………ハァ。
……『コレ』は、確かに預かっておくわ。 武具は期待しておいて」
「ああ。 で、【鍛冶】ボードに指輪の項目が出たんだ」
「【錬金】は何処に関係するのかしら?」
「レシピを見るに、魔力の籠った杖とかから指輪へと魔力を移すのに必要みたいだな。 試してみよう」
【 道具箱 】内の、ダブッていた魔法の杖を炉へ放りこむキュア。 燃え尽きる……というより崩壊してゆく杖から、光る霧のような物が立ちのぼる。 恐る恐る霧をつつくとキューブへと変化し、鑑定によると【魔力+18】とあった。
レシピに従い、【魔力+18】をインゴットと一緒に炉へと容れる。
「比較的余っている、【魔火鋼】という魔法金属を指輪の土台にして……」
「【魔火鋼】も全然、市場だと余ってないんだけどね。
……アタシも冒険の旅に出ようかしら」
「ムキムキ。
天然と旅に出たいのなら、もっと精神を鍛えなければ」
「はあっ!? き、キュアと旅に出たいとか言ってないしっ!?」
「主様とは言っていませんが」
「う」
「そうか……ダイにはダイの夢が有るからなあ。
俺との旅は苦痛だよな…………」
「違っ!?」
「そういうトコロですよ?
ムキムキ?」
「ううぅ……」
「朱雀もダイをイジメるなよー」
朱雀はこのパーティの姑的な位置にいる。 キュアの前にそびえ立つ高い壁なのだ。 割とダイから 「……バカ」 とか言われ慣れているキュアは、すぐにも立ちなおる。
「魔火鋼から出来た指輪は……【炎加護の指輪】? 鑑定っと。
【炎攻撃の威力が二割り上昇】!?
【火球】や【サラマンダー】もか!?」
「強そうね」
「【拡散】にしたら、チェンの【魔人炎】も強くなるのかなー?」
「私の火燐もですね」
「コレは早く、魔法名を入手したいな」
初めて使った魔法という事もあり、キュアの【火球】に対する信頼は厚い。 【火球】のLVUPは、ある種の命題とすら言えた。
「レシピの並びだと、コッチは水と土を強くする指輪っぽいな……うぐ、失敗。
失敗……成功。
【鍛冶】と【錬金】、共にLVUPして【水加護の指輪】っと」
「やったなー、キュアー!」
「しかし、失敗すると素材を失うのが痛いですね」
「鉄クズはマズイいしなー」
「だが、挑戦しない訳にはいかん」
この【光燐の神殿】に来た目的の一つ、【オリハルコン】と【ミスリル】の利用。 【裁縫】では必要LVが低かったのでゾリディアの服と靴を縫えたが……【鍛冶】では失敗の可能性がある。
「……大丈夫、イザって時はアタシの素材をアゲるから」
「しかし……俺は、君に良い剣を打ってほしくて───」
「アタシは、剣を打ちたいから剣を打つんじゃない……御客さんに幸せになって欲しいから剣を打つの!
今ココでキュアに、【オリハルコン】と【ミスリル】を渡さないのは信念に反するわ!」
「ダイ……」
キュアに詰め寄るダイ。
暫し睨みあい……御互い、顔と顔の距離に気付いてパッと離れる二人。
「…………。
……有難う、ダイ」
「あ、アタシも興味は有るんだし?」
「ソレでもだ。 有難う」
「…………」
「…………」
「( 『ちゅー』とかしないんだなー )」
「( 順番というものが在るんですよ )」
「ちょっと!?
聞こえてるよっ!?」
「?」
顔を赤くしつつ、チェンと朱雀を怒鳴るダイ。 難聴系主人公、キュア。
「……【オリハルコン】を炉に容れるぞ。
必要【魔力+……200】!?
くっ……如何なスキルを得ていようと、杖はダブリ以外を使うつもりは無かったんだが」
「主様……朱雀で慰めになるなら、この朱雀をお使いください」
「ナニに使うってのよ!?
ナニにっ!??」
キュアが【オリハルコン】を炉に容れると、レシピに
【オリハルコン】
【魔力+200】
と出た。
以前『魔法の杖の値段』は、杖内の潜在魔力量で決まると聞いた。 【魔力+200】を作るには、値段換算にして10本近く処理せねばならない。
【アジルー村】時代、コレクション趣味などする余裕の無かったキュアの生まれて初めてのコレクションが『魔法の杖』『魔法の指輪』である。
新しい魔法を得るには、スキルを得た後とはいえコレクションの破棄せねばならず……割りと凹むキュア。
「…………くうっ、仕方あるまい。
サラバっ!」
「泣くなー、キュア。
また出会えるさー!」
「…………」
『竜の素材』より、『安物の杖』の方をよほど惜し気にする天然。 ダイは確かに、この天然と旅をするのは大変そうだと確信する。
……退屈はしないだろうが。
「…………よし、【魔力+206】だ。
コレを、熔解した【オリハルコン】に融かし容れる」
「小さなキューブが出ましたね?
【魔力+6】ですか」
「いくぞ……【鍛冶】!」
キュア・朱雀・チェン・ダイの四人が、【オリハルコン】が流し込まれた鋳型を見つめ───
「があああぁっ!??」
「「…………」」
「あちゃー……失敗かー…………」
鋳型に容れた希少金属【オリハルコン】と、泣く泣く処理した杖10本以上分の【魔力+200】が……消滅する。
覚悟してつもりではあったが、さすがに白く固まるキュア。
「き、キュア……?
アタシの【オリハルコン】を上げるから元気だし───」
『───』
「……みんな、静かに!」
ダイが固まるキュアを慰めようとした瞬間……キュアが気づき、魂を魔力として周囲に拡げている朱雀はキュアに一瞬遅れて気づく。
何故ならソレは、【ドラゴンハーツ】のプログラム的に、たった今出現した存在だったからだ。
超常の存在だからこそ、朱雀は己がチカラを過信しすぎてしまっていたらしい。
「わ、私は……私の所為で……!?」
「朱雀、今は『音』に集中しろっ!!」
「音!? キュア、何のこと!?」
「上だっ!」
「天井かー?」
如何な白く固まっていようと異常とも成れば、キュアは動く。 『音』がした天井へ向け、【火球】を射つキュア。
一見、何も無い『その場所』へ魔法が命中する瞬間───白いナニかが絡めとる。
「糸だ!
【アローデビルスパイダー】のように、糸を武器にして射っているんだ!」
「つまり……」
「天井に、擬装した『蜘蛛』が居る!」




