208 村人、空中通路は通らない。
「【竜骨のナイフ】から、スキル【痛覚倍増】を獲得したぞ!」
「……そっかー……凄いなー…………」
「【10秒間、攻撃した相手の痛覚神経を刺激するスキル。
全身を駆けめぐる激痛の所為で、運動能力が落ちる】か……。
邪悪な竜が持ってた武器らしい、エゲツないスキルだなあ」
「…………騙し討ちしてくる奴等ですから……」
北連山を再び登りなおし、【光燐の神殿】へと来たキュア達を出迎えるのは……ワラワラと休む間もなく出現する【デビルスパイダー】系魔物。
女性陣はみんなヘトヘトだったが、キュアだけは新しいスキルを会得できウキウキだ。
「…………キュア、元気ね」
「ついこの前まで、三日三晩寝ずに肉盾を遣らされたりしていたからな」
「あ、そう……」
ダイは今まで、異大陸には魔法が存在しないと聞いていた。
しかしキュアの故郷には魔法が存在するらしいが…………キュアだけ魔法を使えず産まれたらしい。 その所為で、『魔ナシ』という差別を受けていると教えてもらっている。
魔法の杖さえ有れば誰でも魔法を会得できるココでは考えられない差別であるし、ソレなら初めて会った時の魔法の杖に対しての執着も頷けよう。
だが、それでも───
「……ふう、こんなトコで弱音は吐いてる場合じゃないわね」
「大丈夫か? 【拡散癒し】」
「ありがと。
でもムチャなMPのムダ使いはしないでね」
「MPなら自動回復する。
呼吸はもっとも原始的な魔法名、だろ?」
「そういや以前のキュアは、そんな事も知らなかったんだっけ」
「君の、この言葉に……俺がどれだけ救われたか───君に説明できないのが悔しいよ」
「キュア……」
寂しそうに微笑むキュア。
……ああ、そうだ。 自分はこの人の笑顔を見た所為で、訳の分からない感情に囚われたんだっけ。
その事を思いだすと、何故かフツフツと怒りが込み上げてくるダイ。
「嘗めるんじゃないわよ!
そんなモン、無くったって未だやれるわ!」
「そ、そうか」
「……………………。
───魔法なんか……そんなモン無くたってキュアは凄いんだから…………」
「ん? なんか言ったか?」
「な、何でもないわよ!」
「ご、ゴメンなさい」
息を潜める盗賊の僅な呼吸音すら聞きわけるキュアであろうと……たまたま聞き逃す、恐るべき難聴系主人公。
女性をタラす為なら、天然は何でも遣らかすのだ。
「キュアのお嫁さんに為るひと……可哀想だなー……」
「おそらく彼女達も、其れがタマらないのでしょう。
……たぶん」
たぶん。
「しかし……【デビルスパイダー】が少々強く成ってないか?」
「みたいね……。
アタシだって以前より強く成ったのに、ちょっとキツいかも」
【光燐の神殿】探索は二度目のキュア達。 以前出現した魔物【デビルスパイダー】が明らかにLVUPしていた。 しかも雑魚扱いで前回ボス【アローデビルスパイダー】がワラワラと出てくる。
実際、今のキュア達にとっては雑魚なのだが。
「何処からコイツ等、こんなに来ているんだ?
この先はマップボードで行き止まりなんだが……貫通したのかな?」
「主様。
通路の先、土壁に穴が有ります。
その先から蜘蛛がウジャウジャと」
「……うぇええ~、勘弁してよ」
ずっと人の手が入っていない【北連山の鍛冶堂】。 地崩れだの、植物の繁殖だので通路が塞がっている場所も多い。
「キュア、せっかく高所恐怖症を克服したのに空中通路を通らなくて残念ね♡」
「う、うるさい」
「キュア、高所恐怖症だったのかー!?
カワイイなー!?」
「さ、さっさと行くぞ」
「良ろしければ、抱き抱えて高所を飛んで差し上げますが」
「い、いらん」
現在標高は雲の高さ。
途中、外を歩かねばならない場所もある。 『綱渡り』のVRで高所恐怖症になり、宝欲しさに【落下速度低下】で高所恐怖症を克服し。 ダイには、どちらともバレているのでキュアは恥ずかしい。
◆◆◆
「何だ? この部屋?」
「剣用の鍛冶台……とはちょっと違うわね?」
蜘蛛を蹴散らしキュア達が進んだ先の部屋は、【神の炉】の部屋に似ていたが……何処か違う。 入口は違和感程度であった違いだが、奥に進むと置かれた道具・設備など徐々に差違がハッキリと出てきた。
「こじんまりしている……というか」
「炉もあるけど、何用かしら。
剣用じゃないって事は分かるんだけど」
「主様、指輪用では?」
「なるほど……言われてみれば、細かい作業用の道具が多いな」
【光燐神】といえば指輪。
指輪作りの現場など知らぬキュアでも、何となく予測はつく設備・道具類である。
「……わっ、作業台に触れたら【鍛冶】ボードと一緒に【錬金】スキル獲得ボードが出たわ。
でも今更【錬金】スキルをLVUPさせてもね……」
「俺は一応、【錬金LV7】だ」
「【ゾンビ化】治療薬を大量に作ってLVUPしたとか言ってたわね。
【鍛冶】は?」
「【鍛冶LV8】だよ」
「あら? 冒険ばっかしてるキュアだから、もっと低いかと思ってたわ」
「チェンのお蔭だぞー」
「お蔭って言うか……まあそうだな」
チェンは、偶にだが食糧用の剣を要求してくる。 チェン自身、かなり遠慮しているらしく……どうしても我慢できなく成ってから要求してくるが、キュアとしては仲間なんだしもっとズカズカ言って欲しいぐらいだ。
チェンの食事用に剣を大量に打つことでキュアの【鍛冶】は、本職には敵わないが素人の実力を大幅に越える腕に成っている。
「じゃあ、キュアが指輪を作ってみてよ」
「分かった。
……と言っても、どうすれば?」
「アタシも指輪はよく分かんないけど……取敢ず、炉に火を入れてみるわね」
ダイがチャチャッと炉に火を入れる。 一瞬で最適な温度になる炉。
(あ、コレも【ドラゴンハーツ】のアレだ) と確信するキュアの想像通りに炉へと突っ込まれた鉄インゴットは数秒で熔解した。 いかにも『指輪の型』らしきリング状の凹みがある石の鋳型へ、溶けた鉄を流しこむ。
数秒後、鋳型が光り出来あがった指輪らしき物。
【ドラゴンハーツ】の生産系スキルは、いかにもゲームといった感じで進められてゆく。
「おー、美味しそうな匂いだなー」
「……凄いわね、チェン」
「【『鉄の指輪』 魔力が通っていない、ただの指輪。
スキルは無い】か。
【鍛冶】の【鉄の剣】と同じだな」
「役に立たない指輪なんだなー。
……食べて良いかー、キュア?」
「ああ、良いぞ」
「アリガトー!
……ちょっと甘いし、オヤツみたいだなー?」
バリバリと、飴のごとく鉄の指輪を噛み砕くチェン。 材料は【鉄インゴット】や【鉄の剣】と同じだが、剣と指輪の違いは『味』に出るらしい。
「チェンって、攻撃はもう爪より噛みついた方が凄いんじゃない?」
「毛とか生肉とか、クチん中入るのヤダぞー?」
「ソッチではお腹壊すんだ……?」
「主様の解毒魔法で……」
女性陣が囂しく喋る横で、キュアは【錬金】・【鍛冶】ボードをチェック。 【鍛冶】ボードに、【鉄の指輪】が載っていた。
取敢ず、成功らしい。
つまりこの部屋は、【光燐神】の指輪製作部屋で間違いないようだ。




