2 村人、妹に兜を見せる。
「兄さん、お帰りなさい」
「……ああ、ただいま」
拾った 『兜』 を脇に抱えて持ち帰ったキュアを出迎えたのは……母譲りの見事な金髪を腰まで流し、痩軀ながら17歳になって特に美しくなった妹の 『クリティカル』 である。
キュアは妹クリティカルに対して、強い劣等感を感じていた。
数多の求婚話が来る程に美しく、誰よりも賢く、領主館に勤め、そしてアジルー村で一番……いや、貴族達すら上回る強大な魔力の持ち主。 ソレが、魔ナシであるキュアの妹である。
大事な妹だ。
愛してはいる。
───しかし何時の頃からか。
……キュアはクリティカルに対して、素っ気ない態度を取るように成っていた。
「……あら?
兄さん、ソレは?」
「旧道で拾った。
半ば土に埋もれてたし、昨日今日落としたようなモンじゃあ無いだろ。
明日、街へ行って売ってくる。
───……旨いモンでも買ってくるよ」
僅か。
ごく僅かにではあるが、はにかむように答えるキュア。 クリティカルは、久々に兄の声から好意的な物を感じて嬉しくなる。
クリティカル自身は、4歳で両親を流行り病で亡くしてからの13年間、魔ナシ差別を受けながらも必死で自分を育ててくれたキュアを……深く、強く、尊敬している。 素っ気ない態度で蔑ろにされようと、関係ない。
兄を馬鹿にするアジルー村の人間を、むしろ嫌ってすらいた。
「不思議な材質ね……。
領主館に来る騎士様でも、こんなの装備してないわ」
クリティカルの 「珍しい物好きな領主様だったら、質屋より高く買い取ってくれるわよ?」 という問いに、キュアは首を横に振る。 機嫌が良いとはいえ、未だ妹に頼るのを癪に思う気持ちも有る。
少しでも、自分の力だけで金を稼ぎたいのだ。
「上手くやるさ」
「……そう」
クリティカルもそんな兄の気持ちは理解出来るゆえ、敢えて多く語らない。 食事の後、兜に付いた泥や苔を落としながら綺麗に磨いてゆくキュア。
「次は中を……って、コレじゃ前が見えなくないか!?」
改めてよく見ると、兜の鍔が下向き過ぎる。 被って確かめれば、やはり前が見えない。
不良品かよと……兜を脱ごうとして、コメカミ辺りを強く掴み───
≪キュイィィ……ン≫
「うわっ、何の音だ……!?」
───この世界では、絶対に聞く事のない類いの音…… 『機械音』 が、キュアの被る兜から聞こえてきた。