199 村人、ム○ゴロウみたいに成る。
「カード……自分のスキル……!」
【仮想現実装置】のVR、【ディメイションカード】で手に入るカード。 ソレが、今……ヘイストの手の中に収まっていた。
ニヤけるヘイスト。
「ヘイスト、魔力欠乏症は無いか?」
「ああ、大丈夫だキュア」
「【ディメイションカード】で、ヘイストがどんな冒険をしてきたかも興味は有るが……取敢ず、どんな能力なんだ?」
「自分を『王』に、カードを『軍隊』に見立てて、領土拡大を目指すアクティビティだ」
「「「領土拡大??」」」
「試しに召喚してみよう」
手の中のカードを確認しながら、己の魔力を探る様子のヘイスト。
ヘイストの様子に、ワクワクしながら集まってくるキュア達や領主館の面々。
「今の魔力だと★★と半ぐらいかな。
……【コロポックル】!」
≪きゃあ!≫
「「「おおっ!?」」」
【ディメイションカード】の『カードバトル』のような、景色の白化や生物の鈍化もなく召喚されゆくヘイストのモンスター。
一枚のカードから出現したのは……身長10cm足らず、3.5頭身の女の子。
「カワイイィ~♡」
≪きゃあ?≫
メイドや料理方見習い達、女性陣からの黄色い声。
コロポックルは如何したら良いか分からず、ヘイストの方を振り返って首を傾げていた。
「コロポックル、今はカードバトルの最中じゃないんだ」
≪きゃあ……?≫
「おいで」
手持ちぶさたのコロポックルを、自らの腕に招いて抱きかかえるヘイスト。
他の女性陣も、「抱っこさせて~♡」などと言ってくるが。
「ヘイスト、こんな子を戦わせるの?
……流石にちょっと引くんだけど」
「た、戦わせると言っても、血塗ろの戦いではないぞ!?」
≪きゃあきゃあ!≫
【ディメイションカード】における『軍隊』という言葉から、クリティカルは愛らしいコロポックルを戦地に送るヘイストを想像した。
ソレを受けて否定するヘイストに、コロポックルが怒る。 ≪血塗ろでも戦える!≫とでも言っているかのようだ。
「こ、ココは【ディメイションカード】の世界では無いからな……」
≪きゃあ!≫
言い争いに成りかける二人に……キュアは。
「───……自問、自答か?」
「兄さん?」
キュアは半信半疑、というより不思議そうな表情で、ヘイストとコロポックルを見比べ。
「……ヘイスト。
たぶんだが、その子はコロポックルではない」
「な、何を言うんだキュア!?
この子は、ゲームの中で見た通りの子で……」
ほぼ、本能的な直感である。
しかし九分九厘の確信が有るキュアはヘイストの母親へと振り向き、問う。
「お母さんから見て……この二人、どう思いますか?」
「え? あ、ああ……。
なんか怒り方とか、ヘイストに似てる子───って印象だねぇ?」
「たぶん、その通りかと」
「だから兄さん、どういう意味なの?」
「俺の【火球】が、俺の一部であるように……コロポックルも、ヘイストの一部では無いか?
───と、感じたんだ」
「つ、つまり?」
「いざと成ったら血塗ろの戦いも辞さないヘイストと……そんな戦いを誰にもさせたくは無いヘイスト。
そんな、ヘイスト同士の自問自答に見えたんだ」
「な、何なんだソレは───」
「さすが主様、御明察ですわ」
キュアに指摘され、混乱するヘイストがキュアに詰め寄ろうとして……食堂に舞う火燐。 現れる美女。
「朱雀……」
「ペルソナ、という考え方が在ります」
「ぺ、ペルソナ?」
「人間が心にもつ仮面の事です。
主様が、妹に対する時に被る仮面。
主様が、アシッドに被る仮面。
主様が、領主に被る仮面……。
ソレは全て、ウソでは有りませんが……別の仮面です」
「感情……とは違うのか?」
「アシッドに対しだけ怒るのではなく、妹に対し怒ることも在るでしょう。
感情というより思考傾向とでも御思い下さいませ」
「んんー……?
つまり……?」
直感はあっても、いざ専門用語などを出されたら煮え切らなくなる。
キュアは本能で活きるひと。
「ゲームの中のコロポックルとやらは知りませんが、其のコロポックルは主様の仰られる通り『小娘の分身』と言えます」
「分身……じ、自分の?」
「其れで納得できねば、妹か娘だとでも思いなさいな」
≪きゃあ≫
「妹か……娘?」
【ディメイションカード】のモンスターには、性格設定AIが組み込まれてはいない。
【仮想現実装置】登録時の脳波などを参考に『知覚できないテレパシー』で繋がっているという設定で、プレイヤー自身の『素直な自分』を作っている。
『喋らないのモンスター』に性格設定AIの代わりで、『素直な自分』を転写することにより意志疎通を円滑にして『千差万別のプレイヤー』が望む通りのことを各モンスターが行えるようにしてあるのだ。
今のコロポックルは、【仮想現実装置】による『機械的な繋がり』ではなく『魔力による繋がり』である。 分身という表現は、当たらずとも遠からずといった所だ。
「オマエは……自分なのか?」
≪きゃあ?≫
コピーされた自分。
ヘイストの理解の範疇は、とうに越えた。
使用人の女性陣も、コロポックルがヘイストの分身という話を全て呑みこめた訳では無いが……その利用法は一瞬で理解した。
「コロポックルちゃ~ん、あの御兄さんの事好き?」
≪きゃあ♡≫
「ちょっ!?
……待っ───!?」
満面の笑みのコロポックル。
ニタニタする女性陣。
焦るヘイスト。
指さされ、首を傾げるキュア。
真顔になるクリティカル。
「コロポックルちゃ~ん、この御姉さんの事こわい?」
≪……きゃあ≫
「…………ふゃっ!?」
「ぅあぁああぁあぁぁぁあ……」
恐る恐るクリティカルに甘えるコロポックル。
不意を突かれるクリティカル。
悶えるヘイスト。
仲良いなあ、と他人事のように微笑むキュア。
「ヘイスト、他の11枚も召喚してみてくれないか?」
「キュア……よくも今の惨状を見て、そんな事を言えるな!?(泣)」
「「「私達も見たぁ~い」」」
「くっ……」
「(私も見たいし、)諦めなさいな。
ヘイスト」
「母さん……」
四面楚歌。
「結構、魔力を使うんだからな?」
「足らないなら、【癒し】を使うが」
「さっきソレで、クリティカルに怒られていただろっ!?」
「うぐ」
「……ったく。
【エアリー】!」
≪ぴぴーっ♡≫
風を纏う少女エアリーは、召喚と同時にキュアへと突進。 キュアに頬擦りする。
「ヘイスト?」
「ち、違うんだ、クリティカル!?」
もはや半泣きなヘイスト。
「り、【リザードマン】!
武人のオマエなら……」
≪しゃらららららっ!≫
ドスドスドスとキュアの下へと駆けより、槍を掲げるリザードマン。 しかし尻尾はキュアの足下に絡みついていた。
たぶんメス。
「ヘイスト?」
「クリティカル、痛い」
ヘイストの肩を掴むクリティカル。
ギシッて言った。
「……もう喚びたくない」
「喚びなさい?」
「…………」
クリティカルは笑顔。
ヘイストのモンスターに囲まれ、暢気に「カワイイなあ」などと言いながらヘイストへ【癒し】を掛けているキュアも笑顔。
しばきたい。
もはやヤケになり、ひたすらモンスターを召喚するヘイスト。
「【ウィル・オ・ウィスプ】【炎の胡桃を食べるリス】【サラマンダー】【カマイタチ】【ナイトオウル】【マンドラゴラ】【井戸から出た蛙】【水の上の踊り娘】……」
「ヘイスト?」
「…………」
「カワイイなあ」
ヘイストの『武人』ペルソナのモンスターは、キュアに忠誠を誓い。
『子供』ペルソナのモンスターは、キュアに抱っこされたり頬擦りしたり。
『女』ペルソナのモンスターは、キュアに肉感的に頬擦りしたり。
「エロスト?」
「───違う……違うんだ…………」
顔を真っ赤にして、最早泣きだしたヘイスト。 「色恋に興味ないって言ってる娘に限って……ねぇ?」などと、何処かから聞こえる。
あと、一応、クリティカルの下へゆく『友情』ペルソナのモンスターも居る。
一応。
「…………。
……オマエに賭けるぞ、【冷帯魚】!」
≪………………………………ぅんべっ!≫
「…………」
水瓶の中に召喚したとたん、諸行無常の目でヘイストに水をピューっと吐きだした冷帯魚。
ヘイストの『自己嫌悪』ペルソナのモンスターなのかもしれない。
「こら、君もヘイストなんだろう?
仲良くしなきゃな」
≪はぅ……≫
有る意味では元凶のキュアが、冷帯魚を叱りつつ【癒し】を掛けていた。
すぐ懐く冷帯魚。
「彼等が作る陣地とは、味方に善い効果をもたらすようだな。
クリティカル、【癒し】みたいな気持ち良さがあるぞ」
「そうね」
キュアより少ないモンスターを撫でつつ、クリティカルも実感する。
味方なので。
ヘイストの。
クリティカルは。
「あら、兄さん。
そろそろ勤務時間だわ」
「そうか。
【仮想現実装置】の事も、コリアンダー様に御報告せねばなるまい」
「……自分もスキルについて御報告する。
……なんか散々だが」
「スゴく良いスキルだぞ?」
「…………」




