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198 村人、少女のカードを見る。

 

「……ん。

ふぁあ───とと」




 現実。

 領主館の自室として宛がわれた部屋にて目覚めたヘイスト。

 自らの髪を掻きあげようとして、被っていた【仮想現実装置】(パーシテアー)に気付く。


 隣のベッドに眠るハズの母親は居ない。 一昨日までの……目が見えなかった頃の母なら心配したが、キュアのお陰で光を取戻した今の母なら安心だろう。

 洗顔かトイレ辺りか。




「……………………カード(・・・)




 ヘイストは、内心……ドキドキしながら『その言葉』を唱える。




「……あ、アレ!?」




 しかし。

 ヘイストの望む結果には……成らなかった。 ヘイストの手には、何も現れなかったのだ。




「何でだろう……魔力は確かに動いている。

自分に、昨日まで無かった能力スキルを得た確信は有るんだが……」




 このままでは、キュアのサポートが出来ない。 焦るヘイスト。




「えーっと、んーっと……ダメだ。

【仮想現実装置】(パーシテアー)の先輩であるキュアに聞くのが一番早いか……」




 急ぎ、朝仕度を済ませるヘイスト。

 母親に進められて買った化粧などは……まだちょっと恥ずかしい。


 然れど今まで気にした事すらない、荒れた肌はキュアに見られたくない。 ので、スキンケアだけチャチャッと済ます。




「母さん……まだ戻ってこないな。

食事か?」




 ヘイストの母親は失明していようと、頑なに己とヘイストの料理を作ってきた。 魔力の流れを肌で感じとる才能で調理出来るのだから、せめてこのくらいは……というのが彼女の言い分である。


 ならば能力スキルの話を聞く序でにキュアとクリティカルと共に食堂へ行こうと、隣の部屋を訪ねるヘイスト。




「キュア、クリティカル。

ヘイストだ、起きているだろうか?」


「ああ、二人とも起きているぞ」




 キュア達兄妹の部屋をノックし、訪ねてきたヘイストを出迎えるキュア。

 部屋の奥を見れば、アタフタしているクリティカル。




「彼女は?」


「ははっ、寝付いたのが明け方近くだったからな。

寝坊したらしい」


「に、兄さんが、もう良いからって言うのに何時までも【癒し】(ヒーリング)を掛け続けるからでしょ!?」




 更衣室に駆け込み、急いで朝仕度をするクリティカル。

 自分より速く、かつ丁寧に仕上がった一連に……改めてライバルは強大だなと認識するヘイスト。




「クリティカル、魔力欠乏症は完全に治ったようだな」


「ええ」


「しかしキュア……まさか一晩寝ていない、なんて事は無いだろうな?」


「だ、大丈夫だ。

俺も【癒し】(ヒーリング)を受けていたから、疲れてはいない」


「寝ていないって事じゃないか……」


「私が何度頼んでも、無視するんだから……兄さんなんてキライよ」


「うぐっ……へ、ヘイストは【仮想現実装置】(パーシテアー)で何らかのスキルは得たのか?」




 露骨な、キュアの話題すり変えに……仕方ないといった感じで乗っかる女性二人。




「ソレが───母さんにも一緒に報告したいんだが、此方には来ていないよな?」


「居ないの?

なら食堂かしら?」


「たぶんな。

母さんは何時もこの時間には朝食を作っていたから」


「わ、私だって普段通りなら……」


「さあみんなで食堂へいこう!」




 クリティカルの怒りが再燃しそうに成ったので、食堂へと急かすキュア。


 もちろん、クリティカルも分かって怒っている。 仲の良い兄妹の、イチャイチャ喧嘩漫才なのだ。

( 見せつけられる方は、堪った物ではないが。)



◆◆◆



「おやヘイスト、御早うさん。

キュアさんにクリティカルさんも」


「御早う……って、キッチンで何を遣っているんだよ、母さん!?」


「いやぁ、目が見えると調理が楽しくってねぇ」




 ヘイストの母親は食堂キッチンで料理を作っていた。 普通、料理人は自分の調理場が荒らされるのを嫌う人間が多いが……ヘイストの母親は、料理長が感心するほどテキパキと綺麗にキッチンを使っている。




「す、すみません料理長!」


「ははは。

まあそう言いなさんな、お母さんの気持ちも酌んでやりなよ」


「ソレは……分かりますけど」


「うー……料理長!

私も、兄さんの朝食を作ります!」


「……まあ良いがね」




 クリティカルはこの料理長の直弟子であり、キュア好みの料理ならば師匠をも上回った。 突如始まった美女二人による、朝のキッチンバトルに御祭り好きの領主館面々が煽る煽る。


 結局……キュア達が朝食を食べられたのは、食堂に入ってから30分以上たってからであった。




「ご、御免なさい……兄さん」


「まあ腹ペコは最高の調味料と言うしな」




 朝食を食べ終えて、午前の仕事開始までの休憩。




「───さて、母さんの彼是につい忘れそうになったが……キュア、実は【仮想現実装置】(パーシテアー)のスキルが上手く作動しないんだ」


「えっ!?

【仮想現実装置】(パーシテアー)って、魔力欠乏症に成らずに魔法とか得られるように成ったん?」




 ヘイストが【仮想現実装置】(パーシテアー)のスキルを得たという話から、食堂にいた面々に動揺が広がってゆく。




「朱雀によると、『飼い主』がそうゆう風にしたと」


「そ、ソレって……『神様』だよな?

【仮想現実装置】(パーシテアー)って、もはや最上級魔道具の域すら超えてね?」




 彼等は、大国の国宝である最上級魔道具など見たことは無いのだが。




「で……ヘイスト。

スキルが上手く作動しない、とは?」


「自分は【ドラゴンハーツ】ではなく【ディメイションカード】というVRをプレイしたんだ」


「カード?

トランプみたいなヤツか?」


「ああ、ルールは全く違うが。

そのVRで得たスキルを使っても、魔力が動くだけで発動しないんだ」


「ふむ……」




 現実とVRでは、同じ能力でも差異は有る。




「最初のアシッド戦で遣ったらしい、『唯の棒』を杖の代わりに使用したとかも……将来的に使えそうなんだけど発動はしないんだよな」


「そういった、未来的展望とかではなく───何かこう……魔力がモニョモニョするというか」


「【ドラゴンハーツ】だと、先に『アレ』をやってから『コレ』が出来る……というのが有る。

何か、先に遣らなきゃ成らない事が有るんじゃないか?」


「先に?」


「『杖を装備』しないと、『杖魔法が使えない』みたいな感じかなあ。

他に使えるスキルは無いか?」


「あっ……。

ソレなら、コレに何か色々書いてたハズ───やった、出た!

【システムボード】だ!」




 【仮想現実装置】(パーシテアー)のVRアクティビティ、【ディメイションカード】。 基本このゲームは、多くの事をシステムボードから行う。

 カードの生成、ガチャ。

 カードデッキの作成。

 道具の使用などである。




「コレが【ディメイションカード】流のボードか。

何か光っているな」


「……コレか?

何時でも使える12枚のカードを『デッキ』と呼び、コレを作らなきゃ成らないのだな」




 ヘイストは【仮想現実装置】(パーシテアー)から目覚める直前、新たなカードを入手していた。 ソレにより、『デッキ作成チュートリアル』が開始されていた。

 このチュートリアルを消化しないと先に進めないらしい。




「えっと、コッチが今までのカードで……コッチがさっきガチャで得たカードで」


【写し】(カメラ)の絵とは、また違うタイプのリアルな絵だなあ」




 キュア達の世界の絵といえば、エジプトの壁画である。 美麗な絵・アニメ絵……イラストレーターの絵は、キュア達にとってかなり新鮮であった。

 ヘイストが持っていた元のカードは、以下の12枚。



【ウィル・オ・ウィスプ】★★★

【炎の胡桃を食べるリス】★

【サラマンダー】★★★

【井戸から出た蛙】★★

【水の上の踊り娘】★★★★★

【冷帯魚】★

【カマイタチ】★★

【ナイトオウル】★★★

【エアリー】★★

【コロポックル】★★

【リザードマン】★★★

【マンドラゴラ】★★★



 コレに、赤3枚と青3枚。



【ファイヤーネットスパイダー】★★

炎の糸を出すクモ。

糸に触れた敵を一定時間行動不能&継続ダメージ。

移動速度■■■■

攻撃速度■■

射程距離■■■


【熱血兄貴カイドー】★

燃える闘気。 雄々しき筋肉。

炎のパンチで1pダメージ。

移動速度■

攻撃速度■■■

射程距離■


【イフリータ】★★★

炎の大精霊の愛娘。

着弾と同時に爆発する爆弾を投げつけ広範囲に3pダメージ。

移動速度■■■

攻撃速度■

射程距離■■■■


【クリスタルアリス】★★

透明少女。

攻撃力は無いが、自陣地の敵弱体化LVを1上げる。

移動速度■■

攻撃速度■

射程距離■


【スフィンクスニャーン】★

全身毛のない猫の地縛霊。

倒した相手に取りつき、10秒間同士撃ちさせる。

攻撃速度■

攻撃速度■■

射程距離■■


【ツインヘッドシャークフーン】★★

二つの頭をもつ鮫が、台風に乗ってやってきた!

移動と同義の体当り攻撃で2pダメージ。

移動速度■■■■■

攻撃速度■■■

射程距離■


 の、6枚。




「きゃあっ!?

そ、そそそのサメの絵を仕舞って!!」


「わ、分かった」




 VR体験アクティビティで、大のサメ嫌いに成ったクリティカル。 このカードの所為で、台風が来るたびサメを探してしまうようになったのは……別のお話。




「……うーん。

最初の12枚は愛着もあるし、使っていない奴の調子も見たいし……このままで良いか。

デッキ作成完了、と

───カード!」




 パアッと光る、ヘイストの手元。

 12枚のカードか出現した。

 思わずニヤけてしまうヘイスト。

 

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