197 村人を想う少女、勝利する。
思うところが有り、修正させて頂きました。 御注意ください。
申し訳有りません。
VR、【ディメイションカード】にダイブしたヘイスト。
行方不明の少女、『水瀬リン』の居場所を聞きだすため……ヘイストは『カードバトル』にて、隠れている敵デュエリストであるサキヒコを発見した。
≪ぴ!≫
「【エアリー】……うん、アイツだ。
アイツを見張ってくれ」
サキヒコは路地の奥、ポツンとある教会の中心地の花畑でモンスターを指示していた。
剣・槍・拳など、近距離を素早く攻撃・自陣地化できるモンスターを己の周囲に。
弓矢・投石など、遠距離を散発的に攻撃・自陣地化できるモンスターを高所の狙撃ポイントに置いていた。
……気のせいか、女の子モンスターしか見えない。
「一、二、三…………九体のモンスターか。
やはり、★モンスターしか召喚していないようだな」
≪ぴー≫
サキヒコの戦法は、攻撃範囲が小さく攻撃速度が遅いが大量に喚べる★モンスターをひたすら召喚。
教会を安全な隠れ家───兼・要塞として作りあげ、自身は時間内まで隠れながらモンスターを派兵する方法だと思われる。
ヘイストは、サキヒコが消えた路地を取り囲むように★★~★★★モンスターを少しずつ召喚。 包囲完了と同時にサキヒコを襲い、HPを0にするつもりである。
守りは性に合わない。
「【リザードマン】★★★、召喚!
……【コロポックル】、【エアリー】の視界ボードを見ている自分の視界は見えるか?」
≪きゃあ!≫
「よし、なら【コロポックル】は、この路地を隠れながら進んでくれ。
【サラマンダー】は、大通りの路地から。
【井戸から出た蛙】は、教会裏にある路地から───」
複数の路地から侵入し、教会を囲んだまま……伏せるヘイストのモンスター。
慣れぬ指揮などで疲れたヘイストは、サキヒコが教会を要塞化するまでは安全地帯である教会外で一旦休憩。
モンスター召喚や移動より、魔力を貯めつつ作戦立案に耽るヘイスト。
「自陣地は、かなりバラバラに広がっているし……この陣地を取り返すのは大変だろう。
逆に、敵陣地は一塊だからイッキに取り返せる」
教会もまた廃墟。 壁に穴はある。
サキヒコを複数の方角からハサミ討ちにするのは容易い。 現実で幾度もヘイストに勝利を齎した戦法である。
…………が。
教会の高所に遠距離攻撃モンスター。
敵将周囲には近距離攻撃モンスター。
★モンスターだけとはいえバランスは悪くないし、そして何より───
「……地の利以上の不利益が、『敵陣地』には有りそうなんだよな」
ココはゲームである。
どんなルールが有るかは分からない。
しかし広範囲攻撃モンスターや飛空モンスターなどは見当たらない。 目に見えぬ特殊能力は分からないが、★モンスターなら脅威度は低いだろう。
「……ココで情報が無いのに考えてても仕方ないか。
良く分からなくとも、キュアのように思いっきりやるだけだな!」
≪きゃあ!≫
≪しゃー!≫
≪ぴっ!≫
≪ゲコ……≫
≪しゃららら!≫
「───よーし、突撃!!」
一斉に、教会へと突撃するヘイスト軍。
空を飛ぶ【エアリー】と、壁登りが得意な【井戸から出た蛙】は、高所に配置された弓矢・投石部隊退治を攻め。
残りの【コロポックル】【サラマンダー】【リザードマン】は、地上の三方から一斉に侵入する。
「なっ……なんでココが!?
ひいぃっ!?」
「ビビるなっ!
モンスター達は、オマエを守るためにちゃんと戦っているんだぞっ!?」
「あ、あぅあ……い、いけ!
し、召喚!」
まったく偵察をしていなかったサキヒコのモンスター達は、一瞬対処が遅れて初撃をマトモに食らう。
サキヒコに至っては、完全にパニくっていた。
───しかし。
数では圧倒的にヘイスト達の負けであるし、ヘイストは教会を取り囲んでからは魔力を使わずにいたので、総★数でも負けている。
その事にすぐ気付いたサキヒコは……笑う。
「い……言っただろう、★モンスターを馬鹿にするなって!
召喚に時間が掛かり過ぎているんだよ!」
「だから、馬鹿にしてないだろ……」
しかも青いサキヒコの陣地の上では、ヘイストのモンスターの戦闘力が二割は落ちた。
特殊能力も使えないらしい。
「初撃の失態なんか直ぐに取り返すさ!
しかも、【デュエリスト】本人がココまで来るとはね……!
近距離部隊、ヘイストをヤれ!」
「自分がココまで来たのは……無傷のコイツを、オマエの前で召喚するためだ!
【水の上で踊る娘】★★★★★、召喚っ!!!」
サキヒコ周辺の★モンスターを物ともせず、足下から水を吹きだしながらサキヒコを攻撃する★★★★★モンスター……【水の上で踊る娘】。
「なああぁっ!??
★★★★★モンスターを、こんな所で……君は頭がオカシイのか!?」
「彼女達は、自分の盾ではないっ!
共に戦う仲間だ!」
【デュエリスト】の行動パターンは、『隠れる』『モンスターを盾にする』『召喚のため動きまわる』の三つに大別される。
ヘイストにとって、『隠れ』ても意味は無いし……【アジルー村】の人間から肉盾にされてきたキュアを思えば、『仲間モンスターを盾にする』事など有り得ない。
「仲間と共に安全な場所にいるのも大事だろうが……女だからって、戦えないと思うなあああああっっ!」
★数は、ほぼ同数。
敵陣地の不利は、初撃の不意打ちでトントン。
陣地も、青とピンクがゴチャ混ぜとなり……ほぼ同条件と成った。
あとは、デュエリスト本人の実力差。
「こんな……こんな、この……この、この、ぶぉく……ぐぁああ──────」
◆◆◆
カードバトルに負けたサキヒコが、急にメッチャ馴れ馴れしく語りだす。
『負けた敵が味方になる』という概念がないヘイストは、若干……いや、かなり引いていた。
「───実はリンの家族全員、20年前の大地震の被害者でね。
彼女の母親だけが生き残ったのさ」
ヘイストとしては、サッサとリンの居場所を吐いてほしいが……たぶん付き合わないとダメな奴。
「生き残った母親も、リンを生んだあとは病気がちに成って───」
「…………」
「しかも、あの地震は【最初のデュエリスト】なる者が起こした……という説があるのだよ」
「……そう、か」
「彼女はおそらく、家族の───」
◆◆◆
「リン」
「ヘイスト……。
……まったく、馬鹿サキヒコはペラペラと」
集落から離れた海沿いの崖にある墓場に、リンは居た。
外国から出入りしているらしき舟と港が見える。 ひょっとしたら……ココから密航後、気絶していたヘイストを見つけたのかもしれない。
「サキヒコから、君の家族をデュエリストのせいで失ったと聞いた。
自分がリンの事情も知らず、のほほんとデュエリストに成りたがったから……」
「……聞いた事情ってのは、ソレだけかい?」
「え?」
「20年前、だよ?
15歳のウチが産まれる5年も前さ」
「───あっ……」
水瀬リンは、20歳近くに見えるほど大人びている為……ついついヘイストは忘れてしまいそうになる。
だが、彼女は紛う方無き15歳なのだ。
「お袋が、新しい男と結婚して産まれたのがアタシ───とかじゃあ無いよ?」
「な、なら……」
「クローニングさ」
「クローニング?」
「知らないかい?
お袋は……5年前に死んだ旦那の死体から精子をクローニング───作りあげたのさ」
「なっ……!?
そ、そんな事が出来るのか!?」
「大金さえ払いやぁね」
かつて、朱雀が炎の怪人の死体を操った事すら理解の範囲外であったが……リンの話はソレ以上。
混乱しかないヘイスト。
「5年間、死に物狂いで金を貯め……アタシに復讐させようとしたのさ」
「ふ、復讐……?」
「死んだ親父も、デュエリストだったんだよ」
「…………」
「こんな馬鹿な話が有るかい?
復讐のため、体を壊してまで必死になって金を稼いで───
……産まれた娘は、デュエリストじゃあ無かったんだよ」
「リン……」
「アタシはデュエリストって存在そのものが憎い。 デュエリストに成りたがる奴も馬鹿ばっかり。
…………そう、思っていたんだけどね」
リンが、笑う。
苦笑いにも見えるし、慈愛の笑みにも見えた。
ヘイストも笑いかえす。
「……本当に、お母さんは復讐のためにリンを生んだのかな」
「…………」
「リンと比べるのは違う気もするが……自分の母親は、魔も───モンスターの毒で失明していてな。
ソレでも、必死に自分を育ててくれたんだ」
「…………」
「勝手な想像でしか無いが……愛する男性の子が欲しかっただけじゃないか?」
「……はっ。
さすが男のためにデュエリストに成ろうって、エッチなヘイストさんは違いますなぁ~♡」
「なっ!? そ、そんなんじゃ……」
ニヤニヤするリンと、赤くなるヘイスト。 やがて……観念したように、リンは。
「───お袋の、フとした時の表情とか……そうなんじゃないかって瞬間は有ったさ。
でもね?
お袋は死んじゃったんだよ?
もう……確かめる手段は無いんだよ?」
「…………」
「だからアタシは、コレからもデュエリストを憎む」
「ならば自分は、デュエリストで在り続ける。
……リンとの絆の為にも」
「はいはい」
そして、また、笑顔の二人。
御互いの家族の事を話したり。
ヘイストの好きな男で、リンがからかえば……サキヒコとの事で、ヘイストがからかい返す。
( 返り討ちのヘイスト。)
「……寒っ。
そろそろ夕飯時だねぇ、帰ろっか」
「いや、自分は『びる』に慣れてない所為でサキヒコに負けかけた。
少しだけ寄り道するよ」
「そうかい、暗くなる前に帰るんだよ?」
「ああ」
雑談を終えて暫し。
リンと別れたヘイストが廃墟の探険中に……ディメイションストーンを発見した。
大地震後発見された石は、欠片サイズならば島の至るところに有るという。
「属性ディメイションストーンと同じ形だが……色が無いって事は、無属性ディメイションストーンとでも言うのかな」
ヘイストが、石を拾おう───としたら……石が消滅してしまった。
一瞬、石を粉砕してしまったのかと慌てるヘイストの目の前に『視界ボード』のような物が出現。 『所持品ボード』と書かれており、その下には『ディメイションストーン小×01』となっている。
「もしかしてコレ……キュアの【 道具箱 】に近い能力なんじゃ……!?」
試しに、他のディメイションストーンを探しだし……石に触ると、やはり消滅した。
そして『所持品ボード』には『ディメイションストーン×02』の文字。 興奮したヘイストは、ディメイションストーンを集めまくる。
「よし……もしもこの能力が現実で使えれば、キュアのサポートが出来───」
≪ブレンド名・ヘイストさんの脳に疲れを検知。
健康のため、強制ログアウトします。
御疲れ様でした≫
「───うおっ!?
こ、コレがキュアの言っていた……何処からともなく聞こえる【仮想現実装置】の声か」
ディメイションストーン集めに夢中になっていたヘイストに突如聞こえる【仮想現実装置】の声。
気付けば、【ディメイションカード】の世界そのものが停止していた。
「ぞ、属性ディメイションストーンも手に入ったし……ギルドまで待ってくれないか?
ガチャの間だけだから」
≪ユーザー名・キュアさんのように、肉体を乗っ取って「キュア、抱いてくれっ!」と領主館中に響く寝言を叫ばせて良いのならVRダイブ時間延長を許可します≫
「……イジワル」
そんな事を叫ばせられたら、隣室のキュアとクリティカルに聞かれる。
キュアに聞かれるのは恥ずかしすぎるし……クリティカルに聞かれたら、どれだけ怒られるか想像もつかない。
≪…………。
【ディメイションカード】におけるガチャは、システムボードで使用できます≫
「え?」
≪システムボードを開き、ガチャの項目を使えば……採掘ギルドまで行った『という体』に成ります≫
「そ、そうなのか?
……あ、出来た。
なら何でギルドにあんなデカイ盥を……」
≪仕様です≫
「仕様ってなんだ」
全てのゲーマーの疑問である。
多少の憂いは残るものの……【ディメイションカード】にダイブした、最初の目的は達成した。
「リン……有難う。
……さようなら───」
そしてヘイストの意識は、ブラックアウトしてゆく。




