195 村人を想う少女、ガチャを回す。
「…………止めときなよ。
デュエリストは、十万人に一人とも百万人に一人とも言われてる才能なんだから」
リンが、否定的に発する【デュエリスト】なる正体不明な言葉に……一瞬だけ怯むヘイスト。
「済まない。
恩人の為なんだ」
「…………男かい?」
「なっ!?」
「ふふっ、ヤッパリ」
「うー……」
みるみる顔が赤くなるヘイスト。
リンは、暫しニヤニヤし……表情を引き締める。
「分かったよ。
なら止めないけど……『アレ』は───努力や想いじゃあどうにも成らないんだからね?」
「……ああ」
一瞬リンが見せた、険しい顔。
もしかしたら、リン自身が【デュエリスト】とやらに成りたかったのかもしれない。 なんとなくそう思ったヘイストは、敢えて問いはせずにリンの先導に任す。
やがて辿りつく、ヘイスト達の国の言葉で『ギルド』と書かれた建物。
「ヘイストは酒のむ?」
「いや、シン王国は18歳までは飲酒が許されないからな」
「えっ?
ヘイスト18歳になって無いの?」
「あ、ああ」
「そりゃ背え低いし、お子ちゃま体型だけど……」
「だっ、誰がお子ちゃまだっ!?
自分は15歳だ!」
「外人は老けて見えるって聞くからもっと歳上だと思っていたけど……ヘイストは割と見た目通りね。
いや、12~3歳ぐらいに見えるかも」
「そんな子供じゃない!」
キュアの恩人、エロ討伐隊隊長シナモンから『ロリ』扱いされているヘイストのトラウマである。
ライバルはスラッと背も高く、ナニより美人だから余計に。
「そ……そういう、リンは何歳だ!?
まさかリカリスみたいに、二十歳近くに見えて───あ、いや」
領主館のタブーを言いかけて、クチを閉ざすヘイスト。 彼女の地獄耳は、領主館で働く者には有名である。 夢の中のセリフまで聞かれかねない。
「アタシも15歳だよ?」
「…………は?」
身長も体型も纏う雰囲気も。
同年齢のヘイストとは違いすぎた。
「……ズルい」
「ふふっ、まあとにかく右の建物がギルド本館。 左はギルド経営の酒場だよ」
「確かに酒臭いな」
「酒場はガラの悪い酔っ払いばっかだし、近寄らない方が良いから」
「了解した」
「じゃあギルド本館の方に行こうか」
ギルド本館に入るヘイスト達。
コチラも、特にガラが良いというワケでもなさそうだ。 筋肉ムキムキの厳つい男たちの怒号が飛び交っている。 だが、激怒したキュアを見た事のあるヘイストにとって、彼等など恐ろしさの対象には成らないい。
ギルド本館を観察していると。
「───相変わらず美しいね、リン」
「げっ、サキヒコ……」
ヘイスト達に、軽薄そうな男が話しかけてきた。 リンを誉めているが……上から目線が窺えた。
本人はイケメンぶっていそうだが、キュアの優しいトコとかカッコいいトコとか……───見た事のあるヘイストにとって魅力など微塵もない。
「おやっ? リン、新人かい?」
「……ヘイストだ」
ヘイストが、若干ウザいトリップしていると……サキヒコとやらがヘイストの手を握ってくる。
「うわっ!?
な、何をするっ!?」
「新人へ、先輩であるボクからのプレゼントだよ」
「ぷ、プレゼント?」
「ほら、属性付きディメイションストーン四種さ」
回りから、「おおっ」というドヨメキが。 中々の貴重品らしい。
見知らぬ他人……しかも、人を見下していそうな男から貰うのは癪だが、『ディメイションストーン』こそヘイストが【仮想現実装置】にダイブした目的だと思われるのだ。
「……良いのか?」
「ボクは【デュエリスト】だからね。
そんなの、すぐ手に入るのさ」
「……【デュエリスト】?」
「ハハハッ。
ヘイスト君、【デュエリスト】に興味が有るのかい?
なら、あの『ガチャ』に属性ディメイションストーンを容れたまえ」
「ガチャ?」
「…………ハァ。
アレだよ、ヘイスト」
リンが指さした先に有ったのはデカい盥が、縦置きされたような物。
盥中央に穴、盥横に棒が付いている。
「あの中央の穴に、【デュエリスト】の才能が有る人間が属性ディメイションストーンを容れると、【ディメイションカード】ってのが出てくんのさ」
「【ディメイションカード】!」
ダイブしたアクティビティ名である。
キュアの為にも、調べねばならない。
「まあこのボクのような、選ばれし天才でなければ……ガチャに属性ディメイションストーンを容れても無駄にするだけ───」
「容れたぞ」
「は、早いな!? 聞きたまえよ、君!?
君のために言ってあげ───」
「……はあ。
横のレバーを、手前に引くんだよ」
「リンも止めたまえよ!?
【デュエリスト】が狭き門だと、君が一番知っている───」
「ヘイストも、現実を知れば───」
慌てるサキヒコと……愁いをおびたリン。 聞きわけの無い子供を見る目で、ヘイストを眺める二人。
そんな目で見られているとも知らず、ヘイストはガチャ横のレバーを引き───
「うわっ、なんか光った!」
「「───は?」」
光り輝く、ガチャ。
暫くして、ガチャの光が弱まり……ヘイストの前に───三枚のカードが浮かぶ。
「「「…………っ!」」」
「へ、ヘイストが……デュエリストだったなんて……!」
静寂なギルド本館。
リンの……感情が読めぬ声だけが響く。
「コレがカードか……!
サキヒコとやら、この……属性ディメイションストーンだったか?
有難う。
残りの三個も、使って良いのだろうか?」
「あ、ああ……。
ソレはもう、君のものだからね。
だが売れば、一個で庶民一週間分の生活費に───」
「次はこの青い石を、それっ」
「だから、人の話を最後まで聞きたまえよっ!? 君ィ!?」
キュアの為、【ディメイションカード】にダイブしたヘイスト。
この世界に興味は無くはないが……だからといって、目的であるカードを得ないなんて本末転倒な事はしない。
「また三枚のカードが出たな。
最初の赤い石は赤いカード、次の青い石は青いカードか」
「赤は火属性、青は水属性だよ」
「リン」
ヘイストが最初に出会った少女、リン。 何処ぞの国から密航した (という設定) のヘイストを保護し、世話してくれた間は……ほとんど笑顔だったが、今の顔からは笑みなどない。
「残りの、緑が風属性で黄色が土属性さ」
「……り、リン?
どうした? 怒っているのか?」
「……別に」
ヘイストが持つカードを見る、リンのその目は……怒り、では無いのかもしれない。 だが、リンからは複雑な感情が見てとれる。
不快感も、確かに感じられた。
「……自分はリンに、してはイケない事をしてしまったのだろうか?」
「ヘイスト……」
「ならば、謝る。
自分の都合で、ココまで善くしてくれたリンに対し───」
「───そんなんじゃ無い!」
ヘイストの言葉に、つい、声を荒らげ……申し訳なさそうなヘイストの表情に、リンが顔を伏せる。
「…………っ」
「リンっ!?」
ギルド本館から駆けて出てゆくリン。 思わず追いかけようとしたヘイスト……の、腕を掴むサキヒコ。
「何をする!? 離せ!」
「ボクぁ、彼女が飛びだした理由を知っているからね。
……止めるよ」
「…………。
力ずくで、追いかけるとしたら?」
槍は持っていない。
だが、素手でヒョロい男の一人や二人を制圧するぐらいは出来る。
しかし。
「力ずくというのなら、カードバトルで勝負だ!」
「か、カードバトル……?」
「残りの属性ディメイションストーンをカード化したまえ。
君もボクも、十万人百万人に一人の【デュエリスト】。
これは宿命だよ!」
何で。
……と、一瞬思わなくもないヘイスト。
然れど……バトルというのなら、何らかの戦闘行為が行われるのだろう。 そしてソレは、『キュアの役に立ちたい』というヘイストの目的に通じる。
リンの事は気になるが───
「……分かった、そのカードバトルとやらで勝負しよう」
「ちなみに、ボクはリンが行った先の見当も着いている。
君が勝ったら、ソレも教えるよ」
「ああ」
ヘイストは取敢ずサキヒコに言われた通り、残りの属性ディメイションストーンもガチャに容れ、カード化する。
全12枚のカードには、以下の情報が描かれていた。
赤のカード
【ウィル・オ・ウィスプ】★★★
沼地に浮かぶ人魂。
敵に2pダメージ。
火ダメージを受け無い。
移動速度■
攻撃速度■
攻撃距離■
攻撃範囲■
【炎の胡桃を食べるリス】★
たまに爆発する胡桃を食べるリス。
敵に2pダメージ。
たまに敵味方に5pダメージ。
移動速度■■■■
攻撃速度■
攻撃距離■
攻撃範囲■~■■■
【サラマンダー】★★★
火を吐くトカゲ。
広範囲の敵に1pダメージ。
移動速度■■
攻撃速度■
攻撃距離■■
攻撃範囲■■■
青のカード。
【井戸から出た蛙】★★
世界の広さを知った蛙。
敵に1pダメージ。
味方を1p回復。
移動速度■■
攻撃速度■■
攻撃距離■
攻撃範囲■
【水の上の踊り娘】★★★★★
水の上に立つ事が出来る乙女。
敵に4pダメージ。
水ダメージを受けない。
ターン終わりに1p回復。
移動速度■■■
攻撃速度■■
攻撃距離■■
攻撃範囲■■■
【冷帯魚】★
寒い海に住む魚。
敵に1pダメージ。
移動速度■■■
攻撃速度■
攻撃距離■
攻撃範囲■
緑のカード
【カマイタチ】★★
風の中に住むイタチ。
敵に2pダメージ。
移動速度■■■■
攻撃速度■■■■
攻撃距離■
攻撃範囲■
【ナイトオウル】★★★
闇夜の梟にして騎士の梟。
2pダメージ。
飛行。
風ダメージを受けない。
移動速度■■■
攻撃速度■■■
攻撃距離■
攻撃範囲■
【エアリー】★★
体が風で出来た妖精。
敵に2pダメージ。
飛行。
移動速度■■■
攻撃速度■■
攻撃距離■
攻撃範囲■
黄のカード
【コロポックル】★★
蓮の下の小人。
敵に1pダメージ。
たまに敵をマヒさせる。
移動速度■■
攻撃速度■■
攻撃距離■
攻撃範囲■
【リザードマン】★★★
ふかい森にすむ二足歩行のトカゲ。
敵に3pダメージ。
移動速度■■■
攻撃速度■■■
攻撃距離■■
攻撃範囲■
【マンドラゴラ】★★★
抜くと恐ろしい悲鳴をあげる植物。
広範囲の敵に1pダメージ。
移動速度■■
攻撃速度■
攻撃距離■
攻撃範囲■■■
……である。
能力説明 (っぽい物) から、おそらく名前ヨコの★が多い方が強いと思われた。
「全ての石をカード化したが……カードバトルとはどうするんだ?」
「【デュエリスト】……ボクや君を、王に見立てた国取り合戦さ」
「王? 国取り?」
「【デュエリスト】同士がバトルを宣言すると、辺りが特殊なフィールドになる。
その特殊フィールドを奪いあうのさ」
「どうやって?」
「バトル開始から【デュエリスト】には、【ディメイションエネルギー】が貯まってゆく。
ディメイションエネルギーが『1』貯まれば、★モンスターをカードから召喚できる」
「し、召喚?
★★★★★モンスター? とやらを召喚するには、ディメイションエネルギーとやらが『5』必要なのか?」
「そうだ。
★★★★★なんて、まず出ないがな」
「一枚あるんだが……」
「なにっ!?」
ヘイストがサキヒコに【水の上の踊り娘】★★★★★を見せると、顔を青くした。
膝も震えているようだ。
「は……はァンン!
★★★★★モンスターなんて召喚に時間が掛かり過ぎる!
じじじ実戦では役に立たないさ!
★モンスターを馬鹿にするなあ!?」
「していないだろ……」
何分、【デュエリスト】としてはサキヒコの方が先輩だ。 負け惜しみか事実かは、今一つ分からない。
「も、モンスターが出来る事は二つ!
敵をモンスター能力で攻撃し、陣地を広げる事なのさ!」
「陣地を広げる方法は?」
「攻撃だ。
攻撃が地面や壁に当たると自陣地化するのさ」
たぶんガチャから得られるカードは、物凄い量の種類があるのだろう。 しかし、どのカードが得られるかは運しだいだと思われた。
サキヒコは★モンスターばかりしか持っていないらしい。
「さあ、宣言したまえ!
───『バトル』!!」
「まだ今一つ、理解しきれていないが……仕方あるまい。
───『バトル』!!」




