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194 村人を想う少女、VRを始める。

 

「よし、VRの概要は掴めた」




 【仮想現実装置】(パーシテアー)を使う事になったヘイスト。 キュアから、【仮想現実装置】(パーシテアー)の手順を聞きながら進めてゆく。




「この並んだ絵のうち、色が付いたのが今遊べるアクティビティだな?」


「ああ。

ヘイストも、【ドラゴンハーツ】をプレイするのか?」


「いや……暫し考えてみよう、有難う。

では御休み。

キュア、クリティカル」


「御休み」


「御休みなさい」




 まだ何のアクティビティをプレイするかは決めかねているヘイストだが、フルダイブ型アクティビティをプレイするのは決定済み。

 つまり眠る。


 寝姿を、キュアの前に晒すのは……まだちょっと早い。 恥ずかしい。 そうゆうのは結婚してから……いや……まだ御付き合いもしていないし───

 などとモジモジしていて、クリティカルからイラッとされたので自分たちに割り当てられた部屋へと帰るヘイスト母娘。


 帰る途中……廊下の向こうでメイド長リカリスが、「一度、体内に毒を取り込んでみるべき……?」などと何やら恐ろしい事を恐ろしい顔で呟きながら消えていった。

 キュアは修羅を生んだのだ。


 そんなリカリスは見なかった事にしたヘイスト母娘。




「……ヘイスト」


「何だい、母さん」


「分かっているとは思うけど……別に強く無くったって、キュアさんはアンタを邪険にはしないからね?」


「分かっているよ」




 キュアはヘイストに戦力を求めない。 ソレが寂しくもあるが。




「自分の我儘さ」


【仮想現実装置】(パーシテアー)のチカラは、奇跡のチカラ。

奇跡にすがったチカラは、真の強者にしか使いこなせないんだよ?」


「ああ。

キュアの強さが『そう』って言いたいんだろ」


「逆境から這い上がって手に入れた強さだから、キュアさん自身が望んだチカラじゃないだろうけどね」


「自分自身を鍛える為でもあるんだよ」


「……なら、もう言わないさ。

御休み、ヘイスト」


「御休み、母さん」




 共に、ベットに寝付く母娘。

 母親は、目が見えるように成った喜びから色々とはしゃいでいたのもあり……疲れていたようだ。 直ぐに寝息が聞こえてきた。

 そして娘は。

 ヘイストは。




「(……元々、自分はキュアの劣化版でしかない。

今更【ドラゴンハーツ】のスキルを得たところで、その差は埋まらない。

キュアが魔法を重視しているからと、剣や弓矢のスキルを取っても無駄だな)」




 領主館の人間は【仮想現実装置】(パーシテアー)を使わない。 魔力欠乏症の事も有る。

 しかし一番の理由は、スキルを得ようと、アシッド(ばけもの)を倒せないと分かっているからだ。

 ヘイストも、その辺は一緒である。




「(クリティカルが、ああも混乱する【機鋼神ベノムセイバー】も自分には無理そうだ)」




 クリティカルから聞いた、【仮想現実装置】(パーシテアー)のマーク。 【ドラゴンハーツ】と【機鋼神ベノムセイバー】に共通するマークがフルダイブ型らしい。

 候補は幾つかある。




「(【魔法少女マジカルレイン】……【マリア・オブ・レジェンド】……)」




 【魔法少女マジカルレイン】は、キュアが【裁縫】で作った【ドラゴンハーツ】の仲間の服であるフリフリドレスみたいなのを着た少女が杖を持っていた。


 キュアの魔法もそうだが、古代人は魔法を使う時に杖を媒介にしていたのだろうか? 女の子らしい格好には憧れつつ……このドレス(・・・・・)は上級者向けすぎる。 ヘイストは、ドレスを着た自分を想像して───諦めた。


 【マリア・オブ・レジェンド】の絵は、女性のバストアップ。 しかし人物の真ん中で別けられ、左右で別人のように描かれている。

 右半分は高貴なドレス。

 左半分はボロ着。

 それだけ。

 内容が分からず、ちょっと手が出し辛い。




「【ディメイションカード】……コレは?」




 ヘイストが気を取られたのは、少年少女が薄っぺらい板状のカードを持つアクティビティ。

 その後ろに魔物。


 VR練習用アクティビティの中にトランプが有ったので、カードは分かる。 カードは分かるのだが……ソレと、後ろの魔物の関連が分からない。




「(キュアの杖・指輪魔法みたいな……カード魔法みたいな物か?

カードで魔物と戦う?

子供でも魔物退治できる魔法なのか?)」




 カードを持つ少年少女は全員、年端も行かぬ年齢層。 現実ならば魔物と相対するような年頃ではない。




「(【ドラゴンハーツ】より更に強力な魔法……ソレとも、補佐に特化しているとか?)」




 貧民街出身のヘイストは、大人の役割・子供の役割がハッキリ別れている場所で育った。

 子供は大人を補佐して生きる。

 イキった、自分勝手な子供は死ぬ。


 この少年少女たちが、魔物退治する大人たちを、カード魔法かなんかで補佐するのかもしれない。




「……遣ってみるか。

キュアのサポートが出来るかもしれない。

【仮想現実装置】(パーシテアー)、頼む」


≪【ディメイションカード】はフルダイブ型です。

宜しいですか?≫


「ああ」


≪【ディメイションカード】にダイブします≫




 そして、ヘイストの意識はブラックアウトしてゆく───



◆◆◆



「…………んっ」


「あっ、目覚めたかい?」




 ヘイストが意識を戻したのは、廃墟の建物の中。 生まれ育った貧民街の様子に似てなくも無いが……荒れた建物の素材が違う。

 クリティカルがプレイした【機鋼神ベノムセイバー】に出てきた、『びる』なのかもしれない。


 粗末なベッドで寝ていたらしいヘイストの様子を伺う黒紙の女性。

 見た事のない服装の民族で年齢は判断し辛いが、二十歳は超えていないと思われた。




「こ、ココは?」


「港近くの元雑居ビルだよ。

アンタ……港近くの海岸で溺れてたし、密航者みたいだけど何処から来たんだい?」


「密航者?」




 キュアの話だと、【ドラゴンハーツ】ではいきなり投獄されていたという。 【ディメイションカード】も、プレイヤーに密航者という立場を与えるのだろう。




「じ、自分はシン王国から来たんだ」


「シン王国?

知らない国だねぇ……?」


「そ、そうか」




 シン王国は500年以上の歴史が有る長命国だが、古代人の時代には無かったらしい。




「ま、この島に来たからにゃあ何処出身かは関係無いけどね」


「島?」


「アンタも『ディメイションストーン』目当てで、この島に来たんじゃないかい?」


「ディメイションストーン?」


「……その顔は、本当に知らなさそうだね。

この島から、次元を歪ませる石───ディメイションストーンが発掘されたのさ」


「次元を歪ませる石……」


「世界中の貧乏人から金持ちまで、みんなこの島に大注目さ。

貧民人は石を採掘するため。

金持ちは石を買いとるためにね」


「自分は……」




 【ディメイションカード】というアクティビティ名から、そのディメイションストーンとやらが重要な鍵のハズだ。

 そう考えたヘイストはディメイションストーンを先ず手に入れる事にする。




「ディメイションストーンが欲しい。

だが、金は無いんだ……」


「なら付いてきな。

採掘者に成ればいい」


「君は?

自分はヘイストと言う」


「ウチは水瀬リン。 採掘者さ。

アタシ等んトコで面倒見てやるよ、ヘイスト」



◆◆◆



「リン。

自分は、この『ビル』という建物が無い所から来たんだが……ココは廃墟で合っているのか?」




 ビルやその他、現実ではあまり見ない建物の廃墟を進むヘイストとリン。




「廃墟だよ。

20年ぐらい前、この島を大地震が襲ってねぇ……ディメイションストーンが発見されるまで、島民は逃げだしてて無人島同然だったのさ」


「無人なら何故、ディメイションストーンが発見されたんだ?」


「次元の歪みを調べる道具ってのが有ってね。 ソイツに海の向こうから反応したらしいよ」


「そ、ソレはよく分からないが凄いな……魔道具なのか?」


「?」




 今一つ、現実との文明・文化差が分からないヘイスト。




「リン、採掘者に資格や技能は必要なのだろうか?」


「うんにゃ? なーんも?

アタシゃ学なんか無いけど……御天道様に背かずマジメに生きてりゃソレで充分さ」


「そうか」


「噂じゃあ元犯罪者だって奴も居るけどねぇ……採掘ではマジメに遣ってくれりゃあ良いよ」


「そ、そうか」




 来る者拒まずスタイルらしい。

  暫くすると、人がチラホラと増えはじめた。 廃墟の人々を観察すると……島には色々な国々から集まっているというだけあって、様々な人種がいるようだ。




「シン王国人と同じ人種は居ないのかな」


「ヘイストは、白人とアジア人のハーフっぽいけど……っと。

着いたよ、彼処がウチ等のグループが根城にしてるビルさ」




 三階建てのビル。

 ココも、人は多いがボロボロの廃墟である。 リンの根城というビルの中には、約10人程の人間が居た。

 下は赤ちゃん、上は年齢不詳の老人まで。 一番多いのは10歳以下ぐらいの子供と家事をしている2~30歳あたりか。




「家族で来ているのか?」


「木梨さんと土門さんトコはね。

木梨のオバちゃん、このコ新しく来たヘイストだよ」


「宜しくお願いします。

ヘイストと言います」




 リンから紹介された、木梨のオバちゃん。 ヘイストを見るなり、不信感を隠そうとすらせず睨んできた。




「あーん?

なんだいアンタ、若い女一人で来たのかい?」


「え、ええ。

そうです」


「どっかから逃げてきた、犯罪者じゃないだろうね?

ウチのモンに迷惑かけたら承知しないよ!」


「オマエ……言い過ぎだぞ」


「い、いえ」




 この場のリーダー格らしき木梨のオバちゃんには睨まれたヘイストだが、旦那らしき怪我した男やその他のメンバーには概ね受けいれられた。

 未だヘイストへの不信感を露にするオバちゃんの代わりに、皆が謝る。




「スマンな、嬢ちゃん」


「ゴメンね、ヘイスト。

木梨のオバちゃんは……オジちゃんがならず者に怪我させられちゃって、ちょっと仲間以外に警戒心が強くなっちゃったみたい」


「自分の……職場も同じ理念だから良く分かる。

問題ない」




 教会なんて、ファ○○ユー!

 敵が世界的組織でも、割とガチで喧嘩を売る職場、領主館。




「そっか。

じゃあ次はギルドね」


「ギルド?」


「採掘者たちが、採掘したディメイションストーンを売る場所って考えりゃあ良いよ。

どの金儲けが、どんだけ金を出すって依頼相場が出されてんのさ」


「…………。

自分が採掘したディメイションストーンも、買いとらねば成らないのだろうか?」


「なに、ヘイスト……?

金持ちから直接、採掘依頼を受けたクチ?」


「いや、違う。

自分がディメイションストーンを欲しているんだ」


「ナニそれ、ヘイストは『デュエリスト』でも目指してんのかい?」


「デュエリスト?」




 【デュエリスト】。

 

 【仮想現実装置】(パーシテアー)の中のVRには、知らぬ単語や意味不明な単語 (強化と書いてヘイストと読むとか) が多いが、コレまた知らぬ単語だなと一瞬怯むヘイスト。


 しかし、無意味な単語では在るまい。 文脈から『職業の一種』的な単語に聞こえたが、ひょっとしたら魔法スキル名かもしれない。

 

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