193 村人、年上からも。
192話も加筆修正しています。
体調そのものは、熱が下がったので休み (仕事含む) を利用してヘイスト編を一気にやろうとして……今度は腹を下し中です。
「クリティカル、大丈夫か?」
「ええ、兄さん。
【癒し】のお陰で、【火球】の時ほど辛くは無いわ」
【機鋼神ベノムセイバー】の必殺技名、【ベノムバスター】を唱えたら……実際に【ベノムバスター】が撃ててしまったクリティカルは、途端に魔力欠乏症となってしまった。
キュア達の迅速な対応により、一晩寝て目覚めるころには全快しているだろうが……今はベットから動かせない。
「朱雀、今のクリティカルが使った……【ベノムバスター】だったか?
アレは魔法なのか?」
「ムリヤリ再現してしまった、魔法……のようなモノですね」
「もし俺が【機鋼神ベノムセイバー】にダイブしたら?」
「教会の人間共が魔ナシと呼ぶ主様は、脳の処理法が換わるだけで、別の理の魔法を自在に扱えます」
「ソレがキュアの……魔ナシの真のチカラなのか?」
「そもそも主様が御使いに成られる【ドラゴンハーツ】の魔法も、コチラの魔法原理では有り得ませんもの」
「【ドラゴンハーツ】流の魔力操作で、現実の魔法を改造しているようなモンか」
「私のは、【機鋼神ベノムセイバー】流の魔力操作? で、魔法を改造したようなモノね」
「妹のは改悪ですよ。
どちらにせよ、精霊を介在しない……魔力原子に近い物だと思って下さいませ」
この世界の人間は、厳密には魔法を使えない。 精霊に魔力を渡し、魔法を代行させているようなモノである。
【仮想現実装置】由来の魔法・スキルは、精霊を介在させずに魔力そのものを『現象』として世界に解き放つ。
「妹の異常な魔力欠乏症は、精霊の逆流とでも御思い下さい」
「精霊の嫌がる魔法を使う私に、精霊が怒って拒否反応が出るのね」
「今一度ダイブすれば、我が飼主から別の理の魔法の使いかたを得られますよ、主様の妹」
「……止めておくわ」
体調の事も有るが……クリティカルとしては、自分にはサポートが一番適していると理解している。 ケンカすら満足にした事の無い自分が【火球】か【ベノムバスター】を使えるようになった所で───
……ソレならば、普段通りキュアに【仮想現実装置】を使わせた方が兄の為になる。
自分は領主館の仲間と共に、教会やアレコレと戦うチカラを得よう。
ソレがクリティカルの考えだ。
「という訳で……兄さんが【仮想現実装置】を使って?」
「しかしなあ……今晩は【癒し】を掛けたいんだ」
「兄さん……。
私のために、そんなの駄目よ」
「やらせてくれ、頼む」
「……御免なさい、有難う」
しかしキュアはクリティカルを癒したい。 魔ナシ差別で腐っていた時、クリティカルにかけた迷惑はこんな物では無いからだ。
二人が、兄妹愛を深めていく中……おずおずと挙がる手。
「───な、ならば今晩は【仮想現実装置】を自分が使って良いだろうか?」
「ヘイスト?」
「ず、図々しいとは分かっている!
しかし自分はクリティカルみたいに頭も良くないし、細やかなサポートも出来ない。
槍しか能の無い自分は、強くなりたいんだ!」
ソレは、クリティカルこそが願う事。
クリティカルは強くなってキュアの隣に立ちたい。
【アジルー村】の人間が、キュアを肉盾にしていた時……自分もその恩恵を受けていた。 【アジルー村】の人間を悪くなど言えない。
クリティカルは強くなってキュアの隣に立ちたいのだ。
しかし、その才能がクリティカルにはない。
「……無い物ねだりね」
「……御互いにな」
「?」
クリティカルとヘイストは御互い、キュアを想っているハズなのに……求めるチカラは逆だった。
ヘイストは、もっと女の子らしく成りたいと生まれて初めて思っている。 だが、クリティカルのような家事やサポート能力が無い。
ならば強くなって、キュアの敵をキュアの代わりに屠り、キュアの負担を減らすしかないのだ。
「二人とも、何の話だ……?」
「女の子どうしの秘密よ、兄さん」
「そうだぞ、キュアのエッチ!」
「違っ……!?」
狼狽するキュアと、笑うクリティカルとヘイスト。 3人を見て微笑むヘイストの母。
「私は、構わないわよ」
「……ちぇっ、俺も問題は無い」
「二人とも、有難う。
……キュアを勇者か魔王にしたい朱雀は嫌か?」
「主様が許可したのなら主様の、良しなに。
側女が強くなって、主様の愁いが無くなるのならば良いでしょう」
「側女じゃない!」
「( アタシゃ側女でも良いけどねぇ )」
「( 母さんっ!? )」
「( いやぁ……コッチは、目ぇ治して貰って返しきれない恩があるっていうのに……『恩人に礼をする』とか言われちゃあねぇ? そりゃキュンッて成るよ? )」
「( キュンッて……歳を考えなよ )」
「( 新しい父さんが欲しく成ったら言いなさい? )」
「( 成るかあーー!! )」
39歳。 乙女。
「仲良い親子だなあ」
「キュア……はあ。
とにかく、今晩は有難く【仮想現実装置】を使わせて貰おう」




