192 村人、妹の話を聞く。
「う、ウィーン・ガチャーン?」
「う、うい?」
嘗て、キュアとヘイストがアシッドに襲われた『あの日』。
クリティカルが遊んでいたアクティビティの内容を聞いていたキュア達だが……予想以上に意味不明だったようだ。
「───え、えっとね?
【機鋼神ベノムセイバー】と言って……巨大魔物と化した毒のある虫とかを、退治してゆくVRよ」
「巨大な魔物かあ。
【ドラゴンハーツ】で子竜を倒した時、魔法が使えなくて苦労したなあ」
「【機鋼神ベノムセイバー】は魔法が使えなくて、代わりに巨大な鎧を着込むの」
「き、巨大な鎧??」
炎の怪人が街に再出現した時も、大きく立派な鎧を着た討伐隊が出兵した。 似た格好で、出兵するクリティカルの姿を思い浮かべるキュア。
「騎士様みたいな、全身鎧を着たのか?」
「ううん……私が着たのは、10mを超える【ベノムセイバー】っていう鎧よ」
「「「じゅ……」」」
キュア達では、想像すらつかな過ぎる絵面である。
「10m超えの鎧? を、クリティカルが着る?
ソレで、巨大な毒虫とかを倒す?」
「……意味が分からな過ぎるねぇ。
そ、ソレでマトモに動けるのかい?」
「背中の穴から、火を噴いて空を飛ぶのよ」
「「「…………」」」
クリティカルが情報を継ぎ足すたび、更に混乱してゆくキュア達。
最早キュア達の想像の中では、クリティカル自身が10m以上になり空から火を噴いていた。
「ま、まあ……キュアの【二段ジャンプ】とかだって原理は分からんが、取敢ず動けるのが【仮想現実装置】のアクティビティって奴なんだろう」
「そ、そうか」
【ドラゴンハーツ】内で、巨体のドラゴンが小さな羽根で飛んでいたが……『VRだから』というのは多い。
その辺はキュアも理解は出来る。
「ちょっと遣ってみたいなあ」
「だっ、ダメよ……!?
イケ好かない───奴がいたから」
「……イケ好かない、奴?」
クリティカルは、『堕肉を揺らす女総司令官補佐』の事を言ったつもりであったが……。
「……男か?
まさかクリティカル、エッチな夢は見ていないだろうな!?」
「キュア……流石にソレはセクハラだぞ?」
「キュアさん……似た者兄妹なんだろうけどねぇ」
【ドラゴンハーツ】内に出てくる女の影に、すぐ嫉妬するブラコンのクリティカル。 シスコンのキュアも、当然の如く嫉妬してしまう。
「お……男なんて───彼は、そんなんじゃ無いわよ」
「彼っっ!!?」
「だーかーらー!
あんな、人の服を奪って個室に閉じ込めるような男なんかに…………」
「く……クリティカル、言葉は選べ?
キュアの心臓に悪そうだ」
過剰反応するキュアは、泡を吹きかけながら全身プルプル震えている。
あと白眼。
だいぶあかん感じ。
「本当に何も無いから!
兎に角疲れる世界よ……人間も、文明もね」
「文明も?」
「何もかもが魔道具に見えたわ。
動く床や階段。
馬の居ない馬車。
下級魔道具とは言え、皆が腕に小さな時計を着けていたの」
「へー……」
領主館にも時計は有るが、デカイ壁掛け時計が一つだけ。 とてもではないが、腕に着けられるサイズでは無いし、皆が持つ程の量がない。
「今まで、【ドラゴンハーツ】が古代人の時代を再現したものかと思っていたけど……【機鋼神ベノムセイバー】の方が近いのかもね」
「そうなんだな……」
【機鋼神ベノムセイバー】に興味は無くもないキュアだが……もし、クリティカルの服を奪い個室へ閉じ込めた男とやらを見かけてしまうと、殺───指を切って、拳骨一万発、毬栗を千個飲ませてしまうかもしれない。
【癒し】を掛けながら。
たぶん、そんな事をすればゲームが無茶苦茶に成ってしまうだろう。 【機鋼神ベノムセイバー】にダイブするのは自重するキュア。
想定していた理由では無いが、目的は達成したクリティカル。
「キュアが【ドラゴンハーツ】の魔法を使うように、クリティカルはその【機鋼神ベノムセイバー】のスキルは使えないのか?」
「さっきも言ったけど、魔法は無くて巨大鎧に乗り込むだけだから……」
「どんな方法で巨大毒虫を倒すんだい?」
「鎧の武装ですよ」
「武装?」
「【ドラゴンハーツ】の魔法みたいに、武装名を叫ぶとその鎧に仕込まれた武装が飛び出てくるの」
「鎧にそんなモン仕込んだら、防御力が……ああ、10m以上有ったら大丈夫なのか」
キュア達の想像の中の、火を噴く10m以上のクリティカルから爪が伸びてきた。
「腕が千切れて飛んでゆくパンチとか」
「「「 !? 」」」
「コメカミから、お豆が飛びでるバルカンっていうのとか」
「「「 !?? 」」」
「坑ベノム因子が高い、私だけが使える【ベノムバスター】とか───」
「「「 !??? 」」」
クリティカルの、【ベノムバスター】という『宣言』と共にクリティカルの胸部から出る赤い光帯。
「きゃあっ!?」
「クリティカル、大丈───っと、まずコレを羽織れ」
人や壁を焼くほどの威力はないが……クリティカルが着ている服の胸元は焦げて穴が開いていた。
慌ててベットシーツを羽織わせるキュア。
「…………見た?」
「す、済まん」
「もうっ……!」
顔は赤いが、本気で怒ってはいないクリティカル。
「い、いや……キュア、クリティカル?
いちゃいちゃする前に───い、今のは」
「スキル……かい?」
「【ドラゴンハーツ】みたいに、巨大鎧を装備してスキルを会得した……とか」
クリティカルが出した赤い光帯、ソレは劣化版とは言え……クリティカルが【機鋼神ベノムセイバー】で、ベノムスズメバチの大群を一撃で焼き払った【ベノムセイバー】の必殺技───【ベノムバスター】であった。
「妹が直接出したスキルでは有りませんわ、主様」
「朱雀?」
戸か、窓か。
僅かなスキマから、ソッと入ってきた火燐。 一つ処に集まり、美女の姿を取る。
キュアの下僕を名乗りし、神のペット……火の鳥朱雀。
「クリティカルのスキルでは無いって事か? どういう事だ、朱雀」
「ソレよりも先に妹を寝かした方が宜しいかと。
妹がその技を会得したのは、『我が飼い主』が『慈悲』を授ける前。
魔力欠乏症になりますよ?」
「え───」
言われ、血の気が引いたように成ってゆくクリティカル。 魔力欠乏症の症状は、貧血に似ているからだ。
「御免なさい、兄さん……」
「気にするな。
さあクリティカル、横になって……ヘイスト、済まないがクリティカルの着替えを頼む」
「ああ」
「主様の【癒し】も効果が有るかと」
「よし、【拡散癒し】」
深夜も更にふけた時間。
兄妹のドタバタに、ヘイスト母娘を巻き込むことを悪いと思ったキュアは、場の全員に回復魔法が届くように使う。




