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191 村人の妹、【ベノム】を倒す。

 

 済し崩しに徴兵され、【ベノムセイバー】のパイロットにされ、脱がされ、変な(ヒーローの)服を着せられ、小部屋に閉じ込められたクリティカル。


 小部屋の壁は真っ暗で、夜空に浮かぶ椅子に座らされているようであった。




「クリティカル」


「きゃっ───……何コレ」




 突然聞こえる男の声。

 同時に、真っ暗な壁の一箇所。

 椅子に対して、正面脇が突如パッと光る。


 混乱していたクリティカルが慌てていると……映ったのは、対ベノム組織の二郎。




「……しょうもない絵。

兄さんの絵とか出ないのかしら?」


「絵じゃねぇって!

オレが【セイバーレッド】からクリティカルの乗る【セイバーピンク】へ、通信してんだぜ」


「女の子の───ふ……服を脱がせて、こんな部屋に閉じ込める変態犯罪者の絵よね?」


「ひ、人聞きの悪い事を言うな!?

そのスーツは防弾防刃対火対冷に生命維持装置まで完備された、超高性能スーツなんだぜ!」


「知らないわよ!

私の服を返して!」




 動く二郎の絵は胸あたりまで映っており、赤い服を着ていた。

 クリティカルの世界で『赤』を『レッド』とは呼ばないが、ピンク色の服を着せられた自分が【セイバーピンク】ならば、二郎の言うレッドが赤なのだろう。




「……済まねえが、クリティカルには【ベノム】退治に付き合ってもらう!」


「はあっ!?」




 確かに徴兵はされたが、いきなり【ベノム】退治と言われても困るクリティカル。

 『不動のクリティカル』とまで呼ばれた現実の魔法を使えれば、何とか成るかもしれないが───




「椅子の下に有る『ペダル』を踏みしめてくれ」


「……もうっ!

…………コレで良いの!?」


「その次は、肘掛けの先の『レバー』を掴んでくれ」


「……掴んだわよ」




 ペダルもレバーも、クリティカルの知らない単語であるが……足下には如何にも踏めと言わんばかりの、足と同形の板。 肘掛けの先には取手のような物が付いていた。

 間違えようも無く、二郎の指示をこなすクリティカル。




「なら『アーマード』と唱えてくれ!」


「あ、『あぁまぁど』?

……きゃっ!?」




 クリティカルが『アーマード』と唱え (?) た途端……足首と手首が、金属の輪っかによって固定されてしまう。

 再び混乱するクリティカル。




「馬鹿バカばか変態っ!!

服を脱がして拉致した上に、今度は拘束するなんてっ!?」


「だから人聞きの悪い事を言うな!?

肘掛けやオットマンは動くだろ!?

……目の前のスクリーンを見ろ!」




 椅子が変型し、空に浮かぶ椅子を背負う形で立ち上がるクリティカル。

 椅子からは離れられないが、拘束という程では無い。


 真っ暗だった壁は、パアァッと風景が描かれてゆく。 場所は先程まで居た『格納庫』という場所に近い。




「アレは……【ベノムセイバー】?」




 目の前には、どピンクの【ベノムセイバー】。 アレが【セイバーピンク】なのだろう。


 腹の中が空洞であり、クリティカルが入っていると思われる小部屋が【ベノムセイバー】の中へ収納されてゆく。




≪コックピット、ロック完了。

【ベノムセイバー】、パイロットと同期≫


「な、何っ!?

ナニが起こるの!?」


「クリティカル。

自分の手足と、スクリーンに映る【セイバーピンク】の手足を見な」


「手足……?」




 スクリーンには、クリティカルの手足に連動して動く【ベノムセイバー】の手足が描かれていた。

 VR練習用アクティビティに、似た操作が有ったのを思いだす。




「今、クリティカルが【セイバーピンク】を操縦しているんだぜ」


「私が……」




 回りには【ベノムセイバー】を整備する人間が。 サイズの相対的に、絵本に出てくる小人に見えた。




「クリティカル。 隣のカタパルトに居る【セイバーレッド】に、オレが乗ってるんだ。

オレと同じ姿勢をとってくれ」


「こ、こう?」




 直立から、やや膝を曲げた姿勢。

 それは、人間でいう……飛びはねる直前のような───




≪システム、オールグリーン。

【セイバーレッド】射出!

【セイバーピンク】射出!≫


「射───しゅ──────……」




 【ベノムセイバー】を乗せた床が超高速で前進してゆき……射出。 そのまま低空飛行する【ベノムセイバー】。


 流れる風景に、竦む思いは有るものの……押さえ着けられる自らの身体の方が辛い。 クリティカルは元々、馬車にすら殆んど乗った事が無い。


 【アーク】に来る前、『馬が居ない馬車』の加速ですら目眩が起きそうだったのだ。




「慣性制御システムで、Gが極限まで消せるとは言え……射出時に喋らない方が良いぜ?」


「は、早く言いなさいよ……。

相当つらかったわよ」


「坑ベノム因子が高くない奴は、『辛い』じゃ済まねえぜ?」


「えっ?」


「【ベノム化】した巨大生物が、巨大化前と同じ以上の機動力で動けるシステムを【ベノムセイバー】は再現しているんだ。

坑ベノム因子の低い奴は、さっきの急加速で脳も内臓もグシャグシャになるんだ」


「……あっそう」




 VRの練習と、ある程度【ベノムセイバー】側から姿勢補佐されており、幾らか慣れてきたクリティカルは安定した低空飛行を続けてられている。


 高速で過ぎてゆく地面も、スクリーン越しゆえか……さほど恐怖は無い。




「……ひょっとしたら、コレが兄さんの見ている景色なのかもしれないわね」


「クリティカルの兄ちゃんは、空関係の仕事をしてんのか?」




 二郎は、ヘリや飛行機関係の仕事という意味で聞いたのだが……当然クリティカルの世界に、『空の仕事』など無い。

 しかし、クリティカルは疑問に思う事を止める。




「……羽根が生えているみたいに、私のずっと先を進んでいるの。

何時か……私の手が届かなくなる日が───何処か遠くへ飛びたつんじゃないか……ってね」


「…………。

オレなんかより頭が良くって、オレなんかより運動神経抜群だったオレの兄ちゃんも……先へ、先へ行って行って───

……死んじまった」


「…………」


「……っと、ツマンネー事を言っちまったな。

クリティカルの兄ちゃんは生きてんだろ?

賢いクリティカルの兄ちゃんなら、全部わかってるさ」


「……ええ」




 そこそこ自由に飛べるように成った頃、壁に光点が出現する。 光点が拡大され、映しだされたのは……巨大なスズメバチ。




「───追い付ける。 追い抜ける。

確かに、偉大な人だけどよ……オレ達にだって羽根は有るんだ!」


「臭い台詞ね」


「うっせ」




 微か。

 微かにだけ、口元に笑みを浮かべるクリティカル。




「……兄さんを、遠くへなんか行かせない!」


「ああ!」




 現実も【機鋼神ベノムセイバー】も含め、クリティカルにとって生まれて初めての戦闘であるが……苦戦しつつ、【ベノム化】したスズメバチに勝利。


 【アーク】へと帰る途中、【仮想現実装置】(パーシテアー)により起こされ……キュアの大怪我を知るクリティカル。


 暴走しながらも───決して、キュアを『遠くへ』は行かせなかった。

 

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