189 村人の妹、『鎧』に出会う。
「───えっと……『目のマーク』は、視覚だけVRにダイブする方式よね?」
キュアが大事にしている【仮想現実装置】。 当然、クリティカルにとっても大切なものである。 休暇を貰ったクリティカルは、【仮想現実装置】の知られざる機能の調査をし、キュアに役立てようとしていた。
「……って事は【ドラゴンハーツ】と同じマークが付いてる、この───
【機鋼神ベノムセイバー】っていうのはフルダイブ型なのかしら……?」
クリティカルが注視するのは、『鎧っぽいの』を着こんだ者が魔物と戦う絵が描かれたアクティビティ。 ただし、回りの人間と比べて『鎧』の人間の尺度がおかしい。
……身長10m以上は有りそうだ。
「【ドラゴンハーツ】の絵も、巨大生物が描かれてるし……この鎧の巨人と魔物を倒すアクティビティなのかしら?」
回りの人間は、『鎧』を補佐している……ように見えなくも無いがハッキリとはプレイせねば解るまい。
「───女は度胸よね。
【仮想現実装置】、このアクティビティをプレイするわ」
≪【機鋼神ベノムセイバー】はフルダイブ型です。
宜しいですか?≫
「ええ」
≪【機鋼神ベノムセイバー】にフルダイブします───≫
……そして、クリティカルの意識は暗転してゆく。
◆◆◆
「───うっ……」
目覚めたクリティカルは、街……の『よう』な所で倒れていた。
「……こ、ココは…………火災現場?
街中が火事なのかしら?」
何故『よう』なのかと言えば、目に映る景色の全てが炎に包まれていたから。 倒壊した建築物も、道も、あの……人の形をした物も。 地獄としか形容出来ない景色である。
「あの日……兄さんが助けてくれなければ、【アジルー村】も『こう』成っていたのね……」
魔物退治しか働き口が無かったキュアが、領主館で働き始めた。 魔物退治のような、危険な仕事をしなくても良くなった。
しかし。
ソレが理解できない愚者たちは、放火宣言をしてまでキュアに魔物退治を強要。 挙げ句にクリティカルを襲い、キュアの逆鱗に触れたのだ。
キュアはクリティカルを庇いながら【アジルー村】の人間を行動不能にし……クリティカルを救ったのである。
「とにかく、ココから逃げ無いと……」
『ギシャアアアっ!!』
「きゃっ……?
……あ、あの魔物は、アクティビティの絵の??」
クリティカルが炎を避け、逃げだした先の倒壊した建築物のカゲから……魔物が出現する。
ソレは、家より巨大な『百足』。
現実では『不動のクリティカル』というアダ名を持つ、強力な防壁魔法の使い手も、【仮想現実装置】の中では無力だと実証されていた。
今のクリティカルは……無力な、唯の17歳の少女なのである。
「なら、コッチの道に───」
「うわあん……お母ぁさーーん!」
「……っ!?」
百足が視界に捉えたのは……クリティカル、では無く6歳ぐらいの腰を抜かした少女。 あの少女を狙い、百足は姿を現したようだ。
「……見知らぬ他人の子供なんか……」
クリティカルは子供が嫌いである。
子供は残酷で、親の魔ナシ差別を嬉々として真似る。
【アジルー村】の子供は皆、キュアを見掛ければ石を投げていた。
遊びで。
クリティカルは子供が嫌いである。
「───ああ、もうっ!」
「……あああ…………ぁ?
……お姉ちゃん、誰?」
「誰でも良いでしょうっ!?」
百足に近付き、少女を背負い救出するクリティカル。 余裕など無い。 怯える少女に怒鳴りつけ、必死に走る。
獲物を奪われた百足は、追ってくる。 新たなる獲物となったクリティカルをもターゲットにして。
◆◆◆
「はぁ……はぁ……」
「お、お姉ちゃん……」
決して諦めぬ百足。
クリティカルと少女は……見た事もないツルツルの一枚岩で出来た超巨大建築物の路地中……袋小路に追い詰められていた。
「くっ……」
「お姉ちゃん……ゴメンなさい…………。
アタシの所為で……」
「…………。
貴女の所為じゃ無いわ。
逃げ道が無かったんだもの……いずれ私も───」
『ギシャアアア!!』
「っっ!!」
クリティカル達に巨大百足の顎門が迫る。 もう駄目かと思われたその時───
「伏せろっっっ!!!」
「「っ!?」」
何処から、誰から、一切分からねど……クリティカルは辺りに響く声に合わせて咄嗟に伏せる。 同時に、クリティカル達の上を通過する『何か』。
視線だけ上げても……何も無い。
声の主も。 百足も。
「む、百足の攻撃……!?」
「このオレの一撃を、そんなんと一緒にすんなよ!」
「…………!?
さ、さっきから何処から声が───」
若い男。 ソレだけは分かる。
だが音が拡散しており、発生源が分からない。 そもそも、人間の声帯で出せる音量では無い。
「ココだココ!
後ろのビルの屋上を見てみな!」
「び、びる……?
この建築物の事───」
巨大建築物の屋上……ソコから、百足が藻掻きながら垂れ下がっていた。 やがて、動かなくなる百足。
百足の首 (?) を、大きな腕───いや、籠手が絞めていた。
「【ベノム】の生命反応消失……死亡を確認っと」
「べ……【ベノム】?
……【機鋼神ベノムセイバー】!?」
「おっ?
『機鋼神』は何の事か知らんが……【ベノムセイバー】の名前を知ってんのか?」
巨大建築物の屋上、百足の死体のカゲから表れたのは……巨人。
10mを超える、巨大な『鎧』。
【仮想現実装置】のVR、【機鋼神ベノムセイバー】に描かれた巨大鎧が……巨大百足を殺して、『剣と魔法の世界』の住人クリティカルの前に現れたのだ。
◆◆◆
「御嬢さん達、怪我は?」
「アタシ、大丈夫だよ!」
「そっか、良かったぜ。
ソッチは?」
「…………」
「なんだ? 警戒してんのか?」
「あ、当たり前でしょう……化物百足を殺す化物なんて…………」
背中の二本の筒から莫大な風を吹きだしながら、ゆっくりクリティカル達の前に降りてきた巨人。
キュアが【仮想現実装置】と出会う前、偶然倒せたという【岩亀】よりデカイ。 少女は、百足から助かった事を素直に喜んでいたが……クリティカルには恐怖しか無い。
「【ベノムセイバー】の名前は知ってても、コイツが正義の味方っつうのは知らねぇっぽいな」
「せ、正義の味方……?」
子供以上にクリティカルが嫌う言葉だ。
クリティカルにとって正義とはキュアの事。 ソレ以外の正義は、キュアを救わなかった。 【教会】など、正義の名の下に魔ナシ差別を推し進めてくる。
「あ、アンタみたいな巨人なんか知らないわよ!」
「巨人?
巨大ロボとは言われても、巨『人』とは呼ばれた事ぁねえな」
「アンタが巨人でなければ何なのよ!?」
「生体反応……嘘は吐いてねえな?
マジで、オレを巨人だとでも思いこんでんのか?
……待ってろ」
屈む巨人の胸から腹に掛けて、ガバッと開く。 中からは……赤髪だが、見ない人種の───しかし極普通の青年が降りてくる。
「オレの名前は『貞蔵 二郎』。
どうだ、イケメンだろ?」
「兄さんの一億分の一ぐらいにはね」
「……あっそ」
見た事のない事象の数々に……一杯一杯のクリティカル。
虚勢を張る事ででしか、もはや立って居られなかった。




