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186 村人、現実の服を縫う。

 

 【錬金ボード】を見ていたクリティカルとヘイスト、更にメイドや料理方見習いなど…………何時の間にか十数人の女性達で『ダークオーラ組』と『ダークオーラ組を慰める組』に別れて集まっていた。


 ───触らぬ神に祟り無し。


 女性陣からソッ……と離れ、料理長達のいるカウンターの前に避難したキュアは、【鍛冶ボード】【料理ボード】【裁縫ボード】を出す練習をしていた。 【錬金ボード】でコツを掴んでいたので、じゃっかん歪では有るものの三枚とも出すのに成功させる。




「んー……」


「どうした、キュア?」




 三枚のボードを眺めるキュアの隣に、通常の雰囲気に戻ったヘイストが来る。 キュアから少年扱いをされた(・・・・・・・・)事の有るヘイストは、一番の(・・・)ダークオーラ組(・・・・・・・)でもあった(・・・・・)が……だからこそ立ち直りも早かった。




「【料理】スキルだと、材料を全部同時に鍋に入れて数秒煮込むだけで出来るんだが……」


「なんだ、その羨ましいスキルは」




 クリティカルから料理修行中のヘイストは、偶に泣かされている。 クリティカルが厳しいのでは (たぶん) 無く、料理の奥深さに付いていけないのだ。




「レシピには、何故か手間暇掛ける『現実の作り方』っぽいのが載っているんだ」


「どれどれ……。

……このレシピは、プロが書いてるな」




 二人の料理長が【料理ボード】を覗きこみ、頷く。 素人が無視しがちな基礎こそ、しっかり書きこまれていたからだ。




「ただ、やっぱ知らん材料や高過ぎる材料も多いな」


「そうだねぇ……ケーキなんかこの量で砂糖を使うと、とんでもない金額になっちまうよ」


「【ドラゴンハーツ】だと、温かい地域で大量に育つ砂糖の樹が有るみたいですね。

現実の十分の一以下で売ってるんで。

ほぼ毎日玉子を産む鶏も居て、玉子も安いし」


「「おいおい、マジかそりゃあ?」


「は~……魔道具パーシテアーが作られた古代人の時代は、そうだったんだねぇ。

羨ましいよ」


「キュア、ゲーム(ドラゴンハーツ)を遣った古代人が、本物の料理を作ってみたく成った用だろうか?」




 キュア達の世界で流通する、美味い砂糖とは『とある樹木』から取れる樹液から精製された物だけである。

 その樹木は数が少なく、年間を通して気温の低いとある雪国でしか育たない。 取れる量・精製の手間暇から砂糖は高いのだ。


 また、玉子も品種改良されていない鶏しか居らず、約一週間に一回しか玉子を産まない。 ので玉子も高い。




「おっ、コッチは知ってて安い材料も多いな」


「へー……この方法だと、熱しても固まらないんだね。

現実でもそうなのか、早速試してみなきゃ」


「ちょっと待て。

オレはコッチのレシピを……ああっ、メモを取る暇がっ」




 未知なる料理の技法。

 日々、より美味い料理をと考えている二人の料理長達は先を争うように、興味の有る料理レシピをメモしていた。

 しかし二人は見たいジャンルが違うので、【料理ボード】の取り合いになっていたのだ。




【写し】(カメラ)で撮ります?」


「助かる」




 【料理ボード】のレシピを【写し】(カメラ)で撮り、写真を料理人達に渡すキュア。

 朱雀から、キュアの魔法で『無』から作りだされる『物質』は、『魔力原子』とかいう物であり……魔力しだいで維持力に差が出るとは聞いていた。




「母さんの解毒薬も、使わなければ数日で消えるんだたったな」


「らしいが、俺の魔力も昨日より少しは上がってきている筈だし……写真は、薄く特殊な効果が無いからか数十年単位で持つ気がするんだ。

俺の魔力が上がれば、更にもっとな」


「そう成ると良いな」


「ああ」




 メモ代わりの写真を弟子に預け、写本させる料理長達。 その間に、幾つか気に成った料理を試す。




「この分だと【裁縫】ってのも凄そうだな」


「【裁縫】も、やっぱり短時間で服一着が出来るんだ」


「羨ましすぎるぞ」




 家事をやる暇があるなら『仕事と槍の練習』……という思考回路だったヘイスト。


 料理は領主館からの『御持ち帰り』か『お惣菜』。


 服は……ここ三年、殆んど身長体型に変化が無い為に直しが必要ない。 制服を含め、『貰い物』だけで充分こと足りるのだ。


 だが……魔ナシ差別による魔物盗賊退治などで数日森に篭る事もあったキュアは、クリティカルにこそ劣るものの料理も裁縫もそこそこ出来る。

 少なくとも、ヘイストよりは。




「……ん?」


「今度はなんだ、キュア」


「仲間の装備欄に……今まで無かった分岐が出現している」


「仲間の装備?」




 【ドラゴンハーツ】の仲間、チェンやゾリディアの専用装備が有る部分だ。 確認していなかったが、イーストンやシーナの専用装備も載っていた。




「……誰のだ?

オードリーやバーン、ダイの分か?

……いや、たぶん【裁縫】を会得してから仲間に成らないと【裁縫ボード】に載らないっぽいんだよな」


「じ、自分のだったりして……」




 恥ずかしそうに、手を上げるヘイスト。




「ヘイスト───

……のは、駄目だ。

魔力と想像力不足で出来ない。

何時かは、出来そうなんだが」


「あ、あはは……も、もちろん冗談だ!

気にするなっ!?」




 かくいう、ヘイストが一番気にしているように見えるのは気のせいか。 話題を不自然では無い程度に変えるキュア。




「服かあ……コレは写真と違って、魔力原子とやらが直ぐに消えるイメージが有るから商売には成らんなあ」


「しかし、コリアンダー様から言われて、【鍛冶】で討伐隊用の武具は打っているんだろう?」


「アレは支給された、現実の鉄だから───あ、そうか。

【裁縫】も、コッチの糸や布で代用できるかもしれんのか」


「試すのかい?

だったらオバちゃんの名前を出しな。

裁縫関連を仕切っているのはオバちゃんの妹なんだよ」


「有難うございます。

今から行ったら失礼ですかね?」


「アソコは交代制で24時間動いてるから大丈夫だよ」


「分かりました」




 未だダークオーラを放っていたクリティカルを宥め、食堂を後にするキュア達。



◆◆◆



「おー、君が噂の。

姉の頼みなら糸も布も持ってって良いけど、君のスキル? とやらに興味が有るんで見てて良いかい?」


「良いですよ」




 領主館の裁縫室。

 ざっと20人ほどの針子さんと室長が、様々な作業を行っていた。

 使用人の制服を手直ししたり。

 包帯やガーゼを作ったりもしている。




「門番時代、よくココには世話に成っていたんだ」


「ヘイストちゃん……目ぇ見えるように成ったから、またアタシの仕事が増えるわねぇ」




 オバちゃん料理長の妹だという室長は、嬉そうにヘイストの頭を撫でる。

 領主館内でヘイストの人気は高い。


 綺麗な布を一着分貰うと【裁縫ボード】を開き、【裁縫】スキルを発動させるキュア。




「編み棒?」


「魔力の塊だね?」


「んーと、試しに【チェンの防御服】を作ってみるか」


「如何すん───ええぇ!?」




 キュアが編み棒を、現実の有りふれた白い糸と布に当てがうと……糸と布が踊るように空中を舞いだした。

 神秘的な光景に……室長や針子、クリティカルやヘイストとヘイストの母親も目を奪われる。




「き、キュアさんが編むって言うより……布が自ら編まてれるって感じだねぇ」


「魔力の編み棒だから布をスリ抜け……え?

今、糸ごとスリ抜けた!?」




 トンネル効果もビックリの不思議裁縫である。 程無くして編みあげられたのは、純白の子供用フリフリドレス。 ただし、【鑑定】ではチェンの名前など付いておらず、【フリルのドレス(白)】とあった。




「兄さん……?

まさかこんな小さな娘とエッチな夢を?」


「クリティカル?

ソレだけはホントに駄目だぞ?

……この服が出来た時、クリティカルには何一つお洒落をさせて遣れなかった事を思いだしたよ」


「兄さん……」




 さすが天然タラシのキュアは、さりげなくクリティカルの感情の矛先を嫉妬から兄デレへと変えさせる。




「魔人族ナンチャラは分かんないけど、子供服で背中が空いたデザインはねぇ……。

でも創作意欲を掻き立てられる服だよ」


「大人用には出来ないのかい、キュアさん?」


「サイズは……たぶん出来ます。

ただ、デザインは俺じゃなくスキル……というか【ドラゴンハーツ】が作っていますんで無理みたいですね」


「あと何種類ぐらいの服が有るんだい?」


「えーっと……。

仲間の専用装備が7着、汎用装備が20着ほどですね」


「プロでも、縫える種類は5つも無いって場合も有るからね……」




 幾つかの服を縫い、専門家へと見せるキュア。


 女性用下着といえば『ドロワ・ズロース』といったタイプしか無い現実で、『ショーツ』という服を縫った時は……明らかに女性用下着と分かる服が、どんどん自分の手の中で出来あがっていった時は泣き叫んだが。

( 女性陣には感心されたが。)

 

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