185 村人、取敢ずいつか獲得しようと誓う。
「まあ冗談はコレぐらいにして」
「「「…………」」」
キュアから渡された【ドラゴンハーツ】内の『道具』である【毒治療薬】にて身体中の毒が消え去ったヘイストの母親。
毒由来の失明が治った彼女だが……失明より、若返った姿の方を喜んでいたのは───キュアの気をほぐす為の演技だったようだ。
……そう、言いはっている。
「す……済まない、キュア」
「ヘイスト……」
「母さんは元々───
物や地面の形、人の気配を認識する『魔力の流れを肌で感じる』という特殊能力で、最低限の生活は送れていたから……」
「これ、ヘイスト。
まるでアタシが、再び目が見えるように成った事を喜んでないように言うんじゃ無いよ」
「そ、そこまでは言わないけど……」
「キュアさん、冗談めかして言ったけど……本当に心の底から感謝しているんだよ。
……有難うねぇ」
「……はい」
アシッドが襲来し、瀕死の怪我を負ったキュアに的確な応急処置をしたのはヘイストの母親だ。
魔ナシ差別を受けてきたキュアは、恩人を絶対に見捨てない。
「みるみる内に、目が見えてきてねぇ……身体中の疲れや痛み、序でに肌の彼是も取れたし」
「はは……。
( まあ本人が喜んでいるなら良いか )」
39歳の彼女が、20代後半に見える。
前職である冒険者で、アイドルだったのは伊達では無いらしい。
そんな彼女の若返りに……メイド長リカリスの、ダークオーラが半端無い。
「キュアさぁぁん?
解毒薬が無いなら……解毒魔法は有るんですよねぇぇぇ?」
「ど……【ドラゴンハーツ】だとキッパリ別れている『毒』と『病』は、現実だと曖昧なので───正直、【病忌避】と【毒忌避】の効果も良く分からないんですよね」
「毒が原因の病気だって有るものな」
「ソレでも良いので!
20代の、あの肌を!」
何故、20代半ばの筈のリカリスが20代の肌を欲しているが……誰も突っ込まない。
領主館最大のタブーなので。
「じゃあ序でに……【拡散超毒忌避】!」
「「「お、おお……」」」
体内の毒を完全に消去する【超毒忌避】を、拡散化して唱えるキュア。
見物していた他の使用人たちも、その影響を受ける。
「最近続いてた胃のムカムカが……?」
「私は偏頭痛が治ったわ……!
……えっ? 毒?
私、頭に毒が有ったの!?」
「蘇れ!
黄金期の、あの肌よ───……あ、あら?
あらあら?
……キュアさん?」
気持ち、血色が良く成った程度のリカリス。 キュアを、射殺さんばかりに笑顔で睨んでくる。
般若。
コレは……キュア達の世界では、まだ認知されていない細菌やウイルスも関係するのだが───やはりキュアの『思い込み』も作用する。
ヘイストの『眼病』は『病』。
母親の『失明』は『毒』といった風に。
「り、リカリスさんの体内に、毒は殆んど無いって事ですかね?」
「キュアさぁぁん……!」
「じ……じゃあ、【拡散病忌避】に【拡散癒し】」
「す、スゲェな……さっき擦りむいた傷が一瞬で消えたぞ」
「私は風邪が治ったっぽいわ」
「キュアさんの……アシッドの時の、あの大怪我を考えればねぇ」
皆が、怪我が治っただの病気が治っただの騒ぐ横で……死んだ目をしている者が。
『彼女』のアンチエイジングは完璧だったらしい。
「キュアさん……なんかもう……ズバリそのまま『若返り薬』とか有りません?」
「生贄を求める邪竜退治の御礼で (恫喝して) 貰ったレシピ集の中に、【健康ドリンク】とか言うのは有りましたけど……たぶん【癒し】と同じ効果ですね」
「そう……」
沈むリカリス。
だが、そのオーラは強まった。
後の世で『美のカリスマ』と呼ばれし者の誕生日である。
◆◆◆
「しかし……キュアさんから溢れ出るチカラは、益々強くなってゆくね」
「【ドラゴンハーツ】は楽しいですし、朱雀も居ますから」
午後の仕事を終えて、夜の食堂。
倉庫整理や【鍛冶】による討伐隊用の武具を打ち終えたキュアは、仕事を見物していたヘイストの母親から感心されていた。
しかし、クリティカルからすればキュアの魅力は魔法やスキルでは無い。
朱雀の強要にも、一言無くもない。
「兄さん……あまりに朱雀が酷いのなら注意しましょうか?」
アシッドに取り憑き、欲望を増加させて街の一部を破壊した朱雀。 キュアは瀕死の重傷を負い、クリティカルや領主館の皆にも迷惑を掛けた。
が……死者は、魔ナシ差別を推奨する教会関係者や犯罪者ばかりである。
しかも、魔ナシを擁護してくれた。
朱雀自身にも、キュアを『勇者か魔王にする』という謎の目的は有るようだが……キュアは朱雀を憎めない。
勿論、クリティカルもソレは分かっている。
「───【ドラゴンハーツ】の中で、仲間を犠牲にするとんでもない魔法が有るんだが……朱雀に言われたよ」
「……なんて?」
「その杖一本分の強さが足らなかった所為でクリティカルが死んだらどうするんだ……ってな」
「…………ズルい女」
「ああ、全くだ。
そんな事を言われたら、俺はどんな魔法だって会得せざるを得ない」
「兄さん……」
所構わずイチャイチャし始める兄妹に、思わずヘイストが割って入る。 ソレをニヤニヤしながら見詰める領主館の同僚たち。
と、ヘイストの母親。
「きっ、昨日から更に色々と魔法やスキルを会得しているようだが……どんな物が有るんだ?」
「生産系スキルだと───
【鍛冶】以外に、昼にリカリスさんと話した色んな薬を作る【錬金】。
コックさんと話した【料理】。
服系防具を縫う、【裁縫】かな」
「【裁縫】か……。
ソレはちょっと、まだ勉強中で……【料理】も……」
何かを想像し、頬を赤らめるヘイスト。
「さっきリカリスさんとすれ違った時、凄くどんよりしていたけれど……【錬金】の色んな薬って?」
「んー……と」
キュアが【錬金】の事を意識すると……何やら、色々と文字が書かれた灰青色の板が空中に出現する。
「あ、コレ……【錬金ボード】だ!?」
「兄さん、この『板』その物が魔力で出来ているわよ?」
「料理用オーブンで、剣が打てる【鍛冶】みたいに……魔力と想像力しだいで拡張される能力なのかな?」
本来の【錬金ボード】は、スキルその物では無い。 飽くまで、スキル等を統括する【ドラゴンハーツ】のシステムである。
試しに、魔法でもスキルでも無い【マップボード】を出そうとして───やはり無理だった。 しかし、孵る寸前の卵とでも言うような雰囲気を感じたキュア。
何時かは出来るかもしれない。
ソレは扨置き、【錬金】で作れる薬などのレシピが書かれた【錬金ボード】を覗きこむヘイストとクリティカル。
「どれどれ………………───ファッ!?
……く、クリティカル」
「なあに、ヘイス…………───っ!?」
ズラッと並ぶ、意味不明な薬品名の中……とある薬品を見て、固まるクリティカルとヘイスト。
あまり見ない二人の表情に、キュアが不思議がる。
「どうしたんだ?
変な薬でも有ったか?
急いで神薬を作らなきゃ成らない状況だったから、新しいレシピはちゃんと確認してないんだが……」
「み、見るなっ!?」
「???」
「に……兄さん?
【クイーンミノタウロスの乳腺】ってのと……【ホルモンDX】っていう物───持っているかしら?」
「いや……知らんなあ。
ミノタウロスは、極まれに出てくる手強い魔物だが……」
「そ、そう……」
ヘイストとクリティカル。 なにやら協力し、共感し、共に落胆していた。
……御互いの、身体の一部を見下ろして。
敢えては触れないキュア。
何故だか……絶対に触れるべきでは無い、嫌な気配がビリビリと突き刺さってくるので。




