184 村人、写真を見せる。
「却下だ」
「くっ……」
領主館執事室。
キュアは、執事コリアンダーに呆れられていた。
朝食前、【仮想現実装置】のアクティビティの一つであるリバーシを、木材で作っていたエロジジイズ。
キュアは彼等にトランプは作れないか尋ねた所、
『紙じゃあるまいし木材だと手触りで均一化が出来ない』
と、言われたのをヒントに、【写し】でトランプを作ろうとした。
【火球】が炎を作る魔法なら、【写し】は紙を作る魔法。 しかも手触り・裏面の見た目・サイズ、全て完全に同一である。
試しに、クリティカルや食堂にいた使用人……コック・ボーイ・メイド達を【写し】で撮り (コックはスペード、メイドはハート、といった感じで別け)、1から13までの数字を書き込みトランプを自作してみたのだ。
【写し】で撮った写真は、20cm四方の正方形なので、ババ抜きには使い辛かったが……商売の種ぐらいには成るかと期待したキュアは、コリアンダーに見せるも───一発却下されてしまった。
「確かに紙だろう……しかし、一言で『コレ』を『紙』と呼ぶが何の紙だ?
手触りが良すぎる。
質が均一すぎる。
コレはハッキリ言って、国王への献上品レベルだ」
「は?」
「こんな物を、市井に売ってみろ。
国軍がこの領内に攻めて来かねんぞ」
「た、たかが紙で?」
「たかが、のレベルを越えた紙だ。
無論、攻めて云々は最悪の想定だが……ソレより軽くとも、領主様や領主館の面々に迷惑をかける。
お前もクリティカルと会えなくなるかもしれんのだぞ」
「…………」
電話もネットも無い世界。
長距離情報伝達手段の手紙・後世に情報を残す本・共有せねば成らない書類……雨風・火事といった事故による筆記媒体の破損は、そのまま永遠に情報を消失しうる。
紙以外の筆記媒体、皮羊紙やパピルス紙は高価であったり大量生産に向かなかったり。 安価で良質な紙を作るのは、列強国の義務なのだ。
『驚異の技術』で作られた紙は……火種の塊なのである。
「……分かりました。
【写し】は封印します」
かなりショックを受けるキュア。
商売の種に成らなかった事は、残念ではあるが───ソチラでは無く、『クリティカルに会えなくなる』という方が遥かにショックだった。
「……う"うんっ」
「コリアンダー様?」
「ま、まあ……封印は大袈裟だろう。
領主館内なら、そう事は大きく在るまい」
「はあ……?」
「そ、その……この写真? か?
コレその物は素晴らしい」
「ですよね。
この『4』のクリティカルは会心の一枚だと思っています。
いや、他のクリティカルも美人ですけど……クリティカルは恥ずかしがっていましたが、家宝にしますよ」
「うむ」
コリアンダーは、写真を見ながら……やや頬を赤く染めていた。
写真のクリティカルに魅とれて───では無く……コリアンダーも、愛する家族写真を欲してであった。 キュアの、家宝発言は良く分かるし……なんなら若干嫉妬すらしていたのだ。
「トランプ作りの後、領主館内で付き合っている恋人達がこっそり二人の写真を要求してきたり」
「ほ、ほう……!?」
なんて裏山。
最近、仕事に忙殺されている。
( キュアが原因の仕事も多いが。)
ストレスの多いこの仕事。
仕事中に、せめて一時写真を見て癒されたって良いじゃない。 人間だもの。
「( が……しかし )」
「?」
愛する家族の、記念写真。
頼んだら、キュアは快く引き受けてくれるだろう。 もちろん謝礼も出す。
しかし。
しかしだ。
家族写真を撮るに当たり……コリアンダーには一つ、懸念が有る。
『キュア』に、愛娘を会わせる事への不安だ。
娘がキュアに惚れたらどうしようとコリアンダーが悩んでいると。
「あ、トランプを見せるのに慌ててましたけど……これ、娘さんの写真です」
「はっ!? 娘っ!?
なんでキュアが娘の写真を……!?」
「トランプ用の写真を撮っている時に、コリアンダー様の忘れ物を娘さんが持って来られて。
父の仕事の邪魔は出来ないと会わずに帰る途中に『私も一枚撮って下さい』と」
「……………………。
……娘は、お前に何か言っていたか?」
「はい、父を宜しくと」
「……………………。
……お前から娘にナニカ有るか?」
「クリティカルと仲良くして貰っているそうで。
此方こそ宜しく、と」
「……………………。
……分かった、トランプは無理だが【鍛冶】などは期待している。
下がれ」
「はい、失礼しました」
トランプが商売に成らないと分かり、消沈していたキュアだが……まあ、逆境には慣れている。 【鍛冶】でボーナスも確約されていた。
引きずらず、執事室を退室するキュア。
「……………………」
逆に引きずりまくっているコリアンダーは……不意に手に入れた愛娘の写真で、ストレスを癒していた。
仕事中に、せめて一時写真を見て癒されたって良いじゃない。 人間だもの。
◆◆◆
午前の倉庫整理を終えて昼。
「へー、カレーねぇ。
香辛料は知らん奴ばかりだが……小麦粉でトロミを付けて───うん。
面白そうだ」
キュアは【ドラゴンハーツ】内で何を食っているのかという話から、ゲームオリジナルの料理を写真付きでコックに説明しつつ昼食。
「……結局、朝食に続き昼食にもヘイストを見なかったが…………」
「オレ等も見てねーんだよ」
「どうも、領主館に来ていないみたいね」
領主館で働く者は、キュア達のように住み込みで働く者の他に、通いの者も居た。
ヘイストや以前のクリティカルも、そうである。
「昨日、八部伯衆と戦った後……元気だったが一応【癒し】を掛けていたんだが……」
「風邪かね?」
「お母様の目を治す、解毒薬を持って帰ったんでしょ?
……効かなかったとかかしら?」
「ならば、【毒忌避】や【超毒忌避】を会得したのだし……仕事終わりにヘイスト家へ───」
等々、同僚と話していると……メイド長リカリスが食堂にやってきた。
彼女ならヘイストの現状を知るハズだとキュアが呼ぼうとし───
「キいいぃぃぃュぅぅぅアぁぁぁぁぁさんンンンンンンンンンンンンン?」
「は……ハイ?」
鬼気迫る迫力のリカリス。
基本なんでもこなし、何時も冷静な彼女らしくない雰囲気だ。
何か、失敗を遣らかしてしまったかとキュアが領主館での仕事を振り返っていると。
「『老化』って、『毒』なのかしらぁぁぁぁぁ?」
「は……ハイ?」
掴み掛かりながら、謎の質問をしてくるリカリス。 キュアの鍛えられた腕の筋肉が、リカリスの細指でミシミシ言っていた。 痛い。
「し、質問の意図が……???」
「……………………はあ。
使用人の休憩室で、貴方に御客様よ」
「俺に客?」
キュアの知り合いと言えば、領主館か【アジルー村】の人間……後は討伐隊のシナモン関係ぐらいか。
客など心当たりの無いキュア (と、リカリスの様子から面白い事に成りそうだといった理由で他の使用人達) は休憩室へ。
ソコに居たのは……。
「ヘイスト?」
「き、キュア。
おはよう……というかもう昼だが」
「どうしたんだ?
昨日の八部伯衆との疲れか怪我か?」
「いや……そういうんじゃ無くてな」
言って、ヘイストは後ろに座る女性をチラリと見る。 帽子を目深に被り、顔は良く見えないが……全体像から20代後半に見えた。
「どちら様だ?」
「……くふふ、分かんないかねぇキュアさん?」
「えーっと……」
声を聞くに、やはり30は越えて無さそうな女性。 気配には何となく覚えが有るが……。
「アタシだよ、キュアさん」
「……誰?」
立ち上がり、帽子を取る女性。
美人というより、可愛らしい顔立ちで…………『男っぽさを抜いたヘイスト』といった感じの───
「───っ!?
ま、まさか……」
「いやあ、毒は失明だけじゃなくて色々と悪影響を与えてたみたいだねぇ」
「へ……ヘイストのお母さん!?」
「か、カワイイ……」
「……え? ヘイストの母ちゃんって確か40前……」
「くふふっ」
ヘイストの母親は、39歳。
毒の影響や若くして旦那を亡くし苦労したからか、染みソバカスに皺も年不相応に多く……下手したら50近く見られる事も有った。
そんな彼女が20代後半に見える。
リカリスの様子がオカシかったのは、彼女の若返りっプリかららしい。
「キュアさん……有難うよ。
若い体がこんなにも美し───楽だなんて……!」
「いや……あの……。
俺は、視力の方を───」
「キュアさんンンン?
解毒薬は……持っていないんですかぁぁぁぁぁ?」
「ぞ、【ゾンビ化】で、イーストンとシーナに全部───」
美の執着……己の中には無い執念に、ビビるキュア。 クリティカルの写真でも眺めて、心を癒したい。




