183 村人、商売の種を逃す。
【ドラゴンハーツ】というVRを見ていたキュアの脳に、疲れを検知して強制ログアウトを宣言してきた【仮想現実装置】。
「も、もう少しだけ……せめてシーナが落ち着くまで───」
≪前回、プレイ時間延長を 「今夜だけ」 と言い……ソレをユーザー名・キュアさんは承諾しました≫
「うぐ」
領主館仲間であるヘイスト。
彼女の母親の、毒が原因による失明を治療するため【毒忌避】を入手しようとしていたのだ。
結果としては、【毒忌避】を手に入れるより先に【 道具箱 】から【毒治療薬】を朱雀の協力で取りだせたので、現実では【毒忌避】に拘る必要は無くなったが。
≪コレでも……本来は【ロス村】で【神薬】作りの最中に、脳の疲れを検知していたのです≫
「さ、サービスしてくれたんだな。
今までより長く、【ドラゴンハーツ】の中に居れたとは思っていたんだが」
≪今回のプレイログを見るに、移動が非常に多いです。
ユーザー名・キュアさんは移動中、意識レベルが低下します≫
「い、意識レベル?? 寝てるとか?
いや、【ドラゴンハーツ】プレイ中は寝ているのだけど」
≪今回に限り、無意識で出来ているという意味に成ります。
この時は、【仮想現実装置】の脳への負荷が低減します≫
「ほう」
≪【ドラゴンハーツ】に於いては【ファストトラベル】というシステムで、戦闘や魔法・道具を使用しない限り、長距離移動は負担軽減されます≫
「そりゃあなあ、現実で二日間も不眠不休で走り続けるなんて不可能だしな」
既にマップボードに記載された場所へ行く場合、特に急ぐ場合、そういったアレコレを感知して【ファストトラベル】は行われる。
確かに言われてみれば、【ロス村】【漁村】【名も無き集落】間の移動の時の記憶はアヤフヤなキュア。
元々現実でもしょっちゅう長距離移動を経験しているのに加え、【ドラゴンハーツ】と【仮想現実装置】慣れた証左なのであろう。
「なら、後ちょっとぐらい……現実の俺に【癒し】と喋らすだけで───」
≪序でに、「クリティカル、俺の子供を産んでくれ」と喋らせて宜しいでしょうか≫
「!??」
≪……強制ログアウトします。
宜しいですね?≫
「…………ハイ」
かなり名残惜しいが……【仮想現実装置】はキュアにとって───人生の、命の、大恩人なのである。
逆らえよう筈も無い。
脅されたから、では無く。
「主様」
「朱雀……!?
この、世界が止まっている中で、動けるのか!?」
「肉体である【魔神城の鍵】は動かない……というより、存在停止しています。
今は身体を魂で、内側からでなく外側から操っている状態ですね」
「そ、そうなのか」
「ソレより主様。
現実に戻られたら【魔神城の鍵】を、本体の朱雀に御渡し下さい」
「分かった」
「……主様」
「なんだ?」
キュアに応える事は無く───
【魔神城の鍵】の朱雀は、無言でキュアに抱きつく。
「すっ、すすす……朱雀!?」
「……楽しかっ───」
キューブに戻る、【魔神城の鍵】。
「───……。
済まない、【仮想現実装置】。
最後に、【 道具箱 】だけ唱えさせてくれ」
≪…………≫
「有難う、【仮想現実装置】」
キューブを【 道具箱 】に仕舞うキュア。 抱きつかれた所の、熱を感じたまま───キュアの意識は、闇に落ちる。
◆◆◆
「───御早う、兄さん」
現実の朝。
目覚めたキュアを、クリティカルが気遣ってきた。 その普段通りの笑顔を見るに……たぶん、変な事は口走ってはいない。 筈だ。 もしそうならクリティカルは今頃暴走状態の筈だから。
「…………ぉはよう……クリティカル」
「に、兄さん?
疲れが取れていないのかしら?
昨日は兄さん、激戦を繰り広げたんだもの。
何なら、今日は御休みする?」
現実の昨日、キュアが八部伯衆という限りなく神に近い魔物を狩った事を心配しているクリティカル。
割と命懸けの戦いだったが……【アジルー村】の肉盾として育ってきたキュアには日常茶飯事である。
そんな事より頭が重いキュア。
徹夜した重さである。
本来は『【ロス村】で【神薬】調合中に脳が疲れた』そうだが……ソレから暫く経ってからログアウトした。
───【癒し】を唱えぬまま。
その重みだろう。
子供の如き好奇心のキュアの事。
約束を破り、時間延長要求してくる事を想定していた 【仮想現実装置】の仕業らしい。
そしてその通り、キュアは【仮想現実装置】との約束を破りかけたのだ。
つまり、この頭重は【仮想現実装置】の『お仕置き』。
本来の強制ログアウトより長く【ドラゴンハーツ】に居れたのは、サービスなどでは無くトラップだったようだ。
後で、機嫌を取らねば。
魔道具の喜ぶ物とは何だろうか……等々、疲れた頭で考えるキュア。 タラシ込ますコツは、マメなケアなのだ。
「今日は、【ドラゴンハーツ】の中に数日は居てな……ちょっと切り換えが要るだけで、大丈夫だ」
「……兄さん。
現実と……ゴッチャに成らないの?」
「クリティカル……」
「───私を置いていかないでね?」
「馬鹿を言うな。
【アジルー村】の家も、この部屋も……クリティカルが居るから、俺の家なんだ。
俺の家はクリティカルだ」
「兄さん……♡」
初期のフルダイブ型VRマシンでは、夢を現実だと思い込む人間が出た。
【仮想現実装置】には、在る種の『夢スイッチ』とでもいう物が有り、夢と現実を容易く切り換え出来るのだ。
本来……キュアのような、真面目かつ嵌まりこむタイプは、クリティカルが心配する事態に成りやすい。
が、【仮想現実装置】のお陰でキュアは守られている。
トラップに嵌めるだけでは無いのだ。
「 【癒し】……ん、問題ない」
「そう……良かったわ。
夢でも現実でも戦ってばかりの兄さんが心配だもの」
「現実はクリティカルを守る為。
夢は……まあ趣味の為だな」
クリティカルと朝の談笑をしていると───
「主様」
「朱雀。
おはよう……では無いのかな」
「主様の、よしなに」
神々しい気配を纏いし美女……朱雀が、窓から入ってきた。
……微か。
ほんの極微か。
だが……朱雀に、何らかの違和感をおぼえたキュア。 【魔神城の鍵】とは違う見た目とか、そんなのではなく───
「兄さん、何の話?」
「あ? ああ……。
昨晩はな…………」
昨晩の夢の内容を、クリティカルに語るキュア。
朱雀が、魂を【魔神城の鍵】に封印し夢の中に付いてきたと話すと……クリティカルはムクれる。
「そんな……ズルいわ、朱雀だけ。
私も兄さんと冒険したいのに……」
「人間の魂では不可能ですよ、主様の妹」
「そもそも!
兄さんみたいに魔ナシと呼ばれる事の無い貴女が、なんで【ドラゴンハーツ】の中が平気なの!?」
かつてクリティカルが【ドラゴンハーツ】に入った時、現実とは違う魔力・魔力操作法により、拒否反応を起こした。
本来───魔力の極限とも言うべき朱雀には、【ドラゴンハーツ】に入る事など不可能な筈だが……。
「……おや?
主様、妹には魔力操作できる者も【ドラゴンハーツ】の中に入れると御伝えなされないのですか?」
「「……はい?」」
朱雀が、「あれ?」という顔をし……兄妹も「え?」という顔をする。
「主様の妹が、魔力欠乏症と成ったのを我が創造主は見ておりました」
「朱雀の創造主……ま、まさか」
「人間の伝承では、この朱雀が『神のペット』と呼ばれているのなら……『我が飼い主』と呼びましょうか」
「か、『神』の事か……」
「エロジジイズとやらは、それぞれ剣と弓を選びましたが……ちゃんと現実でも魔力を操作し、スキルとして使えますよ?」
「ええぇ……?」
領主館執事コリアンダーは、実験の
為に ( キュアの許可の下で) 【仮想現実装置】の使用を許している。
領主館の仲間以外にキュア並みのチカラを有されても困るので、誰でもという訳では無いが。
しかし……仲間であるキュアはともかく、【仮想現実装置】を怪しむ者、使いこなす自信の無いチカラを得たくない者ばかりである。
現在、【仮想現実装置】を被った人間は『キュア』『クリティカル』『エロジジイズ大工』『エロジジイズ庭師』の四人だけなのだ。
「妹、貴女も【ドラゴンハーツ】に入り直せば【火球】を撃てますよ?」
「わ……私が」
「い、言われてみれば───何処かでそんな台詞を聞いた、よう、な?」
夢の中の夢……そんな気分のキュア。
「あの方は、【ドラゴンハーツ】内で主様と会われたそうですが……かの神気に、当てられたのかもしれませんわね」
「神気……」
【ドラゴンハーツ】内で、邪神の神気に当てられた者は【ゾンビ】と成った。 あまり良い気はしないキュア。
「……っと、朱雀。
【魔神城の鍵】のキューブを渡そう。
【 道具箱 】!」
「……確かに」
「凄く頼りに成ったよ。
仲間もみな、懐いていた」
「……『懐いて』?」
朱雀の片眉が上がる。
序でにクリティカルの眉も上がり、「仲間って女かしら? エッチな夢を見たのかしら?」とキュアを問い詰めた。
( 「イーストンは男だ」と、嘘は吐いていないが真実も語っていない手段で切り抜けた。)
◆◆◆
「あれ、二人とも起きてて大丈夫なんですか?」
「おう、兄ちゃん」
朝食を食べに食堂へ行く途中、庭で木材を切っていたエロジジイズを発見したキュア。
二人は【ドラゴンハーツ】をプレイした際……それぞれ鬱イベントに遭遇し、ショックで寝込んでいた。
あまりのセクハラっぷりに領主館女性陣から、「治すなら程々に」とまで言われる二人だが……彼等とて義に熱い領主館の人間。
VRとは言え、人死に場面を見れば寝込みぐらいする。
「昨晩は回復魔法を有難うよ。
今日一日は部屋で休むつもりなんだがな、流石に暇だろ?」
「そうですね」
「兄ちゃんにゃあ悪いが、【仮想現実装置】はちょい勘弁だしな」
「だもんで、『ばーちゃるりありてー』に慣れる用の『あくてべてー』ん中の、『りばーし』ってのを再現してみようってな」
「ああ、なんか有りましたね」
「デカイ板に線引いて、片側だけ色を塗ったチンマイ板を多数用意すりゃあ、現実でも遣れんだろ」
「確かに。
なら『トランプ』って奴は再現できますか?
アレの『ババ抜き』って面白かったんで、皆にもウケるかも」
「あー……ありゃあ、現実で遣るなら手触りも重要だろう?
紙なんて高いモン使えねぇし……木材だと無理だろ」
「なるほど……」
ちなみに、なろうテンプレの如く、この後リバーシは領主館内で大流行。
エロジジイズは商品化、引くほど売れたが……キュア達に悪いと思った彼等の子供や孫が、売上の一部を領主館に返却するのは───また別のお話。




