180 村人、光る少女を見る。
「【料理:LV0】……と」
「うむ、無事にスキルを会得できたな」
村民全ての【ゾンビ化】を治療した【ロス村】。
その夜。
キュアは、人間に戻ったゾリディアとシーナとで皆の食事の準備をしていた。
完全に【ゾンビ化】していた者の【ゾンビ】が治っても、その間失われた体力が直ぐに戻る事はなく……MP回復手段の乏しいキュアの【癒し】に頼る訳にはいかず、地道な手段で村民の回復に努める事となったのだ。
「キュアさん、ゾリディアさん。
今、村の者に聞いてきましたが……村の中に有る食材は全て自由に使って宜しいそうですわ」
「シーナ、君も一応【ゾンビ化】が治ったばかりなんだし……」
「ワタクシは症状が軽かったですし、キュアさんから頂いていた【HP回復薬】で、其処まで消耗しておりませんもの」
【料理】スキルの講習で、並び調理するキュアとゾリディアの隣に……シーナはソソソと寄り立つ。
「……其よりキュアさん?」
「ん?」
「ゾリディアさんは、心配しなくて宜しいんですの?」
「な、なんの事だっ!?」
「心配して無い訳じゃないがな。
ゾリディアは確とした戦士だ。
自己管理は俺なんかより、遥かにしっかりしている。
今は頼りにさせて貰うよ」
「……ふん」
顔を赤らめ、照れるゾリディアと……ゾリディアが【ゾンビ】だった時と、なんら変わらぬ態度のキュア。
「もちろん、疲れたら直ぐに言ってくれ」
「……ああ」
二人の様子を見ながら、クスクスと笑うシーナ。 やや寂しそうに。
「ただ心配して貰うより……羨ましい、かな?」
「だ、だから何の話をしているっ!?」
「?」
ゾリディアとシーナの、意味不明な会話にキュアが首を傾げていると。
「キュアー、食材持ってきたぞー!」
「主様。
この村に氷室は無かった所為で……ナマモノの幾つかは、腐っておりました」
「香辛料はソコソコ残ってたんだがよぅ……」
今、動ける者で【料理】スキルを持っている者が、キュア達三人だけだった。 といっても……他の生産系スキルのように、適当調理で料理が出来上がっていくのだが。
とかく、他の動ける者……チェンと朱雀とイーストンが、村と裏山から食材をかき集めてくる。
その食材で簡単な料理を作ってみたキュア。
「試しに作ってみたが───
ゾリディアの【料理】レベルは高くて美味いが……俺のは、まだまだ不味いなあ」
「初めてにしては上出来ではないか」
「妹が料理上手なんだ。
貧しい家庭だったが……舌は肥えているつもりだ」
「シスコンか」
「まあ否定はしない。
俺の魔ナシ含め、敵が多かったからな」
キュアが故郷の村で受けていた仕打ちは聞いている。 兄妹に両親が居ない事も。
助けあって生きてきたのなら───まあ……シスコン (と、天然) も仕方ナシかと納得するゾリディアとシーナ。
「オレも会ってみたいぜ」
「妹とイーストンは……あー…………」
嘗て一度だけ【ドラゴンハーツ】をプレイしたクリティカルは、イーストンと会っている。
しかし……『別の』セーブデータで。
そもそも、『セーブ』という概念じたい、キュアは持っていない。 テレビやネットが無く、創作娯楽という物がほぼ無い世界ゆえ『パラレルワールド』等の概念もない。
この辺、どう成っているのか……内心怖くて、余り触れられないキュア。
「そんな事より……俺の故郷では見ない食材ばかりだな」
「40人分以上作るし……カレーかな」
「『カレー』?
どんな料理なんだ?」
「香辛料をタップリ使う料理で、辛いが美味い。
しかも【状態異常:毒】の治療と、一定時間攻撃力が上がる」
「( 如何にも【ドラゴンハーツ】だなあ。)
どんな香辛料を使うんだ?」
「クミン・コリアンダー・リカリス・シナモン……」
「ちょ───……はあっ!?」
「なんだ?」
料理の材料に、知り合いの名前がドバドバと入ってきた。
クミン・コリアンダー・リカリスは、領主館の3トップの名前。 シナモンはキュアに魔ナシ差別をせず、自らの知識・技術を惜し気もなく伝えた者である。
突然の仲間の乱入に、軽く目眩を起こすキュア。
「あ……アレか?
【病忌避】や【強化】といった『アレ』なのか?
最近は無かったのに……」
「どうしたんだ、キュア?」
「いや……ちょっと説明しづらいんだがな。
ちなみに……カレー? 以外に使う、他の香辛料の名前は有るか?」
「香辛料なんて、私が知るのは百種も無いが……ソレでもこの世の香辛料の、ほんの極一部に過ぎん」
言って……ゾリディアが上げる香辛料名に、幾つか領主館メンバーや【アジルー村】で聞き知った名前が。 目眩がちょっとだけ大きくなるキュア。
「───と、こんな所か」
「……ハァ。
クリティカルの名前が出なくてホッとすべきか否か……」
「【クリティカル】か?
ソレ───は……」
「何だ、急に言い澱んで……ま、まさかっ!?」
【ドラゴンハーツ】の人間が、こういう反応を示すのは……キュアが購入していない『魔法名』に触れた時である。 効果そのものの説明はしてくれるが、『魔法名』となると、イベントに関係ある魔法以外は頑なにクチを閉ざしだすのだ。
「うーん……」
【仮想現実装置】は、魔道具である。
魔道具とは、過去の古代人が作った謎の道具である。
その中に入っている【ドラゴンハーツ】もまた、古代文明なのだ。
「───古代には、キュアとは『病忌避』という意味でも有ったのか……」
「はい?
現代でもキュアとは『病忌避』という意味ですよ?」
キュアが一人、仮説を立てていると……シーナ達が不思議そうに訪ねる。
古代人が作ったゲームの住人であるならば───シーナ達もまた、古代人なのかもしれない。
「俺の故郷とこの国は、一部文化が捻れて繋がっているのかもって話さ」
「「「???」」」
◆◆◆
領主館の同僚達と同じ名前の材料で作った料理は美味かった。
「ふう……材料が無いかもしれんが、故郷の妹にも教えてみるよ。
ゾリディア、【料理】スキルを有難う」
「いや、構わない」
「シーナも……序でに成ってしまったが、【裁縫】スキルを有難う」
「どういたしましてですわ。
チェンさんとゾリディアさんの着ている服は……?」
「シーナの【裁縫】で、キュアが縫ってくれた服だぞー!
竜退治にも役立ったなー」
「私もだ。
有難うシーナ」
「此方こそ、ワタクシ達の【ゾンビ化】を治してくれて有難う御座いますわ」
「ソレは私自身の問題でもある。
礼には及ばない」
口元を拭きながら立ち上がるゾリディア。
「キュアは、この村の人間を放っては置けないのだろう?」
「ゾリディア?」
「私は【名も無き集落】へと帰る」
「【ゾンビ化】……急がないとヤバイのか?」
「まさか。
村長達は、二千年前の劣化竜の心臓とは言え【神薬】を使っている。
キュアの【防毒マスク】も有るしな」
「なら……」と、言いかけ───黙るシーナ。 自分達【ロス村】の人間が【ゾンビ化】が治った場面を見たのだ。 ゾリディアとて、郷愁にかられるのも当然だろう。
「ワタクシ達……もう友達よね?」
「……ああ、当然だ」
「此方が落ち着いたら、【名も無き集落】へ行っても良いかしら?」
「彼処は【名を失いし神】……邪神の神殿の前に作られているからな……。
そもそも、北連山が危険だし……」
「あら。
ワタクシだってキュアさん程じゃ無くとも、それなりに強いのよ?」
「オレも付いてゆくしな。
オレの先祖が『その者』とやらなのか、知りてぇんだ」
イーストン達は『その者』について何も知らなかったし、記録のような物も無い。 だが……自分の所為で【ロス村】や周辺地域に、【バイオ工場】を使って毒をバラ蒔かれたという。
無視できる話では無い。
「仕方あるまい……分かった。
兄妹で、来ると良い」
「俺も、この村の憂いが無くなれば直ぐに行く」
キュアも宣言する。
【ロス村】を放って行くと、イーストンとシーナが無茶をしそうな気がしたからだ。
「ふふっ、キュアさん。
ゾリディアさんと一緒に行っても良いの───あら? ら? ……ら」
「しっ、シーナ!?」
シーナが……止まる。
まさか再び【ゾンビ化】かと皆が注視していると……シーナの身体が光っていた。
ソレは───魔力の光。
人成らざる、莫大な量の光。




